第一話


末期の夢、と言う訳では無いらしい。

私、芝村厚志は、クリスティナ・アイリス・ド・グラモンと呼ばれる“少女”になった。

間違いなく私はあの時死んだ筈なのに、今、私はここに居る。

三人の兄と両親。

それに双子の兄を持つ、貴族の娘として。

最初は末期の夢、と言うモノだと思っていた。

私にこんな荒唐無稽な夢を見る余地があるとは思ってもいなかったが、それならそれで楽しもうと、そう思ったのだ。

以前は、身体にちょっとした不具があった故に出来ぬ事があったが、ここではそれがないからと。

ただ、私の予想は少々違えてしまった。

末期の夢と言うには、この日々は長く、そして何よりも暖かい。

何がどうなったのかはわからないが、どうやら私は本当に生まれ変わったらしい。

本来ならば三途の川を渡る際に生前の記憶を忘れるはずなのだが、私は忘れ損ねてしまったようだ。

同性に変わるのならば苦労も少なかろうが、生憎と私は生前男だった訳で、この苦労は中々厳しくもある。

幸い、と言うべきだろうか。

赤子として一から学ぶ機会を与えられたのが幸運だ。

……ただ、問題が無い訳ではない。

ここでは生前の常識が通用しないのだ。

しかも生前の知識があるだけに半端に大人びた行動を取ってしまい、チグハグな印象を両親を含め、周囲の人に見せてしまうのだ。

まぁ、幸いにも良い両親に恵まれ、兄達もまた優しい。

多少、と言うかかなり女癖が悪い男衆に少々思うところが無い訳ではないが、恋愛は自由だからな。

何よりも、我が家の男達は確かに愛情を示して見せている。

普通の人から見れば十二分に問題のある話なのだろうが、私としては何かを言う気は無い。

だって、娘で、妹である私にはまったくもって関係の無い話だから。

流石に、私の友人に手を出して馬鹿な真似をしたら色々な意味で躊躇う気はないが。

それはともかく、私には問題が一つある。

知識や動作。

そう言ったモノではなく、貴族として致命的な問題が。

魔法が上手く使えないのだ、私は。

「ほら、見てあげるから、やってみなよ、クリス」

「助かる、ギーシュ」

と、言う訳で、双子の兄であるギーシュに見てもらいながら魔法の練習の日々を送っている。

今回挑戦するのは、土系統の基礎である錬金。

グラモン家は土系統のメイジの家柄で、母さんの方もまた同様。

兄四人もそうだし、私も系統は土だと思うのだが、上手くいかない。

今回も、ほら。

「……土のまま、だね?」

「うん」

やっぱり、失敗した。

コモンマジックはほとんど何の問題も無く使用可能。

それが属性魔法になると、どうにも上手くいかない。

「やっぱり、私の属性は土じゃないんだろうか?」

「ん〜、色々と試してみても出来ないみたいだし、案外そうなのかもしれないね」

まともに土系統の魔法が使えない事を考えると、これはやはり私の属性は風、と言う事になるんだろうか?

魔法は血統を標榜している貴族社会的に考えると、私は何代か前の属性が風の誰かの血が覚醒遺伝した、と言うのが一番正しく感じられる。

だが、それ以外の可能性を考えれば、私の中身が芝村厚志だから、と言う事になるのだろうな。

他の者の認識はまた違うらしいが、私の認識では魔法と言うのは精神力と言う餌を与えて “世界”を従えさせていると言うイメージがある。

餌の好みがあって、それが属性となる……って、私は考えている。

ただ四大にはそれぞれ対極に分類されるモノがあって、火は水を好まず、土は風を好まない。

その逆もしかり、と言う事のようだ。

ただ、それでも初歩の初歩である錬金ですら使えないと言うのはちょっと特殊なのかもしれない、私は。

「しかし、風系統となると、勉強のし直しだ」

「まぁ、それも良いんじゃないかな、クリスは勉強、好きだろ?」

「それは、ね」

流石は双子の兄。

私の性格を良く理解している。

無駄に大人びた私のせいで周りからはまだまだ子供と見られているが、これでも私の兄なのだ。

私を染めて、私に染まっているだけあって年に見合わぬ強さがある。

それを理解出来ぬ女にくれてやるのは勿体無い程度にはちゃんと育っているのが誇らしい。

こちらの世界で始めて私が蒔いた種なのだから。

ここでは、私もちゃんと育つ事が出来る。

向こうではただの夢でしかなかった種。

未来の守護者。

子供の護り手。

どこかの誰かの未来の為に命を賭ける者。

こちらではよりはっきりと、その道を歩めるのだ。

その手段として魔法はとても有用なのだから、手抜きなどは決してしはしない。

「じゃあ、今日は帰ろうか?」

「そうしよう」

以前影で侍従が言っていたのを聞いたんだが、こうやってギーシュに手を引かれて歩いたりするから言われるのだろうな。

アンバランスだ、と。

別に、陰口を言われたとこおで本気でどうでも良いのだがな。

私は芝村に憧れを持つただの貴族の子供。

それ以上でも、それ以下でもないのだから。

陰口に応えるのは大人になってからで十二分。

……ま、ギーシュにはそう言う事をしないように仕込みはするつもりではあるがな、陰口は叩かれるモノであって叩くべきじゃない。

父曰く、我々は命よりも名を惜しまねばならぬ軍閥の貴族なのだから。

ただ、私はそこに一つだけ追加しよう。

我々はどこかの誰かの未来の為に生きるのだ、と。

父母には悪いが、私は既に十二分に名を残した……と、思う。

クリスティナ・アイリス・ド・グラモンとしてではなく、芝村厚志として、だが。

だから私は、名よりも“誰か”の為にこの命を使ってみようと思う。

その誰かを誰にするのかなんて、それはまだ決めていない。

でも、そうすると決めた。

だから、また遺書は書いておこう。

私は、私の求めるモノの為に命を賭けた証を残そう。

……私も、大概未練が強いな、まったく。

「どうしたんだい、クリス?」

「ん、いや、ちょっと楽しい想像をしていた」

「楽しい想像?」

人には無表情と言われるのだがな、ここまで読まれると心地良い。

流石は我が半身と言ったところか。

「明日は、良い日だろう、と思ったんだ」

「明日は良い日、か。
 ……クリスがそう思うなら、そうなるんだろうな、明日なんて、そんなモノだからね」

「まったく、その通りだよ、兄さん」

やれやれ、本当に、良く似てきた。

ゲームで私に感染したアレは、私を感染源にして順調に広がりつつある、か。

あの芝村は、本当に面白い。




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あとがき


さて、第一話です

主人公は、芝村厚志君……現クリスさんは一話時点で八歳児だったりします

まぁ、中身が二十六歳なので、都合現在精神年齢は三十四歳ですか、大人です(笑

で、ギーシュは双子の兄なのだからほぼ同年代のはずなのに、妙に大人びているのは妹に引き摺られているからです

二人を同時に知る周りの人からは、隣に立つ妹が妙に大人っぽいおかげでちゃんと子供として見られていますが、実際はギーシュも年不相応に老けていたりします

原作よりは落ち着いた感じになるかもしれませんが、まぁ、ベースがあのギーシュなので、年を経るごとに煩悩とかが前面に出てきて年相応な感じになっていく予定なのですがね?(笑

まぁ、とりあえずこんな感じで行って見ます

楽しんでいただければ幸いなのですよ




っと、そうだ、このクリスさんは、ガンパレについてはほとんど覚えていません

幾つかの印象深い単語、印象深い行動、印象深いフレーズを覚えている程度で、マニアと言うほどではありません

ですので、世界の謎についてはほとんど知らない、と言うスタンスです

まぁ、私がガンパレで何処まで情報が出ていたのか忘れてしまっているので、時折ガンパレやっただけじゃ知り得ない情報やフレーズが出てくるかもしれませんが、そこはどうかご容赦を

でわ、改めて、また次回




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