――同日某所――


「ここは……」

監獄だ。

アイツの、玉藻が居る監獄。

「珍しいな、玉藻から俺を呼び出すなんて」

いや、珍しいじゃなくありえないのか。

俺から接触するか、よほどの事が起きて俺の理性が吹き飛ばない限りは玉藻が目を覚ます事はないはずなんだから。

この時期はまだ寝ていたはずだ。

……って、俺が原因か?

いきなり三十代のチャクラ放てば封印が異状を来たす事もあるかもしれない。

「ふむ、ここに居ったか、主よ」

「いや、何で檻の外に居るのさ、玉藻」

振り返り見ると、そこには確かに玉藻の姿。

妖狐の姿ではなく人の姿に変化しているが、間違いなく玉藻だ。

人の姿云々はどうでも良いけど、何で牢獄の外に居て、何で俺を主と呼んでる?

最初の出会いの時は牢獄の中に居て、俺の事は『小僧』って呼んでたろ?

「我は主の身の内に封じられていたのだ、主が過去に戻ったのならば我もまた過去に。
 それだけの事であろう?」

「それは俺を主って呼んでる理由だろ、俺はまだ封印を一つも解いてないぞ?」

屍鬼封尽の方は手がつけられない。

だけど、八卦と四象の封印だったら外す事も出来るし、そうすればこうやって檻の中を自由に出入りする事も出来る。

が、今回は何もしてないぞ、俺?

「主は過去の、子供の頃の自身と融合したからさほど変化は感じられぬであろうが、どうやら我等は過去の自身と融合したらしい」

「……じゃあ、九尾の妖狐×二って事か?」

艶然とした微笑と共に首肯されたが、洒落になってないぞ、それ。

「屍鬼封尽の死神は?」

「滅ぼしてやったが?」

あ〜、それって、問題無いのか?

次にあの術使っても効果が発動しないなんて事になったらアレだ、火影のじいちゃんどうするんだよ?

いや、今度は火影のじいちゃんにあんな事をさせるつもりはないけど。

「何を心配しているのかはわかるが、主よ。
 アレでも神と呼ばれる存在よ、一度滅びた所で次が居なかったり、予備が居なかったりする訳がなかろう?」

言われてみればそうか。

九尾の妖狐を封印してのけるだけのモノだ、それくらいはしてくれるだろ。

「って、それって復活してこっちにまた来るかもしれないって事じゃないのか?」

「どの様な勤めも信用第一、人であれば職を失い、神であれば神通力を失う事となろうからな。
 奴も躍起になるやもしれん」

「うわ〜、面倒だろ、それ」

「しかしな、あの術は本来の死神としての仕事の他に術者の命と術の対象となる存在の命を貰い受けて行う、余暇に行うあるばいとの様なモノ」

「……アルバイトって」

「故に、上の神や仲間に助力を願う事が許されぬでな。
 奴も多少勿体無いと思いこそすれ、それだけの話」

いや、まぁ、世の中には忍としての常識なんてあっさりと凌駕してのける存在が居るのは知ってるけど、まさかこう言う形で知る事になるとは。

って、マテ。

それはもしかして、アレか?

「それって玉藻の封印をどうにかしようって言う俺の努力はまったくの無駄に終ったって事なのか、もしかして?」

「無駄では無い、主の研究の途上で行った術のいずれかの効果でこうやって過去に戻ったのだ。
 これは、間違いなく主の努力の成果であろう?」

「そう、なのか?」

何かを激しく違う気がしてならないんだが、俺の研究の成果?

それとは違う気がする。

目が覚める前、たぶんこっちに戻ってくる前に、“誰か”の声を聞いたような気がする。

「……ま、何にしろ玉藻の封印が解けたのは良い事なんだから、原因究明は暇な時にでもするとして、玉藻はこれからどうするんだ?」

「子等の墓は主が作ってくれると言うて居るし、表に出てもどうせ命を狙われる身。
 そもそも、我を主無しでは生きて行けぬ身にした当人が今更何を言う?」

陶磁器の様に白い頬を朱に染め、己が身を抱くように腕を回し、艶然と微笑みながらそんな事を言われると、正直キツイ。

十五以上に成長してたら躊躇い無く押し倒すんだが、今の身体だと満足させる自信が無いからな。

やっぱり、そう言う事は互いに満足したいし。

って、そうじゃなくて。

やり過ぎだったか、色々と。

そう言う形で束縛出来るほどに上手くなってたんだなぁ、俺って。

喜ぶべきか悲しむべきか、微妙な所だ。

「あ〜、うん、じゃあ、ま、アレだ、その、これからも、よろしく」

「う、うむ」

何と言うか、照れるな、物凄く。

ハーレムなんてモノを作った人間がこの程度のやり取りで照れてどうするのかとか思わなくもないが。

「それで、その……してくれぬ、のか?」

「いや、俺の身体が育つまで我慢してくれ」

「放置ぷれいは上級に過ぎるかと思うが」

今は俺の方が背も低いうのに、頬を染めながら上目遣いに言ってくる。

これは、あれか。

俺の理性が何処まで持つかの調査でもしてるのか?

もう、二〜三押しで負けるぞ、間違いなく。

忍だろうとなんだろうと、日常生活でも禁欲生活を送ってる様なストイックな奴は最近居ないんだぞ?

俺はハーレムなんてモノを作ってたんだ、ストイックに生きているように見えたならそいつの頭の中を開いて見てみたい。

それはそれとして、九尾の妖狐とこんな関係にあるって知ったら、父さんは如何思うんだろう?

「……人の気配だ」

「ふむ、もう一押しと言ったところだったが時間切れか」

玉藻が何やら不穏当な事を言ってるが、忍の気配を感じる以上は戻らない訳にはいかない。

追求は次の機会に持ち越しだな。

下手に追求したらどうしようもない深みにはまりそうな気もするが。

「詳しい話は時間がある時にでもしよう」

「うむ、また今夜にでも会おう」

俺の事が誰かに知られたとは正直考え難い。

あのメンバーがそう簡単に口を割る訳も無いが、もしかしたら酒飲んで口滑らせた可能性もある。

話の内容なんて八割がたスルーして、九尾の器が強力な力を手に入れて四代目の家に住み着こうとしているとでも判断したら襲撃かけてくる連中が居ないとも言えない。

さっきは力一杯油断して何もしないままに熟睡したが、最低限結界の類を張るべきか。

そんな事を思考している間にも、ゆっくりと現実へと戻って行く感覚がある。

目が、覚める。







――同日八時━四代目邸――


「さて、誰が来たんだ?」

数は……三十?

気配を隠してもいなければ、チャクラが戦闘状態の時まで練り上げられてる訳でもなし、そもそも気配の内十三は通常状態でチャクラの制御も行ってない下忍レベル。

……って言うか、マテ。

下忍が十三人?

「もしかして、引越しの手伝いって、カカシ先生とかヒアシさん達の事だったのか?」

俺の引越しって事を考えればそれくらいしか手伝ってくれる人なんて居ないか、考えるまでもなく。

それなら、この人数も納得出来る。

第一、いくらなんでもこれだけの人数を囮に使ったりしたら火影のじいちゃんにばれるしな。

でも、だからこそそれを囮にって考えるヤツが居るかもしれない。

「……ま、うだうだ考えてる間に直接見れば良いか」

時間の無駄だし。

何時の間にか寝ていた縁側から立ち上がり、廊下を抜けて玄関から表に出ると予想通りの面々がそこには居た。

ただ、ガイ先生の所の班員が揃って居るのと、各班の担当上忍が揃っているのは何事だ?

ついでに、チョウザさんは俺の引越し荷物からは香って来るはずがない良い匂いのする包みを持っているし、シビさんはもう俺の荷物なんて一つも持たずに酒樽担いでるように見えるんですが。

「……えっと、その大荷物は?」

「宴会の準備だ」

とりあえず、シビさんに聞いてみる。

簡潔でストレートに答えてくれるから話が早いし。

「会場は?」

「この家だ」

「家主の許可は?」

「今、取る」

「ダメかの?」

「や、別に良いけど」

俺が許可しなかったらどうするつもりだったのか気になるところだけど、家の前で始めるだけだとか即答されそうな気もするから常識とかは忘れておこう。

「で、カカシ先生、同期が全員集合してる理由って?」

「ん、先生の家で宴会するならどうせだから下忍合格のお祝いも一緒にやっちゃえって火影様が言うから、呼んで来た」

もしかしなくても俺の性格、読まれてるな。

「まぁ、良いけど、宴会、始めよ」

「うむ」

その短いやり取りを終えると大人達は当然と言う顔で中に入っていく。

何故か居るハナさんとアヤメさんも一緒だ。

店の方は良いのか、アヤメさん?

「それで、皆は何時までそこに居るつもりだ?」

下忍一同+ハナビと木ノ葉丸は、固まって俺の顔を凝視している。

大人達の性格を考えると四代目云々の話“だけ”を聞いてたんだろうから、その反応も当然か。

里の嫌われ者、イタズラ小僧、その他諸々四代目の名とは相容れない称号を幾つも与えられてる俺だもんなぁ。

「ちょ、な、なんでナルトがここに居るのよ!?」

「そんなのここが俺の家だからだよ」

まず、口火を切るのはサクラ。

別に答え難い事なんてないしなぁ、今更。

二十年前なら、この時期の俺が事情を全て誰かに教えられていたら語る気にはならなかっただろうけど、今更だ。

「じゃ、じゃあ、アンタが英雄って言われている四代目の息子なの!?」

「間違いなく」

次はいの。

これも予想出来る内容だから、答えは即答。

「で、でも、あの、ナルトくんの、家って、ここ、じゃなかった、よね?」

「俺が四代目の息子だって認めたくない連中が居てね、俺が四代目の息子だって自分から火影のじいちゃんに言わなかったらずっと今まで住んでた家で暮らしてたと思うよ」

次は予想外にもヒナタだったが、何で俺の家を知ってる、ヒナタ?

こっちから教えた事は無いよな?

「うちにメシ食いに来た時にお前の親が凄い忍だったとか親父達が言ってたけど、まさか四代目とはな」

「あの時は俺も知らなかったんだけどな」

次はシカマル。

それだけ言うと、シカマルはチョウジを連れて『おじゃまします』とか言ってさっさと中に入って行く。

チョウジは宴会で出るご馳走の方に気が回ってるのかさほど気にしてなかったからなぁ。

「下忍が集められたって話はわかったけど、何でボク達も呼ばれたんでしょう?」

「ガイ先生とカカシ先生が知り合いだからだろ」

リー、まずは自己紹介したらどうだろう?

冷静に考えてみれば俺達は初対面なんだし。

「そこら辺の事は後だ後、まだ肌寒いんだし、女の子も居るんだから中入るぞ」

「え、あ、ちょ!!」

後ろで誰かが呼び止め様としてるけど、気にせずさっさと俺が中に入っていくと全員がついて来る。

「でも、ナルトにーちゃんが四代目の息子だなんて知らなかったんだな、コレ!!」

「里の大半の連中は俺が四代目火影の息子だなんて知らないからな、別の意味では有名になってるけど」

「別の意味?」

「いたずら云々の話以外で、だけど。
 ま、それについては後で、火影のじいちゃん達の許可があったら教えてやるよ、こればらしたら厳罰に処されるらしいからな」

「厳罰?」

「罰の内容なんて知らないけどな」

廊下を歩きながら、木ノ葉丸の質問に答える。

俺が教える場合はどうなるんだろうな、あの掟って。

「お〜、遅いぞ、主賓一同」

「……とか言いながらすでに飲み始めてるし、主賓差し置いて」

とりあえず、俺も飲もう。







――十分経過――


自己紹介も終了し、とっくに始まっていた宴会に子供全員参加。

「わ、私のせいでヒザシがっ!!」

「あ、あの、ヒアシ様?」

「ち、父上が」

「……ヒアシは泣き上戸だからなぁ」

ついでに言えば酒に弱いのに酒好き。

日向一族の居る近辺で愁嘆場が演じられている。

「次は俺、かな?」

「だろうな」

俺の問いに対するシビさんの答えは簡潔で中々致命的だ。

別に謝って貰う必要なんて無いんだけどなぁ。







―― 一時間経過――


「一番、うずまきナルト、二十代くらいの姿に変化します!!」

「「「おお〜〜!!!」」」

意味もなく宴会芸の披露をする事に。

そして、その意味を理解せずに盛り上がる一同。

子供達も皆酒を飲んでるのは秘密だ。

「変化」

「「「四代目!?」」」 「先生っ!!」

大人達が叫び声を上げる。

まぁ、母さんに似てる所もそこかしこにあるだろうけど、全体的な雰囲気はそっくりらしいし、髪と目の色があるからなぁ。

「カカシ、修練はがんばってるかい?」

「も、もちろんです!!」

「嘘だったら……わかってるよね?」

「は、はいっ!!!!!」

うん、さすがにカカシ先生の担当上忍をしていた頃に似た姿+悪魔の微笑、父さんを知っている面々に壊滅的なダメージを与えてくれた。

……酔い潰れて熟睡してるヒアシさんは別だけど。

「これが血、か」

「ま、血じゃない?」

うん、酒が美味い。

そう言えば、何で父さんの事を知らないはずの同期の連中まで俺の顔を見て怯えてるのか。

サスケもサクラもそうだったけど、説明要らずの一撃なんだな、これは。

……再不斬とか我愛羅とかにも効果あるんだろうか、これ?







――三時間経過――


「なるとく〜ん」

「うにゅぅ」

「なると〜、のめぇ」

「わたしのさけぇ、のめないってぇ、いうのぉ!?」

「くちうつしでのんでみる?」

「あはは〜、なるとくんもてもて〜」

ちなみに上から順にヒナタ、ハナビ、テンテン、紅さん、ハナさん、アヤメさんだ。

そして、火影のじいちゃんとご意見番の二人を残して他の面々は夢の世界に旅立っている。

同じペースで飲んでるはずなのに、強過ぎじゃないか、ご老人方?

何でこうなったかと言うと、ただ単に大人連中が調子に乗って子供にも飲ませてたら予想外に今起きてる面々が酒に強かったってだけなんだけどな。

俺も、玉藻のおかげなのかどうかは知らないが酒には強いからそれなりに明確な思考を保ってられるんだけど、他人に酒を勧めるのが勤めとでも思っているのか紅さんとハナさんが俺に飲ませつつ飲んでたら酔いはじめて、何故か俺にしなだれかかってるんだよ。

で、それに対抗意識でも抱いたのか、後ろで楽しそうに笑っているアヤメさんが何か吹き込んだのか、ヒナタがハナビを引き連れてその輪の中に入ってきて、今は二人とも俺の膝枕でゴロゴロ言ってる。

そしてテンテンが背中にへばりつき、紅さんとハナさんが俺の肩に頭を乗せて飲め飲めと連呼している。

もう変化は解いて子供の姿に戻ってるからやり難いだろうに、嬉々としてそうしている。

前は二人ともハーレムに居たけど、改めて考えると年下好きなんだろうか?

ちなみに、アヤメさんは嬉しそうにその場面を写真に撮っている。

……微妙に羨ましそうに見えなくもないが、きっとそれは俺の願望だろう。

ハーレムのメンバーが揃ってる状況でまだ足りないとか思ってるのか、俺って?

「うむ、四代目の若い頃を見ているようじゃな」

「まったく」

父さんは母さん一人を選んだのか。

見習うべきなんだろうけど、今更ハーレム作るのを止めるつもりなんて無いからなぁ。

「あ〜う〜」

聞こえて来た呻き声の主の方に視線を向けると、サクラ、サスケ、いのが三人仲良く折り重なる様にして熟睡している。

サクラとサスケといのの三人は、サクラがサスケを独占する為にいのに飲ませ、いのがサスケを独占する為にサクラに飲ませ、サスケは俺の悪魔の微笑を忘れたいのかペースを考えずに飲み続けて潰れた。

ネジは色々と葛藤があったんだろう、ヒアシさんの懺悔の叫びを聞いた後無言で飲み続けて潰れた。

リーは飲んで暴れ出そうとした所で数人で気絶させて事なきを得た。

ガイ先生はリーが酒乱だって事を忘れていたって理由で一気を強制されて五〜六回目で潰れた。

後はもう普通に飲み続けて潰れたんだが、やっぱりこの家で飲むのが嬉しかったのかペースが異常に速かった。

それでも潰れてない女性陣と、火影のじいちゃん達が凄いんだが。

「こ〜ら〜、なにやってんのよぉ、飲みなさいよぉ」

「飲む、飲んでるから」

美味い酒なのに、勿体無……くはない、か。

こう言うのが、俺の望みだし、な。

そう言えば、俺の荷物は何処に放り込まれてるんだろう?




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あとがき

無駄に長い上、何気なく重要な事をぶちまけてしまったり

ネジのその後なんて欠片ほども考えてませんが、とりあえずヒナタがボコボコにされるところを見たく無いが為のこんな無茶な話と言う側面があったりなかったり。

ハーレムメンバーの一部と顔合わせ、とか色々と考えていたりしますが、三十人は無茶だったので結局は大幅に削ってしまいました

九尾の話はそう言う事もあるのだと納得してください

ご都合主義と言う言葉は、こう言うタイミングで使う為に前もって言っておきましたので

本当は省いても問題はなかったのかもしれませんが、キバの姉とかハナビとかテンテンとの接点はかなり後にならないとありませんから、前もって作っておこうと考えた結果です

これで、街中で偶然会ってそこからと言う、忍務云々の関係ない独自エピソードを作る事が出来ます

NARUTOって、実は日常のエピソードってほとんどなくて、基本的に忍務か中忍試験とそれの為の修行で進んでますから

日常エピソードって無理に作るしかないんですよね

と、言う事で、ヒナタとデートとか、ハナビとデートとか、玉藻とデートとか、アヤメさんとデートとか、そう言う流れを作る為と今回の話は不満もあるかもしれませんが割り切ってください

……無茶、言ってますねぇ、私




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