火影執務室
目の前に居るのは火影のじいちゃん、相談役の二人、イルカ先生、カカシ先生、同期の面々の両親、少し言い換えれば父さんの友人知人。
ついでに言えば、と言うか俺としてはこっちの方がメインだと断言しても問題は無いんだけど、将来のお義父さん達。
三忍と、俺の事を嫌っている数人を除けばこの里最強の戦力が勢揃いしている事になる。
「さて、話を聞かせてもらえるんじゃろうな?」
「信じてはもらえそうにない話しか出来ないけどね」
そう言い置いて、説明を始める。
何故玉藻の事を知っているのか、父さんの事をどうやって知ったのか、これだけの力をどうやって得たのか、その他諸々の事を。
暁の事やサスケが大蛇丸の元へ走る事、音の里が大蛇丸の里だと言う事、狐神と呼ばれていた事、そして火影のじいちゃんが死ぬ事とかは流石に火影のじいちゃん以外には知らせるべきじゃないから黙っておいたけど、話せる事はおおまかに話した。
当然、ハーレム云々の話は省いたけど。
こんな所でヒナタとハナビを愛してやまない親馬鹿と本気の殴り合いをするつもりは無いからな。
……俺が二人を諦めるつもりが無い以上は将来絶対にする事になるんだから、今はまだ、な。
「と、まぁ、だいたいはそんな感じかな?」
「ふぅ、まだ全て話し終えてはおらんようじゃが、だいたいはわかった」
流石火影、全てを告げてないなんて事は簡単に見抜かれたか。
いや、他の面々も気付いてるから、俺がわかりやすいだけなのかもしれないけど。
「まぁ、信じてもよかろう、ナルトはナルトのようじゃからな」
あっさりとしてるな、ホントに。
信頼されてる、と見て良いんだよなこれって?
ここまであっさりとしてると逆に不安になるんだが。
「詳しい話はワシが聞いておく、解散」
反論を許さぬ口調で告げ皆を黙らせると、詳しく話を聞きたそうな顔をしては居たがそれでも三々五々に帰って行く。
色々と疑問も気になる事もあるだろうから話は聞いておきたいんだろうけど、じいちゃんがそう言うんだから仕方が無いと判断したんだろう。
「……さて、皆が居ては言えぬ事があったんじゃろう?」
「あ〜、うん、それは、その、ある」
正直、言い難い。
目の前で元気な様子を見せて居る人が死ぬだなんて言う話、本人に気楽に言えるはずも無い。
けど、言わなかったら、俺がどれだけ裏で動き回ろうともじいちゃんは死ぬ。
「ワシが死ぬ時の事を話すのは辛いかの?」
「っ、何で!?」
「元々この年じゃから、どう足掻いた所でそう長くは生きられん。
だと言うのにその話がついぞ出てこんかったなかったんじゃ。
ワシが誰かに殺されたか、戦ってその時の怪我か何かが原因で死んだと考えても何らおかしくはなかろう?」
油断、してた。
火影の名を継ぐ事が伊達じゃないのは知ってたのに。
少し考えれば、すぐに予想出来る事だって言うのに。
自分の口でそれを告げたくないって事ばかり考えて、思い至らなかった。
「……じいちゃんは、蛇の毒牙を抜いて死ぬ」
「なるほど、蛇の毒牙を、か」
「ああ」
詳しい事は説明しない。
説明してじいちゃんの行動がずれたら、救う事は勿論。
仮にそれに失敗したとして、満足に逝く事すら叶わなくなるかもしれないから。
だから、最低限の事だけしか言わない。
「でも、今度は絶対にじいちゃんを死なせない。
じいちゃんには、ちゃんと畳の上で大往生してもらう」
「……まったく、まさかまたその顔を見る事になるとはのぉ」
不意に困ったような、でも何処か嬉しそうな笑みを浮かべてじいちゃんは言う。
「その顔?」
「お主の父、四代目が九尾に屍鬼封尽を九尾に使うと決めた時の、決意の表情そのままじゃ」
「父さんの……」
そう、か。
似てるんだよな、俺。
普段浮かべる表情が似てるとか、人をからかうのが好きな所とか性格が似てるって言われてたけど。
そっか、こんな表情まで似てるんだ、俺。
「嬉しそうじゃな」
「まぁ、ね」
とは言え、表情は上手く取り繕えてるだろうか?
正直、ちょっと泣きそうなくらいに嬉しい。
俺に、正確には俺の中に居る玉藻に対する嫌がらせとして父さんと俺の繋がりは徹底的に絶たれている。
そんな俺が実感出来る数少ない繋がりが、また増えた。
でも、泣き顔を見せるのだけは避けたいから、隠す。
いや、だって物凄く情けないし。
「前回は間に合わなかったらしいが、今回はワシから下忍昇格のプレゼントがあるんじゃが、居るかの?」
「ん、何? 借金とかだったら遠慮するけど?」
「借金は息子に任せる事に決まって居るよ。
ナルト、お前へのプレゼントはお前の生家、なんてどうじゃ?」
「へ、俺の、家?」
「そう、四代目がその妻と暮らし、数ヶ月と言う短い間とは言えお前が暮らした、生家」
な、そんな家、まだ、あるのか?
「本来なら四代目の家や貯金を含めた全財産がお主のモノになるはずだったものを、一部の者が、な」
「そ、そんなのはどうでもいいよ。 家、まだあるのか!?
父さんが、俺“達”の暮らしていた家が!?」
「ああ、全て、と言う訳ではないが忍具も、四代目が研究しておった資料等と一緒に保管してある」
っ、何て、何て、嬉しい。
父さんの事が、話で聞く事しかなかった父さんの事が、少しでも、わかる。
また一つ、父さんと母さんの新しい面を見る事が出来る。
話で聞くしか出来なかった父さんの事が、想像するしかなかった父さんと母さんの事が、またわかる。
「ッッッ、ああっ、じいちゃんは俺をどうあっても泣かせる気か!?」
「まぁ、もう二〜三止めの一撃を入れても良いが、せめてもの情け、ここで打ち止めにしておこうかの」
「……色々と、まぁ、その、ありがと」
「本来の持ち主に返すだけの事、礼を言われるような事でもないわ」
「それでも、ありがと」
本当なら誰の記憶からも綺麗さっぱり消え去って、ただの家として売られるなり壊されるなりしていたはずの家が保管されていて、これからそこで暮らせるんだ。
こんな、こんなッ……。
ああ、もう、思考がまとまらん!!
「今すぐそこで暮らすなんて事はやっぱり無理だよな?」
「うむ、早くても三日はかかるな」
「ん、じゃ、俺、三日後にまた来るから、おやすみ!!」
「ああ、おやすみ」
三日。
三日だ。
三日待てば、父さんと母さんの、もう二度と帰って来ない三人の暮らしに触れる事が出来る。
それに、もしかしたら屍鬼封尽についても禁術の巻物に書かれていた以上の詳しい事が何かわかるかもしれない。
そうすれば玉藻も助けてやれるかもしれない、前は如何する事も出来なかった色々な事件に対応出来るかもしれない。
たった三日が、とてつもなく長い物に思えて仕方が無い。
三日後 ――四代目火影邸前――
「ここ、が?」
「うむ」
俺と火影のじいちゃんの前に建っているのは、邸宅と言う表現がぴったりの大きな家。
生まれて間もなく離れた家だ、何かを覚えている訳も無い。
だけど、“何か”が懐かしい。
もう随分と匂いは薄れてるけど、それでも何だか懐かしいと感じる“何か”がある。
「案内しよう」
「あ、ああ、うん」
頷き、先に立つ火影のじいちゃんの後について歩く。
玄関、台所、居間、子供部屋らしき部屋、寝室らしき部屋、色々な部屋に残っている。
生活の痕跡なんてほとんど残ってなくて、俺が越してくるからって事で誰かが掃除したであろう形跡だけがある。
ただそれだけの酷く寂しい家なのに、物凄く、懐かしい。
補修されても消しきれていないそこかしこにある小さな傷。
壁に父さんか母さんが誰かとケンカでもしたのか苦無が刺さったような後がある。
天井にちょっとあるあの焦げ後は火遁でも誰かが使ったんだろうか?
柱には、誰かを縛り付けてそこに風遁のかまいたちでも使ったのか鋭利な小さな傷が幾つか見てとれる。
何も思い出せないけど、俺はこの家を知っている。
「で、ナルト、何時ここに越して来るんじゃ?」
「……今、すぐに。
荷物なんて後で適当に運んで、今日から。
今から、ここで暮らす」
火影のじいちゃんい答えながら色々な所を触ってみたり、歩き回ってみたりする。
屍鬼封尽とか父さんの開発した忍術とか忍具に興味はある。
でも今はそれよりも、この家を。
この家に残っている懐かしい“何か”を少しでも感じてみたい。
「わかった。
ワシを含めた何人かが荷物運びを手伝う予定じゃったからな、勝手に運びこんでおくぞ?」
「あ、うん」
生返事になるのは申し訳ないけど、それでも視線を離せない。
縁側、ヒアシさんはここで父さんと月見酒をたまにしてたって言ってた。
台所、チョウザさんはここで母さんと一緒に料理を作ったりしたって言ってた。
庭、いのいちさんが父さんと家庭菜園で薬草を育てるか毒草を育てるかで喧嘩したって言ってた。
風呂、シカクさんが何時の間にか入ってて父さんが怒り出して、喧嘩になったって言ってた。
居間、師匠が風呂を覗いたとか覗いてないとかで母さんとツメさん、それにヨシノさんが物凄い舌戦を繰り広げて師匠が泣いて逃げたとか言ってた。
それで、何気なく結婚前のシビさんが周りの状況お構いなしにお茶飲んだりしながらまったりしてたって言ってたっけ。
話しで聞いてただけの情景に、明確なイメージが当てはまっていく。
想像するしかなかった情景が、確かな形を持って行く。
父さんと母さんの顔形はまだ何処か朧だけど、それでも確かにここで過ごしていた父さん達の姿を想像出来る。
「ああ、ここで……」
父さんは、幸せな家を作ろうとしていた。
玉藻も、森の中で平穏に暮らそうとしていた。
結局、父さんにも玉藻にも、何も残らなかった。
俺だって、一時の平穏の為に血を流して、駆けずり回って、子供と妻を残して死んだから今ここに居る。
運命とか、考えたくもないような。
想像もしたくないような単語が脳裏に思い浮かんでくる。
「はぁ、こう言う時にこそ、酒が飲みたいな」
今日はまだ月見酒には持って来いの月夜だし、感情がごちゃごちゃの時には美味い酒でも飲んで一瞬だけでも色々な事を忘れたい。
二十代後半くらいの姿に変化して日本酒でも買ってこようかな。
「ああ、でも、この家の維持に幾らかかるかわからないし余計な出費は避けるべきか?」
まぁ、父さんの家と、父さんの研究していた知識が得られるのなら赤貧生活も悪い事じゃない。
暗部として動ければ、すぐにでもそれなり以上の金を稼げるけど今はまだ下忍。
今まで以上に節制しよう。
「しばらくは兵糧丸で生活になりそうで一楽のラーメンが食えなくなるだろうけど。
うん、少しぐらいは我慢しよう」
この家での暮らしと一人寂しい食事を比べたら、この家で暮らせるって事実の方が良い。
テウチのおっちゃんのラーメンは正直ちょっと惜しいけど、ね。
「最悪カカシ先生かイルカ先生にたかればいいや」
今日はこのまま寝よう。
下手に起きて色々と見て歩いたら、泣き出しそうだから。
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あとがき
本当はもう少しダラダラと続く予定だったんですが勢いでカットしてみました
や、カットした意味は無くて、次回の話はもう少しだけですがこの話の続きになるんですけどね
新居を構えた理由は単純
三十になっていようともナルトにとって両親との接点はほとんど無かっただろうなぁ、と
多少なりとも遺品の類を押さえていたであろう三代目はナルトが下忍になった年に死去してしまいましたから、管理を任されたであろう別の人の手に渡ってナルトの手元に四代目の遺品の類が巡って来る事はなかったんじゃないかなぁ、と妄想しちゃったもので
それだったら自分が死ぬ事を知った三代目が四代目夫妻の暮らした家をナルトに譲り渡す事にしたって流れにしちゃえとか考えてしまったんですよ
だって、遺品の一つも譲り渡されないのって、結構寂しいものですよ
それに価値があるとか無いとかとはまったく関係なく、思い出す切欠になってくれますから
よく世の中にはその行動の一つ一つが、仕草や料理の味が思い出だとか、言う話はありますが、ナルトって容姿以外は何も受け継いでないんですよね、両親からは
仮にあるとしても、遺伝子レベルでの繋がり
両方を知る人にしかわからない領域の話で、本人に自覚も何も無いでしょうから
だから、そう言う事で勢いのままにナルト、一軒家をGet、と言うお話でした
九尾関係でしなければいけない事もありますが、まぁ、それは後々
しかし、具体的な各キャラの家の位置を明記していないので、誰かの家が近くにあっても問題はありませんよね、きっと
あ、ちなみにわかる人はわかるでしょうが一応人物紹介を
ヒアシ:日向家家長、早い話がヒナタとハナビの父親、SSだと娘を溺愛する人になってるのを良く見る
当然の如く狐神の回帰でも同様の扱いに
チョウザ:秋道家課長、チョウジの父、何気に一巻のミズキ関連で騒ぎが起きた時、ナルトを殺すとか言う意見に賛成してる人にこの人が居た様に見えますが、きっと私の気のせいです
いのいち=山中家家長、いのの父、ヒアシさん同様娘を溺愛して暴走していますが……女の子のお父さんと言う事でそこら辺は問題ありません、いえ、この話だとハーレムに混ざっても怒らないって明言しちゃってるんでそこら辺どうだろうとか自分でも思いますが
シカク=奈良家家長、シカマル父、奥さんの尻に敷かれているのはデフォルトと言うか原作準拠、そこら辺書いてみたいところですがどうやって書くべきか疑問です
ツメ=キバの母、家長かどうかは知りません。ついでに言えば特別上忍らしいですが、他に何か設定があるのかどうかは謎です
ヨシノ=奈良家主婦、シカマル母、細かい設定はあるのかもしれませんが、時折魅力的な笑顔を浮かべるらしいと言う事と実は特別上忍らしいって事以外はほとんど私は知りません
シビ=油女家家長、シノ父、息子が父そっくりだって事と上忍って事ぐらいしか知りませんと言うか、設定他にも何かあるんでしょうか?
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