――十分後、石碑前――


「ナルトがあんなに強いなんて……夢? いえ、現実、よね。 ……あ、でも、幻術、って、あんな幻術見せても何の意味もないだろうし、幻術で倒れて、やっぱりまだ私って夢の中? もしかして、変化の術で別人と入れ替わってたり?」

サクラは鈴取りにサスケが失敗して俺が成功したと言う事実を認めたくないのか小声でぶつぶつ言いながら頭を振ったり頬をつねってみたり、座学で習った色々なモノが不足している幻術返しを使ったりしている。

や、はっきり言ってこれは結構面白い。

頭は良いんだよ、サクラって。

だから、余計に深みにはまってる。

素直に現実認めれば良いのに、よっぽど俺の三回連続下忍昇格試験落第ってイメージが強いんだろうなぁ。

ま、サクラは放置しておいても問題ないから放置しておくとして、問題はこっちだ。

「ナルト」

名前一言呼んで後は沈黙ってどう反応したら良いかわからなくて困るんだよな。

無表情、平坦な声、力の入り過ぎでちょっと白くなってきてる握り締められた拳、どう言う事か説明しろと力一杯語っている瞳。

……うん、これはこれで女の姿の時を想像すればかわいらしい。

浮気と言うか、ハーレムの住人が増えたとか教えた時の反応とほとんど同じだ。

涙目になってないだけ威力は多少弱まってるのが救いと言えば救いか。

正直、全部ぶっちゃけたくなるからな、あのコンボは。

口に出したら問答無用で苦無とか火遁豪火球とか千鳥とか――まだ使えないはずだが――が飛んできそうな気がするから言うつもりはないが。

でもなぁ、殺気混じりの本気で投げた苦無を後ろを見ないであっさりと受け止めて見せたり実力差は多少見せ付けたつもりだったんだが、まだ納得してなかったのか、サスケは。

それとも、テンパって頭が回ってないのか?

自分よりは多少上の実力だとか適当に決め付けてたって可能性もあるか。

順番的にはカカシ先生→俺→サスケ→サクラって感じで。

「ナルト、お前はこのテストの回答を知った上で、こう言う行動に出たんだよな?」

「ま、一応は」

で、俺とカカシ先生は二人、弁当の蓋も開けず、何となく視線を何処ともない場所に向け、とりあえずサスケとサクラの視線やら呪詛っぽい呟きから現実逃避してみる。

修行の成果か忍者としての当然の技能の一つとして持ち合わせている無意味に広い視野のおかげで、視線は合わせてなくても二人の様子はしっかりと確認出来てるけど。

「何で、模範解答の行動をとらなかった?」

「一つ目は、二人の実力を見ておきたかった、って事」

例えここが俺が過ごした過去だとしても、いや、だからこそ、知っておかなきゃいけない。

実は二人の実力って大蛇丸の所に行った後、正確には俺が師匠の所で修行した後の方が印象強過ぎて覚えてないんだよな。

あの頃の実力があるつもりで組み手とかして、瞬殺しちゃったらしゃれにならないから。

あ〜、勘弁して欲しい、サスケの眼光が鋭くなってきた。

「で、二つ目は答えを知ってる俺が模範解答の通りに行動しても誰の為にもならないと思ったから」

「まぁ、確かになぁ、誰かに誘導されてやっても身にはつかないよな」

実際は、ここでとっかかりを作って、カカシ先生の話と簡単な任務を重ねてゆっくりとチームワークについて、仲間の事を思う心を育てて行っても良かったと思う。

今日の所は俺が芝居をしても良かったんだけど、全部終ってからそれに気付いたんだから仕方がない。

二人に俺の現時点での実力を少しでも見せ付けるって目的もあったから、無駄に気合い入れ過ぎたのも問題だった。

サスケ、その笑顔は良いが印を結ぶな。

チャクラも練るな。

「で、最後に自分の実力を試したかったから、必死でやったらさ、取れちゃったし」

「あ〜、うん、まぁ、アレだな、最終的には俺に問題が帰結するんだな」

「俺の自業自得だとも思うんだけどね」

千本を投げてる時に三体目の影分身を使わないで、千本が尽きたって顔をして下がっておけば二人に協力を求めてもおかしくはなかったのに、調子に乗ったのが最大の問題だった。

だいたい、今日はカカシ先生妙に動きが悪かったけど、ほぼ間違いなくその原因は俺だろ。

父さんにそっくりな笑み浮かべてみたり、たぶん火影のじーちゃんからミズキの時の話を聞いただろうから本気を出す云々以前に俺が父さんについて、父さんが玉藻を俺の中に封印した事について何で知っているのかとか、色々と気が散っていたんだろう。

時間にルーズだったりするくせにそう言うとこで気配りとかしてくれるから、この先生は。

まぁ、それで試験官役を失敗してるのが問題なんだが。

心配して気が散ってるってだけじゃなくて、予想以上に俺の策がはまってくれたおかげで勝率がドンと上がって勝っちゃったんだから、俺も人の事は言えないが。

瞬間、カカシ先生と視線を合わせ、同時に変わり身の術で移動する。

「チッ」

サスケ、火遁が無駄に終ったからって舌打ちするのは止めてくれ。

「危ないね〜」

「挑発してるつもりはなかったんだけど、挑発になってたかな?」

「挑発でしょ、あれは」

まぁ、力一杯お前は俺よりも実力は下だって言ってるのと同じだったから、挑発してると取られて当然か。

よっぽど都合の良い思考回路でもしてなければ。

それにしても短気な。

「……忍者がそんな短気でどうすんだ、サスケ?」

「ナルト、テメェ」

おお、静かに臨界点に到達しつつあるな。

「え、な、何、何が起きたの!?」

サクラはパニックか、短気もどうかと思うけど、パニックになるのはもっと問題だろ。

昔の俺も似た様なモノって言うかもっと酷かったし、今は新米と言うか忍になるかどうかの瀬戸際に居る状態だからそこまで求めて良いのかどうかは微妙だけど。

「サクラはアレだな、思考に埋没すると周囲の変化についていけてない」

「ん〜、戦争が終ったこの平和な時代だからあの年頃の子じゃ仕方ないとは思うんだけど、忍としてはねぇ」

「でもカカシ先生、忍って仕事を選んだ以上はそんな事言ってる余裕はないだろ。 例え下忍だろうと、いや、下忍だからこそ、もしもの時には死地に送り込まれるんだから」

「シビアだねぇ」

苦笑を浮かべながらそんな答えを返す。

わかってて、経験してるからこそのこんな答え方、か。

火影のじーちゃんも、カカシ先生も、皆、アカデミー卒業程度の実力の下忍ですら戦争に駆り出されてた頃の状況を作りたくないからって事で必死に動いてるから気楽に言って見せる。

音の里が大蛇丸の里だって予測はしてても確証はもってなかったし、暁の事はその存在を里のトップである火影のじーちゃんですら知らなかったらしいけど。

「でも、忍務の最中は命懸けだし、それの訓練の最中にこんな反応はどうだろ?」

「ま、不安だねぇ、確かに」

不安でも、このメンバー以外の誰かと組む気にはなれないんだけどな、やっぱり。

最終的には前と同じくハーレム作ってやろうとか画策してたりするけど、やっぱり最初はこの三人で始めたい。

ハーレム運営を、じゃなくて忍務云々についての話だけど。

サスケが大蛇丸の元に走った原因の何割かは俺と親しかったからだし、サクラが綱手母さんの所で修行する事になったのもサスケが大蛇丸の所に向かったから。

サクラにズタボロにされて治療、その後再びズタボロにと言うエンドレスをサクラのチャクラが尽きるまで味わう事になったり、大蛇丸仕込みの思い出すのも嫌な拷問とか味わう事になったりするが、強くなって生存率が高くなるのは良い事だ。

サスケが大蛇丸の所に行くのはどうやってでも止めるけどな、絶対に。

……あれ、待てよ。

良く考えたらサスケが大蛇丸の所に走ったのって俺が原因なのか?

あ〜、うん、様々な要因が重なった結果だとでも思っておこう。

実際に俺だけが悪かった訳じゃないし。

だいたい今回はそれは止めるんだから、別に問題ない。

最悪の場合は、大蛇丸の所に走る必要がないくらいにサスケを強くしちゃえば良いんだし。

「最悪サクラちゃんはここで落第しても問題は無いけど、サスケは落とせないんだよなぁ」

「へぇ、何でそう思うの、ナルト?」

「うちは一族最後の一人には『写輪眼のカカシ』の元でしっかりと力をつけて欲しいから」

「正解」

「ついでに、九尾の狐の器にして四代目の息子を監視する為にも同時に合格してもらわないと、困る」

カカシ先生にまがりなりにも勝てた以上は能力査定とかをやった上で特別上忍か暗部に推薦されてもおかしくないけど、やっぱり俺の監視もしておきたいって言うのが里の中枢に居る大人達の見解だろうからどっちにしろ不合格にされるだろうな。

師匠か綱手母さんでも居ればどっちかに俺の身柄を預けるって選択肢も出てくるだろうけど、二人が居ない以上は里一番の忍のカカシ先生に任せるって選択肢以外は無い、と。

……あ、最悪暗殺って選択肢もあるのか、もしかしてやり過ぎたか、俺?

「うわ〜、何処までばれてるのやら」

「ん、カカシ先生とか火影のじいちゃん達が俺を孫とか弟とか甥とかみたいに大切に思ってくれてるのは知ってる」

「あ〜、うん、まぁ、なら良いか」

俺の思考を他所にそんな気楽な答えを返してくれる。

ホント、カカシ先生のこう言う適当な所は大好きだ。

実際は火影のじいちゃんと一緒に色々と質問攻めにしたり調べまわったりするだろうけど、表面上とは言えあっさりとそれで流してくれるから助かる。

こんな所で詳しい話をして、サクラとサスケに今はまだ知られる訳にはいかない事を知られちゃ困るから。

「で、カカシ先生、サスケって後何分で倒れると思う?」

「四……いや、五分」

「じゃ、俺は四分強で」

俺とカカシ先生が話している足元では自棄になったのかサスケがそこら中に火遁をぶっ放し続けていたりする。

当然だがサクラは俺の影分身で救出済みだけど、まったく周りが見えてないな。

ってもしかして、カカシ先生が俺のせいで気が散ってたみたいに、サスケも俺のせいで頭の中グチャグチャになってるのか?

「……うぁ、ありえるなぁ」

「ん、ありえるって、何やった?」

「微妙に断定してるけど、その心は?」

「子は親に似るって言うでしょ」

ああ、なるほど。

物凄く納得した。

「何て言うか、俺サスケの本名知ってて、それを言っちゃったんだよね、本人に直接」

「あ〜、それは、また」

写輪眼を持ってるって事はうちは一族の事はそれなりに知ってるだろうから、カカシ先生にはそれで通じるだろう。

事情も知らずに受け持てるモノでもないし。

「で、ついでにちょっと色々とあってファーストキスを奪っちゃったり」

「……お前のせいだ」

「やっぱり」

良く考えたらあれだけやればキレもするか。

ああっ、くそっ、こう言う時にこそ出て来い小人!!

「了解」

小人参上。

「……いや、本気で出てくるなよ」

「お、この間の小人」

「うむ、久しぶりじゃな、カカシよ」

「それにしても馬鹿ねぇ、二人とも」

出てくるなり人を馬鹿呼ばわりか、紫色の。

黒いのは妙に偉そうだし。

「お前らには解決策があるってのか?」

「当然、幻術で眠らせて、記憶操作しちゃえば良いのよ」

「……あ、それだ」

どっちにしろ合格しなきゃいけないんだし、現実とほぼ同等の幻術見せて色々と誤魔化してチームワークを身に着けたって事にしておけば良い、か。

「確かにそれが無難だけど、そんな案が出てくるって事は幻術も使えるんだ?」

「そこら辺も含めて、後で詳しく説明するよ」

「で、主殿、二人には主殿に陵辱された記憶を植え付ければ良いのね?」

「却下」

さて、何か今までの思案とかは何だったのかと本気で悩みたくなるようなくらいあっさりと解決案が提示された事だし、どうにかこの危険な小人を処理してサクラとサスケの記憶をいじってみるか。



ちなみに、小人には逃げられたが二人の記憶に関する処理はつつがなく終了した。

ストーリーに関しては、三体目の影が出てきたところでそれが出てこないで俺の千本を含めた忍具が尽き、煙幕ぶちまけて逃げ出してサクラとサスケの元へ。

そこで俺は身体制御と影分身でチャクラを使い切ったから役に立たないので囮になるから二人で鈴を取ってくれ、と言う事をお願いして、そこでそれだったら俺一人がアカデミー逆戻りだとか色々と言い合いがあったものの何とか場を収めて俺が立てた作戦を実行。

そして鈴を奪って俺一人アカデミーに戻すのはダメとか必死の嘆願をサクラとサスケがしてくれて――幻術とは言っても二人は周囲の状況を認識し、自分の意見を口に出すと言う尋問とかにも使う術だったからこれは俺達が言わせたんじゃなくて、二人が言ってくれた――カカシ先生の『仲間を大切にしない奴はクズだ』って言うあの話があって全員合格と言う結果に導く事に成功した。

……普通に良い子だよなぁ、二人とも。

裏も表も色々と経験したからか、自分が妙に薄汚れてる気がしてならない。

ま、ともかく、今度は火影のじいちゃん達に俺の事情を説明しなきゃ、な。

何処まで話すべきか、ただでさえ問題山積みなのに、自分で増やしてる気がするのはどうしてだろう?




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あとがき

鈴取り終了後、下忍合格させる手段が見つからずに苦労しました

誰か他の人が使った手段をパクるのもありかと思ったんです

さすがにそれはまずかろう、と言う事で無理に『サスケとナルトはカカシの生徒として合格しなければいけない』と言う理由をでっち上げてみました

や、実際あの班ってバランス云々だけでなくうちは一族最後の一人に写輪眼の使い方を含めた修行と、九尾の器の監視って言う意味合いもあるようにも見えますから、事実が違ってもそれっぽければおーけぃ、と言う事で納得していただければ助かります

……まぁ、だからって解決手段として幻術と記憶操作って言うのは無茶な選択肢だとは思いますけどね、流石に

とにかく、未来から過去へと帰って来たナルト、信頼出来る人達へ始めての説明です

予定ではもっと前に説明するはずだったんですが、何事ですか、十一話になって初めてそこに入るって?

カカシ先生が小人の事をあっさりとスルーしている理由は、聞くだけ無駄だと何となく納得しているからです

ついでに某大蛇の人とか、某火影の人にそっくりな口調と雰囲気の持ち主が居るから気にしない事にしている可能性が濃厚だったりしますが




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