――AM11:05 演習場――
「やーー、諸君、おはよう」
「「遅いッ!!」」
いや、昨日の遅刻っぷりを考えればまだ許容範囲だろ。
「いやぁ、川で溺れてる子犬を助けていたら遅れたんだ」
ありえるかもしれないが、髪の毛の一本も濡れてない状態でその言い訳は無しだろう。
あ、でも良く考えたら水上歩行出来るから、もしこの話が事実だとしても濡れる事は無いか。
まぁ、適当にはぐらかすのが目的で、言い訳にならなくても良いと思ってるんだろうけど。
それにしても本当の事を知られるのが恥ずかしいからって適当な事を言うのはどうだろう?
「さて、この時計はタイマーを十二時にセットした」
あの時は、ほとんどそこら辺の事に考えは及ばなかったけど、制限時間は五十五分だったんだな。
今回は、どうしようか?
再不斬と白の事もあるからカカシ先生に本気を見せておく必要はあるけど、サスケはともかくサクラがなぁ。
昨日は本気出そうとか思ってたけど、少し冷静になって考えてみれば俺の行動によっては玉藻が復活したとか騒ぎ出しそうな気もするんだよなぁ。
……よし、決めた。
とりあえず体術だけにして、忍術に関しては適宜考えて行こう。
調子に乗って暴走しないように気をつけなきゃいけないのはわかっているけど、この身体での模擬戦は初めてだからな。
それに、何処まで出来るのかはっきりと認識する為にはカカシ先生ってもってこいだから手を抜き過ぎるのも問題だし。
「ここに鈴が二つあるんだが、コレを正午までにオレから奪い取るのが課題だ。
もし、昼までにオレから鈴を奪えなかったら、そいつは昼飯抜き!!
あの丸太に縛り付けた上に目の前でオレが弁当を食うから」
毎食しっかりと食事が出来る連中にとってはダメージがでかいだろうなぁ、それって。
忍者がそれでダメージ受けてたらダメダメだけど。
「鈴は一人一つで良いが二つしかないから、必然的に一人は丸太行きだ。
で、鈴を取れない奴は任務失敗って事で失格!
つまり、この中で最低でも一人は学校に戻ってもらう事になる訳だな……」
特例とかが無い限りは任務は下忍上忍問わずに三人一組が基本で、敵地への侵入任務とかだとそこに医療忍術の使い手が参加するって“教科書”で習った気がするんだけど、何で疑問に思わないんだ、サスケとサクラは?
カカシ先生がプレッシャーかけた上でこの結果を望んでるみたいだから、プレッシャーかかってるフリをしておくけど、俺も。
二人には気付かれない様にカカシ先生だけに見えるよう小さく笑みを浮かべておいたから、俺がこの試験の本質に気付いているって事は伝わってるだろ。
いや、わかってて個人技を見せるのと、わからないで個人技を見せるのとでは相手に与える印象が変わるから。
「手裏剣も使って良いぞ、オレを殺す気で来ないと取れないからな」
「でも、危ないわよ、先生!!」
「サクラちゃん……下忍の投げた手裏剣で死ぬ様な人間が上忍になれるなら、木の葉の里なんてとっくの昔に潰れてるから」
我愛羅とかイタチみたいな特殊なタイプも居るけど、基本的にアイツらみたいな奴は居ない。
非常識を常識として見たら痛い目にあう。
「ま、そう言う事だから、はじめよーか!!」
体術の技量だけなら、勝る自信はある。
身体に刻み込んだだけじゃなく、ちゃんと全てを理解しているから。
完璧にと言うのは無理だがこの身体でもあの頃の体術を使いこなす自信はあるし、カカシ先生の最盛期の体術を知っている。
何よりも、今のカカシ先生は全盛期のそれに比べればそれなりに緩んでいるのは知っているのも俺の有利に働く。
ただ、問題が無い訳じゃあない。
理想の動きが頭の中に入っているだけに、選択肢の中にそれを無意識に考えちゃってるんだよな。
間合いや身体能力の上限はこの身体のおかげで制限があるのに、まだ馴染みきれていないからその思考に沿った動きをする時がある。
それを誤魔化してカカシ先生と戦うと、どうなるだろうか?
忍術抜きだと、この身体じゃあ勝率五割が良い所、か。
技量で勝ろうともそれに身体がついてこない以上は、ただの枷でしかない。
だったら、この模擬戦の間に勝率を何処まで引き上げられるだろう?
あの当時とは違う、この身体に十数年に渡り得た知識を併せ持つからこそ出来る成長の仕方がある筈だから、自分の未来を見てみたい。
玉藻を助ける術も今度は見つけられるかもしれないし、がんばりますか。
「じゃあ、始めるぞ、よーい………スタート!!!」
前回は力一杯見栄を切って戦ったんだが、今回は二人の戦いっぷりをしばらく観戦させてもらおう。
あの頃は俺もサスケの実力を見抜くだけの実力は無かったし、サクラは中忍試験の時に森の中で音の連中と第三次試験の予選でいのと戦った以外ではそれほど戦闘をしてないからな。
弱いって事はわかってるけど、それがどの程度かわかっていた方が後々都合が良いだろうからまずは見物だ。
……ん、サスケは隠れながら罠作成で、サクラは不安そうにカカシ先生の監視か。
サクラって確か前の時は俺が戦ってるのを見てて、隙を突いて攻撃してくるならともかくそのまま観察、俺がヤバイと思ったら普通に声を上げてその後移動してないで観察し続けた。
更にはあっさりと幻術に引っかかって、次はサスケが首だけ残してるのを見て再び気絶してたんだっけ。
本気で忍者になる気あったんだろうか、この頃のサクラって?
未来ではツナデ母さんに師事して強くなってたけど、それまではまともに修行してるとこを見た記憶が無いのはヤバイんじゃないだろうか、流石に。
挑発でもして修行させなきゃいけないな、サクラも。
「あぎゃぁぁぁああああ!!!!」
サクラ、一時脱落。
見つからない自信があったから気配読まないで考え事に熱中してたけど、サクラの奴また幻術に引っかかったのか。
サクラが幻術にかかるのはあの謎の小人がかけた幻術と併せてこれで二回目か。
アレは俺の記憶を基にして術を使ってかなり精密に術式組み上げて使ってたから、使われた事すら気付いてない可能性もあるな。
ただ他の面々はほとんど疑いもせずに俺とサスケの言葉を受け入れていたのに疑問を抱いていたって事を考えると、やっぱり幻術に対する適正は高いのかもしれないな、サクラは。
芽が出れば、そっちでも凄い事になるかもしれない。
っと、次はサスケの出番か。
楽しませてくれるかな、アイツは?
……あ〜、距離あるし、声を聞く気もないから何を言ってるのかは聞こえないけど何かカカシ先生が驚いてる所を見るとサスケが車輪眼の事について聞いてるのかもしれない。
ついでに、俺からその話を聞いたって事まで含めて。
この頃の俺は玉藻の事はもちろん父さんの事も知らないはずなのに、車輪眼の事を知ってる訳が無いんだよな、本当は。
と、戦闘が始まったか。
手裏剣の投擲からトラップに追い込んで、さらに別のトラップを発動か。
何時の間に仕掛けたんだかわからないけど、トラップの連携は悪くない。
まぁ、話に聞いたのよりトラップが一つ多いだけだから。
教科書通りと言うか、教本か何かの内容にちょっと手を加えただけってとこだろうけど。
ただ、カカシ先生の体勢を崩すには十分。
そこにサスケの後ろ回し蹴りからの体術の連携。
一切の停滞無く流れる様に放たれてる様は悪くは無いけど、予定通りに事が運んだからってカカシ先生の顔を見て笑うのは余分だ。
あそこで前もって礫でも口に含んでおくとか、手に砂を目潰しの紛薬の類を握り込んでおいて、眼を潰せば鈴を取る事も出来たかもしれないのに。
教科書にも載ってる様な初歩的な技術だろう、目潰しなんて。
忍の戦いなんてどんなに卑劣だの非道だのと言われる様な手段を取っても、死なずに目的を遂げる事が全てなのに。
いや、だからと言って人質を取るとかそう言う手段は俺も嫌いだけどさ。
あ、距離を取ったけど、アレはこの時代のサスケの得意忍術の『火遁・豪火球の術』か。
アレって視界悪くなるから使い勝手悪いんだけどな、実は。
自分の視界遮る上、溜めが長いから自分より早く動ける忍相手には当たる前に楽勝で逃げ切られる術ってどんな使い道があるんだろう?
殲滅戦用には火力弱いし、個人戦闘用には溜めが長いしスピードが遅い。
アレを使うとしたら、高速で術式を構築して目で認識出来ないスピードで印を結んで、やっと、か?
そんな努力をするぐらいなら他の術や体術で隙を作って、必中の状況を作る事前準備をしっかりとした方が良い。
手裏剣を大量に投げる方がよっぽど役に立つ気がするな、あの術。
と、言うか覚えているのかどうかは知らないが、中忍試験の時に使ったって言う『火遁・鳳仙火』の術の方が絶対にこの場面なら良かっただろう。
あの時みたいに手裏剣を混ぜて打ち込めばカカシ先生に油断もあるだろうし、何よりも炎の空気を燃やす音が手裏剣の風切り音を消してくれるから、結構なダメージが見込める。
視界を遮られる事も無いし、回避されてもタイミングずらして複数の手裏剣を投げていれば隙を作って次に繋げる余裕は生まれる。
が、今回はこれで御終いだな。
以前と同様に、土遁で生首状態にされた。
アレは、単独で脱出するのは無理だ。
「あぎゃぁぁぁああああ!!! 今度は生首ぃぃぃいいい!!!」
ん〜、ホントに、わかりやすいな、サクラは。
「さて、始めるか、俺も」
「………うわぁ、オマエって最下位なんじゃなかったの?」
「ん〜、お芝居って楽しいよね」
気配を消したままカカシ先生の前に立ち、ニコリと例の笑みを浮かべて見せたが前と同様に真っ青にはなっても今回は平常心を保てたのか父さんの事を呟きだしたりはしてない。
慣れたのか、二度目だと威力低いのか。
どちらにしろカカシ先生本人から聞いた父さんのした事をしてみせたらどう言う反応するか、面白そうではあるけどな。
変化の術で二十代前後の姿になったら父さんと瓜二つだって言われてるし、別に余計な事を言わなくてもそれで十分だろうけど。
「実力を隠してたって事、か」
「いや、実はちょっと諸々の事情があって三日前から強くなっただけなんだけどね、ホントは」
「……ハイ?」
自分に起きた事じゃなきゃ俺だって『なに言ってんだこいつ?』みたいな目で見るだろうけど、不審人物を見る目は止めてくれないかな?
「まぁ、その事情は後で火影のじいちゃんも交えて話すって事で、今回はこの身体でどれだけの事が出来るのか試すんで付き合ってよ」
「ん〜、絶対に教えろよ?」
「了解」
サスケ達もこっちに来たみたいだし、始めるか。
小手調べとかはもう済ませてるし、行く。
チャクラで身体能力を向上させ背後に移動し軽く飛んで延髄へ竜頭拳、当然回避されるのを前提に打ち込んだモノなのでそのまま重心移動させて密着する様な形に持ち込み、浴びせ蹴りを鎖骨近辺に向け放つがコレは受け流されて俺の体勢が崩される。
とりあえず、この一連の流れで問題点を軽く理解した。
この身体だと体重が軽過ぎるし、身長差の事も考えないとただでさえ以前ほどじゃない破壊力が更に低くなる。
一撃の威力を求めなきゃいけないんで回避されたりいなされれば簡単に体勢が崩されるのを忘れていた事も今の一連の流れの問題点だ。
身長や手足の長さ、それに下忍としては十分でも忍として見れば未熟な鍛え方。
身体があらゆる意味で未成熟なんだから、無駄な動きが増えて当然だってのに、気付いていなかった。
しかし、実戦の前にこうやって問題点を実感として把握出来たのは救いだ。
影分身じゃあ相手はまったく同じ間合いで同じ力量だし、それ以外だと木とか動かないモノを打って試すしかない。
現状の破壊力を図るだけならそれでも十分だが、実戦での動きをあわせて考えるにはやっぱり対人訓練をしないとな。
カカシ先生からの反撃の拳を両手で受け、その力を利用して飛び距離を取るが、同じ速さで駆け寄ってきたので着地と同時にカカシ先生の方向に向かい当たらなくても良いので牽制の『木の葉旋風』を放つ。
が、流石はリーの師であるガイ先生にライバル扱いされているだけはある。
タイミングはばっちりだったって言うのに、あっさりと回避された。
けど、距離を取るにはこれで十分。
だけど、純粋な体術で戦うのがキツイって事は思い知らされた。
身体が、追いついてこない。
「はぁ、まさかガイの技を使ってくるとは」
「ちなみに木の葉強力旋風も使用可能だったりするけど?」
言いながら、足にチャクラを集中して高速移動。
それと同時にチャクラを練り、何時でも影分身が使える様に準備をしておき、一瞬とは言えカカシ先生が俺を見失った瞬間に影分身を三人作って二人は森の中へ、残りの一人を伴って前後から同時に襲撃をかける。
小人が出なかった事に内心感謝しつつ俺は後ろから脊髄を、もう一人は正面から下腹部――金的は見ているだけで辛いからもう少し上の部分――を狙い拳を打ち込み、変わり身の術であっさりと回避される。
ここまでは、予定通り。
「影分身か!?」
「そ、だけど一人じゃあ、ない」
「ッ!?」
俺の言葉の意味に気付き、気配を読む為に瞬間周囲へと気が向けられる。
そしてそこへ森に入った影分身の一人が手裏剣と苦無を放ち、カカシ先生は自分の苦無を取り出して自身に当たる物だけを選別して弾き、手裏剣が飛んできた方向に向かい苦無を投げ返す。
後に残るのは空中で完璧に無防備になっているカカシ先生と、既に体勢を整え追撃に入る事が可能な状態の俺と影が一人。
空中で手裏剣を捌き、さらに苦無を投げ返し追撃を潰す事によって、カカシ先生の真下に居た俺にとってはどうしようもないチャンスが訪れる。
「油断大敵、ってね」
言葉が終る前に手持ちの千本を投げる。
さすがに殺す訳にもいかないから白が再不斬にそうしていたように四肢を一時的に麻痺させる秘孔を狙って放つが、元暗部の人間相手にわかりやすいポイント目掛けて放っているんだ、当然の如くそれも容易に処理される。
「チッ!!」
舌打ちしつつも千本は放ち続ける。
立ち位置を変え、狙うポイントを変え、森の中に居た一人も参加して愚直なまでに千本を放ち続ける。
それも時間にして十秒未満、空中に居る間の事でしかないので俺の行動もおかしくはない。
だから、影分身の最後の一人が真上に居る事にも気付かない。
気付けない。
そして、当然の如く殺気も気配も無く飛び降り、鈴を回収。
「っし、成功!!」
「なっ……っぁあ〜、まさかここまで上手く気配を消すとはなぁ」
「忍の本質は忍術がどれだけ上手いかとか、感情の操作が上手いかとかじゃなく、まず自分の存在を他人に知らせないって事でしょ」
「……うちの里の人って、無意味に強い人が多いからそう言うの気にしないんだよな、皆」
確かに、地味な人が少ない気がする。
上に行けば行くほど目立つ人が居て、その人達の印象が強いだけって気もするんだけどな。
伝説の三忍なんて一人は借金漬けでギャンブルが好きな永遠の二十代、一人はエロ仙人、最後の一人は術マニアのオカマだ。
凄いなぁ、木の葉。
「で、だ」
「何?」
「忍術をほとんど使わなかった理由は?」
「……後ろで覗いてる連中の自信、ぼろぼろにするのは良いんだけどやり過ぎたら問題だから」
「ま、そだなぁ」
ほんとの事を言えば忍術抜きだとかなり物足りないけど、仕方がない。
下手したらサスケ達を巻き込んで凄い事になりかねないからな、術なんて使ったら。
「アレだね、オマエが居るだけでこの試験の意味が無くなる」
「まぁ、この試験の本当の目的も知ってるし」
「あ〜、じゃあ、この試験やり直しか?」
……黙ってた方が良かったかな?
「でも、カカシ先生の合格基準を考えると他のテストも難しいでしょ」
「まぁねぇ」
でも、本当にどうしようか。
試験の答えを知っている俺が居る以上は前回と同じ結末を迎えるのは難しいだろうし、自然とその考えを持ってもらわなきゃ下手に誘導しても良い事はないだろうし、どうしたら良いのか。
「あ〜、とりあえず、時間切れか」
「無常だねぇ」
いや、無常で済ます訳にもいかないんだよなぁ、ここは。
答えを知ってると余計に困る問題ってのはどうしたものか。
カカシ先生を納得させる答えを出さないといけないし、そうしないと後で困る。
無理難題、だよなぁ。
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あとがき
戦闘シーンはキツイのですよ
忍者ですから、気配の読み合いとか色々と使えると言うか使った方が面白くなりそうな気がして、気配を消した影分身が決着つけたんですが……もっと上手い流れがある様な気がするんですよねぇ、この戦闘
尾獣云々の話……交えて一部考えなおしてみようかと画策中だったりします
この話のナルトは平行世界のナルトと考えたら都合が良いんですけどね
裏で色々な人が動いて暁潰したとか、仲間割れして暁は潰れてたとか、そう言う事にしちゃえば尾獣云々の話はそもそも知らなかったとか出来ますが……無茶ですよねぇ
そうすればこの話で暁云々、尾獣云々の話は始めて聞いたって事に出来て、原作との剥離部分を多少なりとも処理出来るんですが
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