――約十五分後――
「……思ったよりも早かったけど、ちゃんとゴハン食べたか、サスケ?」
「フン、オマエには関係ない」
ふ〜ん、昼を食べて少しは冷静になったのか?
ま、冷静なままで居させるつもりは欠片ほどもないけどね。
「さて、何から話そうか?」
「……知っている事、全て話せ」
ん〜、苦無をつきつけながら中々の殺気を放ってきてるけど、甘く見て三十点って所かな?
「うちはイタチ。
十三歳で暗部の分隊長を務め、その後うちはイ……いや、周りに人なんて居ないんだから、この程度の事で苦無投げるな」
名前を言おうとした瞬間に投擲された苦無を指に挟んで止め、苦笑を浮べながら振り返るとサスケは何故か怒りで顔を真っ赤にしてこっちを睨み付けていた。
これは本名を言われそうになったから怒っているのか、ヒナタに膝枕したまま振り返りもせずに苦無を受け止めたのがお気に召さなかったのか、どっちなんだ?
どっちでも良いけど。
「ま、怒り出しそうだから本名の所は省くとして、とにかくうちはイタチは“ある目的”の為にうちは一族を殲滅し里を抜け、現在はとある小組織に入る居る」
「な、に?」
「うちはサスケは兄を殺すと言う目的を糧に、日々修行を繰り返し……冷静な目で見たらツッコミ所満載な生活を送りつつ目的に邁進中、と」
あ、怒ってる怒ってる。
当然っちゃあ当然だろうけどな〜、今までの努力その他全部無駄だって言ってるんだし、俺。
「まず、今サスケが疑問に思っているであろう事に答えておこうか?」
「おい、ヒナタは……」
「ん〜、平気平気、幻術もかけてあるから、解かなきゃ起きないよ」
たぶん、良い夢を見てるだろう。
何か、幸せそうな寝顔だし。
「サスケ、何故オマエは誰にも師事していない?」
「それは……」
「下忍にもなれていないガキより上の人間なんてそれほど山ほど居る。
少し調べれば車輪眼のカカシって呼ばれる人が居る事もわかったはずだ」
「なッ!?」
前の時もカカシ先生の事を知らなかったみたいだけど、里の外でアレだけ有名な人の事が里の誰にも知られてないなんて事がある訳ない。
そもそも本人が知ってるんだから、里の人間だって知ってて当然だろう。
俺も調べた事は無いけど、少し調べればカカシ先生の通り名なんてすぐにわかったはずだ。
そして、俺ならともかくうちは一族最後の一人であるサスケがその情報を求めれば誰かが教えてくれたのは間違いない。
まぁ、血継限界である車輪眼をうちは一族以外の人間が持っているとは思わなかったのも仕方が無いと言えば仕方ないんだけどな。
それはそれとして、サスケは車輪眼に関わらない基礎に関しての相談を誰にもしなかった。
イタチは天より与えられた才と言うどうしようもないアドバンテージを持ち合わせていたんだ。
うちは一族や教師達からの助力を得ていた天才に、ほぼ独学状態のサスケがそのイタチを追い越そうと考えるのは無茶だ。
別に、誰かに話を通せば里の働き頭として多忙なカカシ先生は無理かもしれないけど、エビスさん辺りを紹介してくれたりしたかもしれない。
今の段階で木登りすら出来なかったんだから、基礎段階のチャクラのコントロール技術の向上とかにしても、いくらでもすべき事はあったんだから。
「キスしてわかったけど、食生活は適当、睡眠も十分取ってないだろ?」
「ッ、な、何でそんな話になる!!」
「良いから、聞いてろ」
「……次にふざけた事を言ったら、殺す」
無理だってわかってても言うのは乙女の恥じらいって奴なんだろうか?
実力の差とは無関係に夫婦喧嘩で何度か殺されかけた経験がある以上、油断は出来ないが。
「はっきり言うけど、無意味に肌が荒れる様な修行を俺等の年でやってたら、修行によって身に付く“何か”よりも失われるモノの方が多いぞ?
同じ体術を学んでも、疲労が蓄積した状態での修練を日常みたいにしていたら万全な状態でもその疲労時のおかしな癖が出るかもしれないし、それが弱点になるかもしれない。
筋力にしても修練の間に休憩を挟むからこそ身体も成長するし、さらなる成長が見込めるようになる。
何よりも、まともな先生の居ない状態で下忍が学ぶ範囲を逸脱した知識を身につけても、はっきり言って応用利き難いぞ?」
白との戦闘はチャクラを足に集中して速さでかき回して後は車輪眼に頼り、最終的には仮死状態。
次は確か大蛇丸……の、前に雨隠れのとやったっけ。
あの時は俺が縛り上げられて物陰に放置されてて、向こうは騙せたと油断してる所を強襲して一撃、その時は復帰した俺の苦無がなかったら巻物を奪われるなりなんなりしていただろう。
大蛇丸に関しては……最初は殺気にやられて、玉藻が暴走しかけたのを見て冷静になり、反撃してたけどアレはうちはの家の手裏剣術のちょっとした応用だ。
音隠れの連中はどうやったのかは俺も良く知らないけど、見ていた皆の話からすると呪印で強化した身体能力にモノを言わせて叩き伏せたらしい。
カブトだかヨロイだか忘れたけど、里に忍び込んでた大蛇丸の部下は車輪眼で真似たリーの動きにちょっとしたアレンジを加えて終了。
我愛羅の相手をした時はカカシ先生に教わったらしいけど、牽制も何もなしに千鳥と車輪眼だけで決着をつけてたな。
まぁ、あの当時の俺も玉藻の力と影分身で中忍試験の前後までどうにかして来た様な気がしなくもないけど、やっぱりカカシ先生達の使ってたような忍術を学んでみると自分がどれだけバカの一つ覚えをしてたか思い知らされた。
サスケも、基本車輪眼で千鳥とかちょっとした火遁を使う以外は体術でどうにかしてたし、下忍NO.1を名乗るのにそれで良いのかって話だ。
更に言えば、下忍レベルでそこそこのチャクラを持ってるとは言っても、常に変化してるせいで少ないチャクラ総量をさらに目減りさせている状態で十三歳にして暗部の分隊長すらこなしてたイタチに勝てる要素なんて何処にもないだろう。
「だから、今のお前にイタチの情報は教えてやら無い」
「なッ、ふざけるな!!」
「じゃあ聞くが、イタチの情報を得たらお前はどうする?」
「……殺しに行く」
「下忍になったばかりの俺すら殺せないお前が、どうやって?」
黙り込んだけど、不満そうだな。
どうせ刺し違えてでも、とか思ってるんだろうな。
実力差のある相手にんな事しようとしても、影分身相手に苦無突き刺したところで気がついたらあの世行きだろうに。
いや、イタチが相手なら何かする前に幻術で精神を壊されるなりして終わるかも知れないな。
と、言うか、そもそもうちは一族を復興させる事も重要だとか自分で言ってなかったっけか、確か。
死んでどうやって復興させる気だったんだろう?
「情報が欲しかったら俺に勝ってみせろ、何時でも挑戦は受けるぞ?」
「本当、だろうな?」
「ホントだけど、俺が勝ったら……また、キスしてやる」
「ッ、ふ、ふざけんな!!」
「ハッハッハッハッ、俺のこの目が冗談を言っている目に見えるか?」
ん、沈黙が答えか。
そんな、何週間も地下牢に拘束されていて、ある夜突然俺に夜這いかけられた時の多由也みたいな顔しなくても良いのに。
「心配しなくても、次は真面目に気持ち良くなるようにするぞ?」
「そんな心配はしてない!!」
「男の姿でキスされるのがやなら、その上から変化の術でも重ねがけすれば良いだろ」
「そう言う事でも無い!!」
「ま、俺を確実に倒せる自信が付くまで倒そうとしなきゃ良いだけだよ」
十八年以上のキャリアの差なんてどう考えても埋められる訳も無いから、俺がサスケにキスをする機会が増えて俺は嬉しいってだけだ。
「っと、話し込んでる間に時間になったみだいだな、さっさと行かなきゃ『解』」
ちょうど昼休みの終了を告げる鐘も鳴ったし情報源を聞かれたりすると面倒だから、ヒナタにかけた幻術を解いてさっさと逃げる事にしよう。
「ヒナタ、起きろ、ヒナタ」
「ん、ぁ、なると……くん?」
「ああ、おはよう」
「うん、おはよぉ」
まだ幾分眠そうなぼんやりとした顔で起き上がり、少し幼い感じの仕草で眼をこすっている。
良い寝惚けっぷりだな、本当に可愛らしい。
俺の中身が三十歳の時のモノじゃなく、肉体年齢通りで女を意識していたらたぶん押し倒してたぞ?
いや、あの頃の俺なら真っ赤になって照れるだけかもしれないな。
どっちにしろ、何となく幸せな気分になれたから俺としては大満足なんだが。
「さ、ヒナタ、サスケ、集合時間に遅れるから、行くぞ?」
「うん」
「……ああ」
事実を知らない奴から見たらヒナタが両手に花状態に見えるんだろうが、事実を知ってる俺からすれば俺こそが両手に花を抱えている状態だ。
前と同じ様に、最終的には両手に抱えきれないくらいの花束を持ちたいもんだけど、どうなるか。
――二時間後アカデミー教室――
「ん〜、俺達の先生、遅いねぇ」
言いながら、俺が持ち込んだティーカップを傾けて紅茶を飲む。
カカシ先生じゃなかったら無駄になったろうが、やはり担当上忍はカカシ先生だったのか無駄にならなくて良かった。
いや、朝から用意しておいたケーキも無駄にならなくて良かったよ。
カカシ先生じゃなかったとしても、一緒になって優雅なティーパーティーとか言ってれば良いんだが。
「ね、ナルト」
「何、サクラちゃん?」
昔の通り、ちゃん付けで呼んでるんだが、呼び捨てに慣れてたせいか違和感があるな。
「本気でこのケーキ、アンタが作ったの?」
「ん、そうだけど、それがどうかした?」
「……何でもないわよ」
ああ、サクラって料理下手だからなぁ、コンプレックスでも刺激したか?
ちなみに、サスケは無関心を装いつつもそこはかとなく幸せそうにケーキを食べている。
聞いた話によるとこの当時って男のフリをする以上、甘い物が好きだなんて公言する訳にもいかなくて甘い物はキライだとか言って我慢してたらしいから、久しぶりの甘い物が嬉しいんだろう。
それにしても、前は何もせずに二時間も素直に待って黒板消し一つで我慢したよな。
今回、こののどかなお茶会を開いてなかったら、致死レベルのトラップしかけてたぞ?
っと、やっと来たな、カカシ先生。
「…………のどかだねぇ」
「カカシ先生も、飲む?」
「ん〜、どうせなら屋上に移動しない?」
「ああ、良いなぁ、それ」
なんか、今回はカカシ先生からの第一印象が良いのは何故だろう?
前の時は自分からわざと黒板消しにぶつかって怒ってたのに。
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あとがき
やっと、やっとカカシ先生登場!!
さっさと鈴取りが書きたかったのに……ヒナタ&サスケとの絡みを書いてたら何時の間にかこんな長引いちゃいましたよ
ミズキは中忍とは言え必ず瞬殺されるイベントキャラなのでまともな戦闘シーンは鈴取りが始めてなのに
戦闘シーンって下手の横好きと言う奴であまり楽しめない可能性が大ですけど、サスケとサクラの自信とか過信とかがボロボロになる事は一応確定しています
このナルトは、実力を隠す気なんて髪の毛ほどもありませんから
前の時は、玉藻のチャクラのおかげで急激に強くなったので、それが原因でサスケが大蛇丸の所に逃げてしまったと思っているので、最初から自分は強いと言う所を見せ付けて、自分を目標にしろとでも言いたいんでしょう……たぶん
実際の所、越えるべき壁として存在させるつもりなんですが……三忍クラスの忍が超えるべき壁って高過ぎて挫折しますよね、ほぼ間違いなく
…………ま、わかっててもそう言う設定で行くつもりですが
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