「……見つけたぞ、コラ!!」

「あ、イルカ先生、こんばんわ」

「ああ、こんばんわ……って違う!!!

さすがイルカ先生、ノリツッコミを無難にこなしてくれるとは。

……いや、覚悟してはいたけど、二度も耳元で叫ばれると結構効くな。

「でも見つかっちゃったかぁ、まだ術一個しか覚えてないのに(とっくの昔に全部完璧に知ってますって言ったら何て言うかな、イルカ先生?)」

「お前ぇ、ボロボロじゃねーか……いったい何してたんだ?」

ミズキの奴は……様子見してるのか。

とりあえずは記憶通りに動いて問題は無いな、ここは。

それに、イルカ先生に心配かけるのもヤだし。

「そんな事よりこれから凄い術を見せるから、それが出来たら合格にしてくれないかな?」

やっぱりここは影分身だろ。

アレって玉藻のチャクラも使える俺には使い勝手が良いし、何よりも長く俺と一緒にあり続けた思い出の術だ。

……あ、影分身で小人作ったら凄い事になるかも。

手の平サイズの俺が数千単位で手斧片手に強襲……口寄せの大蛇に食われなければ大蛇丸の相手、十分出来るんじゃないか、もしかして?

「ナルト……」

「ん?」

ダメだ、物凄い光景を妄想してて意識が別の方向に飛びかけてた。

「その背中の巻物、どうしたんだ?」

「あぁ、コレ?
 ミズキ先生がこの巻物の事教えてくれて、それでこの場所の事も……で、この巻物の術を見せたら卒業確実だって」

イルカ先生も気付いたか。

その瞬間、タイミングを計っていたミズキが大量の苦無が投擲してくる。

イルカ先生が動き俺を突き飛ばそうとする瞬間、イルカ先生の腕を取りタイミングを合わせ俺自身も後ろに飛び、勢いを合わせて無理矢理一緒に飛んで距離を伸ばす。

だけど、チャクラで身体強化をしても腱とかに小さくないダメージがあるな。

もう少し余裕があるかと思ったんだが、予想以上に大きいなこのダメージ。

身体の違いのせいで、思った以上に身体に負担がかかったらしい。

俺の治癒力でも数秒は動けそうにない。

「へぇ、よくかわしたなぁ」

「ミズキ!!」

追撃してくるかと思ったんだが話しかけてくるとは、予想以上にダメ忍者なんだな、ミズキって。

イルカ先生は無傷だし、俺にしても見た目で言えば無傷だ。

イルカ先生も俺の行動に驚いて隙が出来ていたけど、もうとっくの間に臨戦態勢に入って居るぞ?

それはともかく、この会話の最中に回復は間に合うか?

いや、間に合わせよう。

「ナルト、巻物を渡せ」

偉そうだな、ミズキ。

実力が上のイルカ先生が無傷で居るのに、何調子に乗ってるんだ?

「ナルト、巻物は死んでも渡すな。
 それは禁じ手の忍術を記して封印した危険な物で、ミズキはそれを手に入れる為、お前を利用したんだ」

余裕があるから、イルカ先生が処理するって事か。

どちらにしろ俺に実力があるとは思っていないだろうから、この判断も仕方がないだろう。

でも、イルカ先生の希望通りに逃げる訳にはいかない。

「ナルト……その巻物はお前が持っていても無いんだ、本当の事を教えてやるよ!!」

「!! バ、バカ、よせ!!!」

「十二年前……化け狐を封印した事件は知って居るな?」

こんな偉そうに語ってるけど、アレが別の里の忍による工作の結果だって事知らないんだろうなぁ。

雲と霧、それに雪の里の合同で行われた木の葉潰しの為の破壊工作の結果、玉藻が狂気に走った。

どれだけきっちりと説明したとしても、三代目のじーちゃんや師匠でもなければ冷静に受け入れる事は出来ないだろう。

「あの事件以来、里では徹底したある掟が作られた」

「……ある、掟?」

この男の本性が良くわかる、情けなくて、醜悪な面だ。

「お前の正体がば「止めろ!!」

やっぱり、この人は優しい。

まだ割り切れていないだろうに、それは日常の行動の端々から見て取れるのに、俺の為に叫んでくれる。

動揺し、怒り、叫んでくれる。

……でも、戦闘中にちょっと動揺し過ぎ、イルカ先生。

「ウルセェな、とにかく、お前は化け狐なんだよ」

「止めろ!!止めろ!!止めろ!!」

叫びながらイルカ先生が苦無を大量に投擲しつつ距離を詰めるが、冷静さを欠いるからかあっさりと回避されている。

だけど、あれは本当に動揺してるんだろうか、イルカ先生は?

何かが違うような気がする。

ミズキはそんな違和感にも気付く事無くかわしながら、気分の悪くなる面で、不愉快な言葉を発し続ける。

「イルカの両親を殺し!! 里を壊滅に追い込んだ九尾の妖狐なんだよ!!
 お前は憧れの火影に封印された挙げ句―――」


「止めろーーー!!」

「里の皆にずっと騙されていたんだよ!!
 おかしいとは思わなかったか?
 あんなに毛嫌いされて!!」

それでも、優しくしてくれる人は居た。

それにミズキの言う通りなら俺を生かしとく理由なんて無いだろう。

いや、毒盛られたり、路地裏に連れ込まれてリンチされたりと何回か殺されかけた事もあるけど、それは相手が何も知らない一般市民だったから、だろう。

……忍の連中に襲われた記憶もあったりするけどさ。

それでも、こうやってイルカ先生は俺の為に叫んでくれる。

これ以上、俺を守ってくれている人が居る事を証明するモノはあるか?

「イルカも本当はな、お前が憎いんだよ!!
 お前なんて誰も認めやしない!!
 その巻物はお前を封印する為の物なんだよ!!」

まぁ、確かに屍鬼封尽の術も載ってるけど、それだけじゃないぞ、コレ?

そんな事はどうでも良い。

「……イルカ先生は、優しいぞ?
 それに、三代目のじいちゃんは俺を見守ってくれてるし、日向・犬塚・奈良・秋道・山中・油女の当代当主達は身体を張って護ってくれた事もある。
 父さんが担当上忍をしていたはたけカカシさんは忙しくて休暇なんてほとんど取れないのに休暇の時に影から身辺警護をしてくれる事もある」

あ、イルカ先生が固まった。

秘伝忍術だの血継限界だのを継承してる家の当主の名前に、里一番の使い手の名前が出てくれば驚くのも当然か。

知らないはずの事、だからな。

そう言えば、テウチのおっちゃんって俺の為に暗部止めてラーメン屋になったとか聞いた気がする。

ラーメン命とか、孫娘命とか、その為に忍者辞めたとか言われても納得出来るけど。

「辛い事も確かにあるしイルカ先生には叱られてばっかだけど、イルカ先生が優しいのは俺が知ってるから。
 だから、イルカ先生はそんな辛そうな顔をしなくても良いよ」

「ナル、ト?」

『人は……大切な何かを守りたいと思った時に、本当に強く慣れるんです』だったよな、白?

俺は、多少なりともそれを理解出来た。

お前の言葉は、俺の中で確かなカタチを持って残った。

「こんな奴、俺がぱっぱっと捕まえちゃうから、さ」

「ぷっ、ッハハハハハハハッ、ほざくんじゃねぇよ!!
 テメェみてぇなガキなんざ一発で殴り殺してやるよ!!」

「貴様程度の力量で俺を殴れる訳が無いだろう?」

今度は、本気を出す。

こっちに来てからまだ玉藻と逢ってないから玉藻の力を引き出す事は出来ないけど、それでもミズキの一人や二人、叩きのめすのに不足は無い。

と、言うか多過ぎるくらいだ。

例えこの時代の誰もそれを知らずとも、俺は狐神。

木の葉を守る、血塗れのカミサマだ。

「ふざけんな、クソガキが!!!!」

叫び、背から取り外した風魔手裏剣を力一杯投擲してくる……いや、至近距離なんだから殴った方が確実なのに、何がしたいんだ?

あぁ、何かの布石のつもりとか?

ま、舐め切ってるだけだろうけどな。



「影分身の術」

「なッ!! 何だとぉ!?」

いや、俺もビックリだよ。

実力を隠して叩きのめす予定だったから百体も分身すれば十分だと思ってチャクラを押さえたのに、何でこんな千体を越える位に分身をしてるんだ、俺は?

「え、なッ、何だ!?」

イルカ先生の慌てた声に振り返ると、何故か試験の時に出て来たのと同じサイズの七人の俺がイルカ先生の頭を撫でてるし。

……アレは、何だ?

「あ〜、うん、一部俺にも理解不能な現象が起きてるけど、まぁ、覚悟決めて殴られろ、な?」

とりあえず、ミズキをボコっておこう。

何するにしても、それからだ。






――二十分後――


「人数が人数だから手加減したつもりだったんだけど、やっぱりちょっとやり過ぎた、かな?」

まぁ、顔形の原型留めてるし、生きてるから問題は無いか。

それよりも問題はイルカ先生の方だ。

「えっと、その、イルカ先生?」

「…………何だ?」

うわ、力一杯怒ってるよ、イルカ先生。

やっぱ、生み出した俺にも意味不明な小人七人衆の行動に相当怒ってるみたいだな。

……………撫で回されて、化粧されて、髪型で遊ばれたら怒って当然か。

やっぱ、妙に似合ってて綺麗に見えるのが問題なのか?

「えっと、その、似合ってるよ、イルカ先生」

「喜べると、思うのか?」

「あ〜、やっぱり?」

前はここで感動の会話だったのに、小人達のせいで台無しだよ。

「……はぁ、ナルト、こっち来てちょっと目、つぶれ」

「え、あ、うん、わかった」

ん、ここからあの流れに持ってくのか?

ともかく、“思った以上に細い指”でゴーグルが、外された。

そして、コレは……額あてを、つけてもらってるんだ。

「チュッ」

…………で、何だ、今のは?

何か、頬に唇が当たった様な感触だったけど、いや、何事、コレ?

確かにイルカ先生って四十近くなっても独身がどうこうじゃなくて、浮いた噂の一つも聞かなかったけどさ、ゲイの人でショタの人だったのか!?

「目、開けて良いぞ」

「あ、う……………誰?」

声、違う。

体臭、違う。

面影あるけど、顔も、体形も別人だ。

「イルカだが?」

あの、不適に笑われても困るんですが。

「あ〜、えっと、もしかして………変化の術?」

「そう、これが素顔」

いや、確かに暗部にイルカって名前の人は居たよ?

居たのは知ってるし、実際に何回も逢った事あるけどチャクラの質とかも完璧に別人だったよ?

しかも、三代目のじーちゃん直属でそれ以外の火影の言葉はさらっと聞き流したりする暗部最強とか言われてる人のはず。

……でも、あの人は女の人だったはずですよ?

「ま、卒業祝いだと思って、気にしない気にしない」

「いや、気にするって、イルカセンセー!!!」

「仕方ないなぁ、今日は卒業祝いに一楽のラーメンを御馳走してあげるから、ついて着なさい!!」

待って、何だかキャラクターも違うよ、イルカ先生。

でも、イルカ先生はどんどんと先へと進んで行く。

……あ〜、うん、決めた。

イルカ先生も怪我しなかったし、ラーメン奢ってくれるならそれで良いって事にしておこう。

このイルカ先生については後で三代目のじいちゃんにでも問いただせば良いし。

「ん〜、今日は良い月だねぇ」

「うん、本当に」

現実逃避には持って来いの月夜だ。






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あとがき

イルカ先生が女の人だったら面白いなぁ、とか思ったりしましたよ?

でもサスケをTSさせるんだからそっちはダメだろうとか思ったんですが……さて、私は何処で間違えたんでしょう?

小人の活躍に期待されたからって何してますか、私

最初はイルカ先生、憮然としつつも卒業おめでとう、ラーメン食いに行こうで終る予定だったんですが……女性化してキスでもしてきたら面白いかなぁとか思ってしまったのが運の付き

たぶん、このイルカ先生はカカシの相方になります……たぶん



あぁ、あとがきの部分を追加した理由はこちらで本文の言い訳をしたりしている事があるので、必要かな、と思っての事ですので、深い意味はありません





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