第三話



横島忠夫が倒れて五年の時を経たが、彼が眼を覚ます兆しすら見せずただ時だけを刻んで居た。

死んだかの様に眠ったままの横島忠夫ただ一人を残し、誰もが望む望まざるに関わらず、時は確実に全てを先へと進めて行く。




case.1 伊達雪之丞


彼の五年間はとてもシンプルだ。

今までフラフラと各地を放浪して修行していたが修行先を妙神山に固定し、一年の約三分の一をそこで過ごして己を鍛え続けている。

そして残りの三分の一は闘龍寺の跡取りとして除霊の仕事を行う様になった弓かおりの傍らに居り、残りの全ては好敵手であり親友でもあるたった一人の男を護る守護者として過ごしている。

最初はただ、『コイツが眼を覚ましたら、ぶん殴る』と冗談交じりに告げただ見守るだけだったが、状勢がそれを許さなかった。

魔王の一柱が魂の牢獄から外される事によって生まれたパワーバランスの崩壊。

過激派と呼ばれる者達が暗躍を始めるには十分過ぎる要因だ。

そして下級とは言えど魔族を多数。

更には魔王すら討ち果せ、文珠と呼ばれる稀有な能力を持つ横島忠夫と言う肉体と魂は対魔族戦において切り札として申し分の無いモノだった。

故に横島忠夫は魔族を滅ぼすと言う強迫観念とも取れる思考に囚われた神族達にとっては重要な、神族に力を持たせられないと判断する魔族にとっては厄介な人間……いや、物となった。

それ以来、横島忠夫の肉体と魂を欲する神、横島忠夫の肉体と魂を滅ぼそうとする魔、横島忠夫を護ろうとする者達の間で幾度と無く争いが起こる事となった。

故に、伊達雪之丞は友を護る為に己を鍛え、戦い続けている。

自分は何の役にも立てなかったから。

今度は青年が約束を成し遂げる手助けをすると決めたから。



昔の彼を例えるならば、ただ鋭くする事だけを目的に鍛えられ、研ぎ続けられた剣。

今の彼を例えるならば、護ると言う目的の為にさらに鋭く、さらに強く、鍛え振るわれる剣。


………彼と彼の恋人との関係は上手くいってるらしいが、実家との折り合いが悪く結婚まではしばし時間がかかる模様だ。




case.2 ピエトロ・ド・ブラドー


彼の日常は明らかに変化を迎えた。

本来彼は高校を卒業すると同時にオカルトGメンに就職するはずだった。

だが、彼はその道を選ぼうとはしなかった。

彼は唐巣神父の元で更に修行を積み、時間を見つけては故郷のブラドー島に戻り父から吸血鬼としての力の扱い方を学び、妙神山で全てを鍛え続けた。

時折、恋人の小笠原エミとデートをしながらも彼もまた自分を差別せず一人の友人として接してくれた友の為に己を鍛え、戦い続けている。



昔の彼を例えるならば、蝋燭の明かりで隅が少し照らされ全体像が把握出来ない何か。

今の彼を例えるならば、全体が照らし出され、見る者に畏怖を与える英雄譚の綴られたタペストリ。


………恋人にせっつかれているので、結婚まで秒読み間近のようだ。




case.3 タイガー寅吉


彼の日常は、横島忠夫の元から彼の蛍の化身が消えた時より変化を向かえていた。

己の不甲斐なさに怒り、己を鍛え、学び続けている。

ただ一時期それが原因で恋人と喧嘩になったが、最終的には元の鞘に戻ったらしい。

それも当然だろう。

強くなる事に固執したのは、彼が強くなると決めたのは、親友の役に立ちたいと願うのと同様にその嘆く姿に己と己の大切な女性の姿を重ねて見たからなのだから。

だから彼は鍛え続け、親友を護りながら恋人との日々を大切にしている。



昔の彼を例えるならば、紙に描かれた張子の虎。

今の彼を例えるならば、野生に住まう威厳と存在感、そしてしなやかな力強さを持つ白虎。


………このカップルの様子を見るに、今年度中に結婚する可能性も高いだろう。




case.4 西条輝彦


彼の日常は、然程変化して居ない。

朝起きて支度を整え仕事に向かい、緊急の仕事が入らない限り深夜零時近くに帰宅。

途中互いに否定しあうが弟分である青年の見舞いに向かい、変化の無い様子を数時間見舞った後帰宅。

彼の生活に変化は無い。

彼は己の無力さを知り、それでもなお正義の名の下に邁進する。

彼の“家族”を守る為に邁進する。

何時か帰ってくると信じている弟分をからかう材料を探す事に余念は無いが。



昔の彼を例えるならば、愚直なまでにレールを進む列車。

今の彼を例えるならば、進むべき道を己で選び、必要とあらば道なき道を進む自動二輪。


………美神令子への思いは吹っ切ったが、ついでに女性に対する思いまでふっきってしまったのか、恋人も作らず仕事に邁進している。




case.5 ドクター・カオス


彼の日常は変化しない。

若返りの影響で過去の知識を取り戻したので金銭面での苦労が無くなった、その程度の事。

彼はただ知りたい事を知る為に調べ、学び、歩み続ける。

彼が今一番望む知識、それは一人の青年を救う術。

賢者の石の作成でも、世界の真理を知る等と言うモノではなく、ただ一人の青年を救う術。

故に、彼は日々変わらず学び続けている。

青年と午後の紅茶を楽しんでいる時

『何だな、俺にはじーさんって居ないけど、居たらカオスみたいになるんかな?』

と、ちょっと思いついた事を言ってみた、と言う感じで言われた言葉を覚えていたから。

千年の時を経て初めて孫と言う存在を持ったから。

千年の時を経てたった二人しか居なかった家族に新しい一人が加わったから。



変わらぬ彼を例えるならば、蓄え、加工し、生み出す精錬所。




case.6 唐巣和宏


彼の日常はほんの少しだけ変化した。

魔王を滅ぼす戦いの最前線に立った数少ないキリスト教徒。

ヴァチカンの、それも世俗に塗れた者達の手によって本人の意思に関係無く司祭の地位が与えられたし、GS協会の上層部からも幹部として勧誘されたりもしているがそれは些細な事。

自らの信じる神の教えに従うと決めている彼はそれの邪魔にならないのであれば受け入れるし、邪魔になるのであれば無視をするだろう。

実際に今現在無視している。

「私が仕えるのは主であり、主の教えです。
 それに伴う責務は負いますが、今の私には今の私が背負っている以上の責務を負うだけの力はありません」

そう言って彼は今もほんの少しだけ変化した日常を送っている。

朝の礼拝、教会の清掃、食事、仕事の依頼があった場合はそれを処理し、教会に駆け込んできた人達を救い、そして病院へ向かい眠り続ける一人の青年に無意味とわかっていてもヒーリングを施し、そのまま青年の友人達と共に護衛を勤め、日付が変わってから教会に戻り夜の礼拝を行い眠りに付く。

彼は後悔し、己の不甲斐なさに憤激している。

自分を含めた大人達が不甲斐ないばかりに心に傷を負い、本来ならば大人が背負わなければいけなかった罪業を背負い、想い人の未来を守りたいが為に己の命を縮め、未だ眠り続ける青年に対してまた何も出来ない己に対して。

神族や魔族に知り合いは居るし、反デタントの中でも過激派に分類される神・魔の行いや言葉を見聞きしてきている以上、神と言えども汚れる事があるのは理解している。

悩み、疑念を感じ、それでも彼は主を信じ、出来る事を行い続ける。

ある日、懺悔を行い青年に背負わせた物の重さを理解してしまったから。



昔の彼を例えるならば、変化する事のない水槽の中の水。

今の彼を例えるならば、時に穏やかに包み込み、時に全てを押し流す海の水。




case.7 ジークフリード


彼は様々な思惑が飛び交う中、階級が上がり少佐となって神魔の最高指導者以外からの指図を受けずに動ける様になった。

青年を護る事は償いでもあり、何より青年を襲おうと動く過激派の処理が出来ると言う事情もあり、彼は動かせるだけの戦力を用意し神や人と共同でその護衛を勤めている。

そして彼は護衛の傍ら調べ続けている。

青年を救う術を求め時に神族に頭を下げ教えを請い、青年を襲う敵を屠り続ける。

少年との出会いは約八年前。

神や魔、妖にとっては瞬きの狭間の出来事と言っても差し支えの無い時間の密度の濃さに、心に占める割合の大きさに驚かされる。

青年と出会った当時の彼は魔族の衝動を御しきれていなかったが、今は青年の為に、青年を想う姉や少女達、そして戦友達の為に制御している。

年の離れた戦友の為、彼は進めなかった一歩を踏み進む。



昔の彼を例えるならば、絵に描かれた英雄。

今の彼を例えるならば、その名の通り、この世に帰りし一人の英雄。




case.8 美神令子


彼女自身は変化していないと思っているが、周りの人間にはまったくの別人に見えると言う。

時勢故、高額の依頼料を取れず依頼料は全盛時より少なくなったが、現在事務所には霊具を用いず除霊を行える人員が揃っている上、若返ったDr.カオスの手による破魔札等を安価で入手出来る為、収益は向上している。

ただ、これは時の流れであり変化と言う訳ではない。

変化はそれ以外のそこかしこに見受けられる。

まず、服装は喪服の様な黒いパンツスーツを好む様になり、金銭に対する執着も青年が居た頃とは比べようも無いほどに薄れた。

これは以前もそう言った傾向はあったのだが、世界でもトップクラスのGSと呼ばれるだけの実力を持つ身でありながら更に貪欲に力を、知識を求め続けている。

彼女は既に自分の、メフィストフェレスの想いに決着をつけている。

青年と蛍の少女の繋がりを見、その慟哭を聞き、彼女は雇い主と言う立場でも女としてでもなく、姉として、家族として青年の隣に立つ事を決めた。

……蛍の少女を産んでくれと頼まれたら、迷わず受け入れたろうが。

気持ちに決着をつけた彼女は彼が誇れる姉であろうと、帰って来た時に周囲の者達が一人でも居なくなっていれば彼は悲しむだろうと、彼女は己を鍛え続けている。

大切な、家族の為に。



昔の彼女を例えるならば、深海の底で母に包まれ心地良く眠る真珠。

今の彼女を例えるならば、包み込む母性と深い悲しみを抱いた大いなる海。


………恋愛感情の全てを師弟愛、姉弟愛に完璧に置き換えてしまったのか浮いた噂の一つも無い。




case.9 美神美智恵


彼女は今まで以上の激務をこなしている。

一人の青年が神・魔に狙われ頻繁に戦闘が行われていると言う事は様々な筋から即座に宗教団体や日本政府へと伝えられた。

神・魔の混成部隊によって護られている状況なのだ、確実にそちら方向で処理出来れば便利だと判断する者も確かに居るだろうから、何の不思議も無い。

そして、それを知った人間達は神・魔が狙った通りの行動に出た。

神・魔との敵対等するべきでは無い、そんな危険な存在が居るのならきっちりと殺してしまえ、と。

そして、GメンやGS協会の幹部、果ては政府の人間を相手にした暗闘が始まった。

難癖をつけて来る連中をいなし、マスコミに情報が流れそうになれば押し止め、並の人間なら倒れて入院するであろう激務を子育てをしながら続けている。

激務の合間に皆から頼まれた書物を探し、必要な材料があれば用意し、余裕が無くともひのめを連れて青年の見舞いに向かい、青年を護る為の戦闘に参加する事もある。

まるで己の命を削る様な日々を、彼女は躊躇いなく送る。

彼女もまた、悔いている大人の一人だから。




case.10 美神ひのめ


少女は成長した。

八歳になって周囲の状況を認識出来る様になった少女は、物心付く前から優しかった少年を一途に想い続けている。

そして、目覚めぬ少年の役に立てるのならと血反吐を吐きながら己を鍛え続けている。

それが兄に対する想いなのか、一人の男に対する想いなのか、それすらもわからないまま少女は鍛え続けている。

泣きながら、血を吐きながら、鍛え続ける。

青年が、おぼろげな記憶の中で自分を抱き上げた時

『ひのめちゃんは……幸せにならなきゃね』

と、何かを諦めた様な声で、柔らかく微笑みながらも呟いたのを覚えているから。

理由もわからぬまま、青年“も”幸せにならなきゃいけないと思ってしまったから。



成長続ける幼き乙女、その身に宿す炎の如く、己の想いを火種に変えて、ただ想う青年の為に燃え盛る。




case.11 犬塚シロ


彼女は変わった。

見た目も成長したし、何よりも内面が成長した。

感情を制御する術を学び、激する事はあれどそれは日常においてのみであり、以前の様に戦いの最中に感情を暴発させる事など無くなった。

武士道を標榜していてもそれに拘る事は無くなり、武士道は生き方だと判断する様になった。

撤退、卑怯な戦法、不意打ち、全て戦術として必要ならば躊躇わなくなった。

正攻法が好きなのは相変わらずだがそれに対する執着は無い。

出会った時と変わらぬ様子の師が心に抱いた傷を知り、それを受け入れた師に彼女は涙した。

師が苦しんで居る時に何も出来なかった自分に怒り、師の肉体を狙う敵に怒り、彼女は己を鍛え続ける。

その想いが師への思慕ではなく、一人の男に対する愛情だとは気付かずに。



昔の彼女を例えるならば、無邪気にじゃれつき考えずに事に従う子犬。

今の彼女を例えるならば、己が意志で立ち、己が意思で生きる狼。


………容姿は美しく、精神もそれに伴っている以上は男に求められる事もあるが、彼女は全てを断って居る。

自らでは理解出来ぬ師と呼ぶ青年への想いが故に。




case.12 タマモ


彼女の変化は彼女と彼女が家族と認める者達にしか見て取れない。

だが、彼女は間違いなく青年と過ごした三年の内に少しずつ変わって行った。

青年の力を理解し、その内面を、その内にある傷を理解した時、己の内に芽生えた想いを受け入れた。

表面上は変わらないが忌避していた過去の力すら取り戻そうと修行を重ね、青年を護り続けている。



昔の彼女を例えるならば、怯え、距離をとろうとしながらも人と離れる事をこそ恐れる子猫。

今の彼女を例えるならば、孤独の辛さを知り、孤独である事の弱さを知り、家族と共にある事を選び孤高を捨てた狐。


………年を経た彼女は傾国の美女と歌われた通りに美しく成長したが、求愛に答える事は無い。

彼女に取って大切な男は、想うべき男は一人しか居ないと決めているから。




case.13 氷室キヌ


彼女の日常は変わらない、変えない。

当然修行は続けているし、横島忠夫を見舞い、戦闘によって負傷した面々のヒーリングを行ったりと言う行動は取っているが、それでも彼女は変わらない。

高校を卒業し、GS資格を取得し、大学を卒業したが彼女の日常は変わら無い。

多少修練の時間や書庫に篭って何かを読んでいる時間は増えたが、彼女は日常を変えてはいない。

彼女は日常がどれだけ大切なのかを理解しているから。

そこにあって当然のモノが失われる恐怖を、死によって奪われると言う恐怖を彼女は理解しているから。

だから、彼女は変わらない。

青年が帰ってくるその時まで、彼の帰るべき場所の一つである自分達の居る場を保ち続ける為に。

青年が蛍の少女が座っていた椅子を見ながら

『日常ってのは簡単に壊れちゃうから、それが続けられるってのはホントに幸せだよなぁ』

とそっと壊れ物に触れる様に、誰にも聞かれない様にと小さく呟かれた言葉を覚えているから。



彼女を例えるならば、全てを受け入れ、それを優しく抱きしめる母。


………元来持ち合わせていた清楚な雰囲気と、年を重ね大切なモノを護ろうと言う決意を抱いた少女は女性となり、当然の如く求愛されては居るが答える事は無い。

彼女の全ては幽霊であった頃から一人の男の物だから。




case.14 小笠原エミ&六道冥子


彼女達も変わらない。

時折恋人や友人に付き添って少年の見舞いに顔を出し、その前後に襲撃があれば防衛に参加したりする事もあるし、求められれば蔵書や秘蔵の薬品を提供したりもするが基本的に距離を置いている。

彼女達にとっても少年が大切な事は他の面々と変わりは無いが、だからこそ距離を取る。

最悪の事態が起きた時、一時の激情に流れて親友や恋人、その友人達が最悪の選択肢を選ぶ事を避ける為に。

彼女達は少年が失われる事で起きる悲劇を妨げる為に、少年が絶対に望まない結末を防ぐ為に、変える事無く日々を送る。



………エミはそろそろピートに結婚を決めさせようと決意しているが、六道冥子は未だ恋愛感情と言うモノを理解出来かねているのか“友達”として鬼道政樹と買い物に出かけたりしている。




case.15 小竜姫


彼女は日々青年の盾となるべくその傍らに控えて居る。

近衛の如く、従者の如く。

彼女を知る者達は彼女が変わったと言うだろう。

青年を護る為に己の役目を放棄し、青年を護る為なら不意打ちだろうと卑劣な手段だろうと躊躇わずに行うようになった。

責任感が強く、正義感が強く、まっすぐに正道を歩む竜神の変化に、皆は驚いた。

だが本人は別段自分が変化したとは思っていない。

彼女はただ妙神山の管理よりも青年を護る事に責任を感じているだけであり、正義に多面性があると言う事を理解し、青年を護る事と正道を歩む事に対して天秤が青年の方に重きを置いただけだ。

彼女は悔いている。

彼女は日々己が無力さに歯噛みしている。

己が見出さなければ青年は普通の青年として生きていたのではないか?

己が無力でなければ青年はあの様な傷を負う必要は無かったのではないか?

その疑問の答えは出ている。

青年がその言葉に答えを出しているのだから。

青年は

『小竜姫様が俺の力に気付いてくれたから、俺はアイツと出会えたんスよ』

と幸せそうに微笑みながら答えた。

青年は

『それを言うなら俺だって同じっスよ。
 才能があるって言われてそこそこの能力を手に入れ、それを磨きもせずに今これで十分だからこれで良いとか考えて、感覚と惰性で生きてきたその結果っスから。
 今、皆から色々な知識や技術を教えてもらったからこそわかるんスけど、誰かの責任を追及するだけなら簡単なんスよね。
 それと同じか、それ以上にこの結末を迎えたのは誰でもない、俺の責任だって事も解っちゃうんスよね』

と泣きながら謝り続ける竜神に困った様に微笑み答えた。

故に彼女は青年の横に立つ。

正道から外れ様と、邪道とそしられ様と、ただ青年の、己の為に。



昔の彼女を例えるならば、英雄に憧れる何も知らない子供。

今の彼女を例えるならば、世の正邪を知って尚、歩み続ける傷を背負いし英雄。


………精神面の成長によって今までとは違う硬さのない凛々しい空気を纏う様になってからは求婚を求める者は神界に居たが、彼が転生しても自分の幸せ等求めないと言って断り続けている。

それが、青年に対する思慕の情だとはわからないまま。




case.16 魔鈴めぐみ


彼女の生活は変化していない。

研究の対象が眠り続ける青年を目覚めさせると言う方向に変化した事と、毎日欠かさずに青年に会いに行くと言う事以外は。

己が知識で足りないと言うのであれば貪欲に知識を求め、青年の為に動き続けている。

誰に言われた訳でもない、理由もわからない、ただ青年が眠り続けているのが嫌だから。

ただ青年に笑ってほしくて、自分の作った料理を食べて美味しいと言ってほしくて、何でも良いから話をしてほしくて、だから彼女は青年の為に動き続ける。

何時、何故そう思う様になったのかなんてわからない。

ただそうしないといけないと己の内からの声に従っただけ。

ただ青年に目覚めて欲しいから。



変わらぬ彼女を例えるならば、目的の為に全てを用いる一軍の将。


………求愛される事もあるが彼女は断り続けている、自覚のない愛情に殉じて。




case.17 花戸小鳩&愛子


彼女達も生活は変えない。

学校を卒業し、就職はしたが彼女達の心から青年の姿が消える事はなかった。

ある日突然自分達の目の前から消え、事情を知る人からは何も教えてもらえず、ただ『生きて居る』と言う言葉を糧に日々を過ごす。

青年の上司である女性から言われた

『貴女達もアイツの日常なのよ、だから……出来たらそのままで居て』

意味は解らなかった。

解らなかったが、彼女達は躊躇う事無くそれに従っている。

青年の為。

彼女達が判断を下すには十分な理由だから。



………器量が良く、見た目も人並み以上な小鳩は交際を申し入れられる事も、結婚を申し込まれる事すらあったが自分の想いが誰に向かっているのか理解しているから断り続けている。


………自分が妖怪である事を理解しながらも愛していると告げてくれた男も居たが、愛子がそれに答える事はない。

彼女はとっくの昔に自分の長い生涯を捧げるべき相手を見つけているから。




case.18 ワルキューレ


彼女の生活もある意味変化していないが、ある意味一番変わったとも言える。

己の務めは戦う事と自認していたが、彼女は今までの戦場とは違う場にて戦い続けている。

それは政争の場。

横島忠夫を排除しようとする者達を相手取り、資料を盾に、弁舌を剣に戦っている。

知らぬ間に己の心の重要な位置を占める様になっていた一人の青年の為に。



昔の彼女を例えるならば、言われる様に飛び言われる様に狩る鷹。

今の彼女を例えるならば、自分の意思によってのみ空を舞い、狩る、誇り高き隼。


………地位、容姿、家柄、実力、実績、全てを持つ彼女に想いを寄せ、言葉にする者も多々居るが、彼女が答える事はない。

本人は認めないだろうが、彼の乙女が認めたのはたった一人の人間だから。




case.19 ベスパ


彼女の生活は一変した。

以前の彼女は何も考えずに軍に与えられる仕事に従事していた。

姉の想い人であり、父の仇である男を見るのが辛くて、自分が姉の命を奪ったと言う事実が辛くて、彼女はただ黙々と勤めていた。

姉の想い人から手紙を貰い、自分を大切にする様になった。

自分の父への想いが男に対するそれでなく、父親に対するものである事も理解した。

それでも距離を取り続けていた、訳も解らず怖かったから。

青年が倒れたと聞いた時、青年がほぼ間違いなく二度と目を覚ます事はないと聞いた時、その恐怖の意味を彼女は理解した。

だから、彼女は志願して青年を護る盾になった。

襲撃の無い時、青年を想う女性と話す時、青年を想う友と話す時、彼女は様々な事を知った。

だから彼女は護り続ける。



昔の彼女を例えるならば、父の言葉を盲目的に信じ、父だけを見て歩く幼子。

今の彼女を例えるならば、己で思考し、己で判断し、愛を知った一人の女。


………欲望に対して禁忌も歯止めもない様な魔族の中で、体だけを求められる事も、心も共にと求められる事もあるが、彼女はそれに答える事は無い。

己の罪故にけして表に出す事はないが、彼女もまた青年を想っているから。

兄として、部下として、父の仇として、そして大切な男として。




case.20 パピリオ


彼女の生活は多少の変化を迎えただけで然程の変化はない。

彼女も横島を守る為に戦いたいと願っていたが、それは許されなかった。

力は強くとも、彼女は知識も経験も足りていなかったから。

故に別の方面で動く為彼女は妙神山に残っている。

教師役の小竜姫は居なくとも、変わりに彼女の姉が詰めているのでそこはどうにかなった。

自分の役割はデタントの推進。

神族と魔族の橋渡し、そして護る為に知識を得る事。

彼女にはそれしか出来ないから、彼女はそれを続けている。

ただ、一人の青年の為に。



昔の彼女を例えるならば、無邪気に笑い、無邪気に遊ぶただの子供。

今の彼女を例えるならば、進むべき目標に邁進する志を持った一人の大人。


………精神的な成長に起因するのか肉体も十五歳前後に成長したが、ほとんど人に会う事もないので恋愛云々と言う話はない。

仮にあったとしても知らぬ間に己が内に深く根ざしている男の姿を追っているので答える事はないだろうが。




case.21 マリア


彼女の生活は一変したとまでは言えないがかなり変化した。

主の手により更なる改造が施され戦闘能力が向上し、バイトの時間が彼の警護に回される様になった。

それ以外の時間は主の研究を手伝い、暇があれば用はなくとも彼を見つめている。

表面上の変化はないが、彼女を知る者達は彼女の内面が変化した事を理解している。

魂があっても感情を知らなかった彼女に確かな感情が育っていると言う事を、彼女が一人の女だと言う事を理解しているから。



昔の彼女を例えるならば、最初から決まった答えの書き込まれている事典。

今の彼女を例えるならば、常に続きの書かれ続いている終わり無き物語ストーリー


………ふとした瞬間に微笑む様になった彼女に対し恋慕の情を抱く者も居たが、青年を見つめ続ける彼女の姿に想いを口にする者は居ない。

居ても、彼女の答えは決まっているのだが。




case.22 ヒャクメ


彼女の生活は一変した。

ジークフリートと同じ理由により地位が向上し、自由裁量権が与えられた。

彼女は感覚器の五割で青年を見守り、三割で護る為の資料を、二割で索敵を、休む事無く続けている。

青年を護る為だけに。

好奇心の名の下に他者の心を覗き見る自分の行いを『恥ずかしい』の一言で済ませ、冗談交じりではあってもそんな自分に対して好意を向けてくれていた青年の為に。

彼にとってはどうと言う事はない、日常的行動だったのは理解している。

理解しているが、それでも彼が自分の事を特別だ等とは思っていない事がわかったから。

普通よりちょっと凄い“目”を持っている女の子。

その程度の認識だった事。

彼が自分に向けてくれる好意が、打算も何もない純粋な好意が、嬉しかったから。

だから彼女は己が生命を縮める様な生活を送り続ける。

何の躊躇いもなく、己が生命を縮め続けている。

ただ青年が大切だから。



………彼女は魅力的な“地位”を手に入れた。

心を覗かれる可能性と言う厄介な危険性が隣り合わせでも、日常的に防御に力を裂いてでも手に入れたいと打算的な男達が狙うほどの。

術を使い、道具を用いて心を隠し近付く者達を彼女が相手にする事はない。

もし仮に、心の底から彼女を愛してくれる男が現われたとしても、今の彼女はそれを受け入れる事は無いだろう。

何故なら、彼女は自分の心の中に宿る想いすら彼女は見抜いてしまうのだから。







それが、無駄になるとも知らずに。





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あとがき


無駄に長くなってしまいました

私なりに必要かと思う事を書いていたはずが……何ですか二十二人って

グーラーとか美衣さん、それに銀ちゃんや夏子は知らないだろうから出番がありませんでしたが、知っていたら五人追加になりますよ

他には居ませんよね、横島に近しい人って?

あぁ、上では書きませんでしたが百合子さんと大樹さんは横島の心配をしつつも日常を送っています、普通に

どれだけ凄い人であっても、流石に神・魔が殺し合いやってるような場所に行ったら足手まといにしかなりませんから

……何となく、あの二人ならどうにかしそうなイメージはありますので、出番は削除、と言う事で

銀ちゃんと夏子は逆行したら出ずっぱりになる可能性は濃厚だったりしますけど

一般人の方々の出番が基本的に無いのは、その代表として小鳩と愛子が居るからです

書き足しても良いかとも思いましたが、蛇足になるかと思いこのままで

まぁ、このあとがきにしても蛇足だとは思うのですがね?

ちなみに、老師については後々話が進んで行けば出て来ますので、何をしていたのかは秘密、と言う事で

……忘れていた訳じゃありませんよ?




以下は前回同様レス返しです

全員逆行と言う無茶を標榜して行ってみたいと思っています、チャレンジですよ

自分でもクドイと思ったんですが、今回もこんな感じになってしまいました

SSを読み漁り続けて影響を激しく受けているかもしれませんが、私なりの横島にしたいと思いますので見守ってやってください

テンプレの集大成にはならないと思います……おそらく、ですが

良い意味で期待を裏切れる様に突っ走ってみますので、生暖かい目で観察してやってください




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