第四話


「健気なものじゃないか、皆が君の為に命を削っている」

聞き手によっては嘲りとも取れる言葉が、嘲りなど欠片ほども込もっていない重々しく威厳をもって紡がれる。

そこは何処にも存在しない場所。

何処にでも存在する場所。

人の内面にも、神の内面にも、魔の内面にも、妖怪の内面にも存在する場所。

神界、魔界、その全てに存在しながら許可が与えられた者以外には目の前にあっても認識すら出来ない場所。

その場で、四人の男が席に着きながら紅茶を傾けている。

「冗談、じゃないんスよね」

「そうやったらホンマに楽なんやけどな」

「この五年の間に繰り返した演算の結果から考えても、実際に起き始めている事象から考えても間違いはないでしょう」

「私の行いの結果で“世界の終わり”が判明するとは、皮肉なモノだ」

一人の青年が呟くと何故か普通にしているのに顔立ちが判別出来ない男が二人そう答え、残りの一人が苦々しげな風情で最後に告げる。

「で、これが最後の集会って事っスけど、後どれくらい持つんスか?」

「一年は持たんやろうな」

「そうですね、“同化”が始まってからは明らかにスピードが速まっていますから。
 貴方の大切な人達にまで被害が及ぶ様になるのはもっと早い時期になるかもしれません」

「まぁ、彼女達の仕事が仕事だと言うのもあるからな」

「それは、やっぱ俺が原因なんスか?」

「違うな、認めたくもないし気に入らない事でもあるが、この世界の終焉はもう決まってしまったのだから遅いか早いかの違いでしかない。
 陳腐な物言いだがこれが【運命】と言うものだ」

吐き捨てる様に男が答えると、他の三人も同様に顔をしかめる。

男の言葉がどうしようもない真実だと理解しているから。

「バッドエンドが確定済みの世界をこれからどうしようかって話あうのも不毛っスねぇ」

「本来なら転生に入るはずのあんさんと、横っちには僅かに残った時間をこないな不毛な会話に付き合せてもうてほんまに謝っても謝り足らんわ」

「私からも謝罪させていただきます。
 もう少し早く我々があの異常に気が付いていれば……」

「仕方があるまい、あの異常を予測する事も、気づく事も、不可能だったのだからな。
 そう思うだろう、横島忠夫?」

「ああ、平行世界全ての記憶を持ち合わせていても、記憶封鎖がかかってる以上は仕方無いっスよ」

気遣いとかそう言う事ではなく、事実を告げているだけの様な言葉に場の空気が軽くなっていく。

「しかし、無念な事は一つだけだな」

「ふむ、それは現状を見ての言葉かな?」

「ああ」

今まで以上に重々しい口調で、苦々しげに顔をしかめながらかぶりを降る。

心の底から“それ”が無念で仕方が無い、と言う物言いで。

三人が何を言いたいのかわからない横島一人が『何を言い出す気だ、コイツラ?』と、顔を別の意味でしかめているが、他の面子はまったく気にもとめていない。

「ハーレム作りに成功しそうな雰囲気やなぁ、確かに」

「仏道に帰依した彼女ですら、ですからね」

「私の娘達が皆君に惹かれてしまっているね、まったく」

笑い声が誰ともなく漏れ出し一気に空気がだれて行くのは彼の人徳か。

この場に居る面々が諦めているからか。

それともただ単にこのメンバーが緩いからか。

理由なんて誰にもわからない。

ただ一時でも、この場に居る面々の気が楽になっているのは確かなのだろう。

横島一人が『またそれか』等と小声で呟きながら遠い目をしては居るが。

簡単に言えば、横島忠夫はこの場における一服の清涼剤らしい。

気晴らしの玩具、とも言うかもしれないが。

「さて、本題や」

「本題っスか」

「そうです、私達がこれからすべき事です」

「同化を止める、と言うのは無しだろうがどうするんスか?」

「それはですね、貴方ちょっと並行世界の自分に生まれ変わってみませんか?」

「……はい?」

さらりと告げられる爆弾発言。

重要な話題だと理解していても、横島の反応を見て何故か満足そうにハイタッチを交わしているのはリアクションが予想通りだったからだろうか?

「簡単に言ってまうとな、同化の影響なんやろうけど平行世界との行き来が可能になったんや」

「少し調べて判明した事なんですが、時間の流れも、出来事も、生まれた人間もまったく同じ世界なんですよ」

「ふむ、そこでは私はやはり同じ行動を取って居るのかね?」

「時間の流れで言えば美神令子が生まれる五年前や。
 あっちにもアシュタロスは居るし、怨霊の菅原道真もちゃんとお前の手で生まれとるな。
 他にも色々と調べたけど、それ以外の観測結果から見ても間違いなく同じ動きをしとるはずや」

余りにも話題が予想外過ぎるからか一人硬直している横島を残して、話題は真面目な方向に自然と推移していく。

「そちらに顔を出して、こちらに戻ってきても記憶がしっかり残っているのがこの世界と繋がったと判断する理由か?」

「それだけではありませんが、概ねそう言う事です」

「ん、でもそれだったらそっちも同化されてるって事じゃないんスか?」

「いえ、それは大丈夫です。
 同化の兆候も見られていませんし、何故同化が起きるかの原因は掴めていません。
 しかし、同化が始まる要因は理解しましたから、そちらでそれを避ける事が出来ればおそらくは問題ないでしょう」

「は?」

何とか復活して話題に復帰した問いにあっさりと答えが返って来る。

今まで幾度となく繰り返され、答えが出なかったそれに対する答えがあっさりと出たからだろう。

まったく予想していなかった答えだったらしく、横島の表情は酷く間の抜けたものになった。

「逆算してみたんですが、どうも貴方が瀕死の状態になった瞬間から同化は始まっているようなんです」

「えっと、どう言う事っスか?」

「理由まではわからん。
 わからんが、そう言う答えが出たんや」

「原因が解れば解決法が解る場合もありますから、それも徹底的に調べてみました。
 結果を言えば不明、と言う答えだったんですが、何時それが始まったのか、と言う事だけは明確に判明したんですよ。
 横島忠夫、貴方の霊基構造が不安定になったあの瞬間、今の貴方を形作る要因となったあの瞬間に世界が同化を始めたんですよ」

「あの時っスか」

「ええ、あの時です」

ほんの少しだが、空気が重くなる。

例えふっきれたとしても、過去の思い出に出来たとしても、やはり愛した女の死と言うものは重いから。

「ま、そう言う訳やからあっちでは横島忠夫を守護する奴等を神・魔からそれぞれ一人ずつつけるつもりやし、最悪の事態に陥る事は少ないやろ」

「それに、今の記憶は最初封印してしおきますが、貴方が十歳前後になる頃には思い出す様にしておきます。
 ですから、記憶が戻った前後から自分でも身体を鍛え始めておいてもらえれば大抵の事はどうにか出来るでしょう」

「確かに、君がその頃からある程度本格的に己を鍛え、創意工夫を重ねていたら私の描くシナリオもまったく別のモノに変わっていただろうね」

三人の言葉に、横島は一人考え込む。

顔が引きつっていたりする理由は、おそらく修行の数々を思い出しているんだろう。

まぁ、それに付随する色々な情景と言うか、修羅場と言うかを思い返しているのかもしれないが。

「あの修羅場は……おもろかったなぁ」

「そうですね、誰と付き合っているとか肉体関係があるとかそう言う訳でもないのにあの修羅場。
 あれほどのコメディは中々見れませんよ」

「私は君が文珠で『模』した時、君の魂の奥底に根付いてしまった端末が見ていた情景を読み取れるのだが……君は私の娘達を弄んで楽しいのかね?」

二人が心底楽しそうに微笑みを交わす横で、一人しかめつらしい表情で横島に問う。

微妙にその顔が笑っているように見えるのは気のせいではないだろう。

「誰が弄んどるか!!」

「ちゃうんか?」

「アシュタロスの娘四人全員が貴方に恋をしてしまったあの状態でそんな冗談を言うんですか、貴方は?」

「ワイは無実やァァーーーーーーーーーッ!!!」

横島の悲痛な叫びが響く中、笑い声が漏れる。

状況は、どうしようもないほどに逼迫していると言うのに。

それでも余裕の笑みが三人の顔には浮かぶ。

「と、まぁ、また脱線してもうたけど。
 どや、向こうで同じ事が起きんように色々と小細工してみる気、あらへんか?」

「同化対策っスか」

「それだけではありませんよ、貴方のハーレム作成計画も、ですよ」

「……は?」

「せやからな、さっきから言うとるやろ。
 横っちの人生は神・魔のワシ等から見てもおもろいんやて」

楽しげに告げる言葉に一人横島だけが凝固する。

例えGSとして大成しようとも、どんな道に進もうとも自分の本質は芸人である、と言う大阪人としての自負を持つ横島としても、そう言った方面での笑いをとりたいとは思わないらしい。

周囲の者達は、その反応すらも楽しんでいるのだが。

「ふむ、どうせだから向こうではパワーバランスの崩壊を防ぐ為、少し小細工をしてみるのはどうだろう?」

「ほぉ、この場面でそないな言葉が出てくる言う事は、なんやおもろい事を考え付いたんやろうな」

「こちらの世界からスペアを持ち込んで人間の一生を過ごす度に立場が入れ替わる、と言うのはどうだろう?」

「それは、貴方の言う所の魂の牢獄を抜け出したいと願っている神・魔を向こうに連れて行って人間に転生させ、その生涯が終わりを告げるのと同時にあちらに居る神・魔と立場を入れ替える、と言う事ですか?」

「そう言う事だ、私の様な存在からの不満は激減するかと思うが?」

「記憶封鎖して転生、その後記憶の受け継ぎと魂の置換を行って立場を入れ替えるっちゅう事か。
 ……確かに、おもろいかもしれんなぁ、それは」

「ちょ、それが良い事なのはなんとなくわかるんスけど、何で不穏な表情を浮かべてるんスか!?」

「対した事ではないさ」

そう答える男の表情は、不敵。

残りの二人も表情は見えないが、何処となくだが悪戯を思いついて実行する事を決意した“大人”の様な雰囲気を漂わせている。

はっきり言って、性質が悪い事この上ない。

「時間に対して多少の干渉は許されているからな、君にとってはとても面白い事態が起きるだろう」

「予言みたいに言ってんじゃねぇ、ぜってぇテメェが何かヤル気だろう、アシュタロス!!」

「そないな訳ないやん、ワシ等が協力するんやから。
 普通では想像もつかん事を実行してみようかって模索してるだけやで?」

「余計しゃれにならんぞ、それは!!」

「大丈夫ですよ。
 ほんの少し貴方の回りを今よりも賑やかにしてみようかと画策しているだけですから」

悪意の無い言葉。

本人はそう思っているのだろうが、それを聞いている横島の目には涙が滲んでいる。

美神の嫉妬から来る折檻――本人曰く『猛獣の調教よ!!』――の嵐。

キヌの嫉妬から来る涙目と、ある一転を超えた瞬間に放たれる邪気。

シロの嫉妬から来る暴走と、散歩距離の増大。

タマモの嫉妬から来る無言の催促と、おキヌが来る事を予測しての夜討ちにシロが来る事を予測しての朝駆け。

時には事務所で美神の目に映る様に誘惑している事もあった。

タマモの場合は嫉妬と言うよりも悪戯と呼んだ方が良かったかもしれないが、今目を覚ましたらはっきりと嫉妬して、こう言う行動に出たと断言出来るだろうが。

事務所に居る面々だけでこれだ。

マリアが感情を表に出す事はないし、小鳩は攻撃力は高くはない。

だが、彼女達には彼女達なりの方法でダメージを与えてくるのだ。

何処に居ても、どんなタイミングにおいても横島忠夫に安息の時間は無いとも言える。

正直に言えば倒れる少し前から体調は悪かったりしたが、それはストレスが原因なのではないかと本気で悩んでいたぐらいなのだから。

そんな事を本気で悩むくらいに横島の生活は楽しくもあったが、それ以上にある意味地獄の様な毎日だった。

……傍から見たらただの自慢にしか見えないが、横島には切実な話である。

色々とリアルに思い出して、それが更に悪化する場面を想像してしまった――出来てしまった――のだろう、何時の間にか目の幅の涙が溢れ出し、胃が痛み出したのか腹の辺りを押さえている。

ちなみに横島忠夫、十八歳の半ば頃から精神安定剤と胃薬を常備薬として常に持ち歩いていたらしい。

ハーレム状態の修羅場と言うのは、面子の関係もあって例え煩悩少年の名を欲しいままにしている男にも辛かったようだ。

手を出せばその先には致死性のトラップが待ち受けていると理解出来るだけの知恵を身につけていただけ、余計に。

「おのれ等は俺に死ねっちゅうんか!?」

「横っちなら平気やって」

「そうですよ。
 第一、ゆっくりと長い時間をかけて皆を取り込んでしまえば今よりも安心してハーレムを構築する事も出来ますよ?」

「君が記憶を取り戻す十歳の頃から皆に接触し、少しずつ性格を改変して行くと言うのはどうだい?」

「それ、は……」

今の皆が好き。

それは確かだ。

確かだが、それ以上に魅力的な提案思えてくるのか表情が揺らぐ。

何気なく神の最高指導者も参加してたりするものの、悪魔の誘惑以外の何ものでもないのだが。

横島忠夫がボケで煩悩が未だ暴走状態にあるのか。

誘惑の仕手として最上級に位置するであろう悪魔二人が上手いのか。

普通に参加している過去誘惑に打ち勝った神が凄いのか。

それは誰にも謎だが、とにかく誘わ……説得は続く。

「今私達の提案を呑めばもれなく美女一人に美少女二人がついてきます」

「ちゃんと、横っちの言う通りになる可愛い子等やで?」

「多少は嫉妬もするだろうが、されないと言うのも寂しいだろう?」

「せ、せやけど、そないな都合の良い……」

ゆっくりと、地金が顔を出す。

例え落ち着きを見せはじめていたとしてもそこは煩悩魔神、容易くそれが消えて無くなる訳も無い。

実際、美女・美少女に心の底から想われていると理解出来ているだけ、余計に煩悩は激しく滾る。

例え誘惑の言葉を口にしているのが悪魔――神も居るが――だとしても、だ。

「さっき言ったやないか、神・魔それぞれ一人ずつ派遣するって」

「もう一人についてはちょっとした実験でもあるんですけどね」

「あ、うぅ、せ、せやけど、せやけど……」

理性では反論が幾らでも首をもたげ、声を高らかに叫んでいる。

『罠だ、突っ込めば逃げ道が無くなるとか言う以前に、冥府に旅立っちまう』と。

叫んでは居るが、多少の嫉妬は見せても自分の言う通りになる美女・美少女が三人追加されるのだ。

理性に抑圧されている煩悩が叫ぶ。

『リスクなんて考えてどないする?
 美神さん達と早期に接触して、嫉妬心を弱める機会がある上、自由になる良い女が三人。
 こんなええ話断るなんて、漢やない!!』と。

それに対し、理性が改めて叫ぶ。

『いやいや、待て。
 この三人が相手だぞ?
 信用出来るか、オイ?』と。

重々しい理性の声で少しだけ冷静になる。

この三人、信用は出来る。

出来るが、悪戯関連で三人が結託したら痛い目に会う。(本人も似た様な事を三人にそれぞれと結託して実行していたりするがそれは無視)

五年の間、何度もこの空間でそれは実感した。

こいつ等の悪戯は洒落にならん、と。(本人も似た〜以下同文〜)

「名前、教えてくれても良いっスよね?」

「おお、ええで」

「構いませんよ」

二人は楽しそうに答えるが、最後の一人だけはニヤリと笑みを浮かべるだけで何も言わない。

良い事なんて何もないが、嫌な予感が増大した事だけは確かだろう。

「ちょ、アシュタ「魔界からはスルトをやろうかと思ってん」ロス……って、待て、スルトって嫁さんが居る男神だろうが!!」

「人間界ではそう伝わってるのかもしれへんけどな、アイツはれっきとした美少女やで?」

「彼女はラグナロクが起きるまでは出番が無い事になっていますからね。
 そこらの話が人に伝えられ、語り継がれて行く内に女性よりも男性の方が最後を告げるには良いと判断された結果でしょう」

「そもそも、私も昔は女だったのだからな」

ニヤリと、さらに笑みを深くするアシュタロスに嫌な予感が増大するどころが臨海に到達して逃げ出したくなるのをこらえて三人を見る横島。

「それを言ったら神・魔に性別の概念なんて無いんやけどな、ホンマは」

「私や、貴方の師であるハヌマンの更に師に当たる玄奘三蔵のように人間出身の場合は性別が固定されてしまう場合もありますけどね」

「そう言えばそうやったな」

「メドーサの部下だった勘九郎と言う青年は最終的に女性になったようだがね」

「……は?」

「いや、気にする事はない、気にする事は、ね」

一瞬何の事を言っているのかわからなかったが、意味が理解出来ていくにつれて顔が引きつっていく。

魔からもう一人来たりする場合は、あの元オカマ(現:女性)が来るとか想像してしまったのかかなりダメージが深そうだが、あえて誰もそこには触れない。

そうした方が楽しいと、三人とも理解しているから。

「それで神界からですが、こちらからはガブリエルを」

「受胎告知の天使、唯一“女性”として描かれる天使っスか」

「ただ単に『貴女は妊娠しましたよ』って母に伝えたのが中性の普通の天使よりは良いだろうと言う理由で後世に伝わってるだけですけどね、実は」

「それに、アイツは一時期やけど魔界に堕ちた事もあったし、性格もあるんやろうがスルトと一緒に居っても喧嘩したりはせんやろ。
 ……賭けの対象になる争奪戦を起こす様になるまでは

「待て、今聞き捨てならん事を言わんかったか、サッちゃん?」

相当テンパって居るのか、もう敬語も何も無しである。

「さぁ、何の事でしょうか?
 サッちゃん、後で話しましょうね

「っぐ、お、おお、何も言うとらんで?」

顔形を認識出来ないのに、メキィと言う痛そうな音と共にサッちゃんの顔を汗が流れるのが何となく解る。

何と言うか、変な所で芸の細かい最高指導者達だ。

「それはそうと、美神令子や小笠原エミよりも年上になって、彼女達から『お兄ちゃん』等と呼ばれてみたくありませんか?」

「そうだな、その方が君の趣味に合うのでは?」

「何でやッ、俺はノーマルなんやッ!!」

「しかし、君の前世が惚れさせたメフィストは生後五日かそこらだったし、ルシオラも一歳かそこらだったんだが?」

「ち、ちゃう、わいはロリコンやない。 ロリコンやないんや〜〜〜!!!」

そう叫び、血の涙を流しながら何処かに駆け去る横島を楽しそうに眺めていた三人の表情が、横島が会話の聞こえない位置に行ったであろう事を確認した瞬間に真剣なモノへと変化する。

「それで、実際はどうなんだ?」

「向こうの人間や神・魔の中にこの世界の連中の魂を移すつもりや」

「正確には記憶やそれに伴う感情と言った方が良いのかもしれませんが、どちらにしても本人がどうしても思い出さねばならないと自分からその記憶を求めるか、よほどこちらの世界での繋がりの深い人間と接触でもしない限りは封印しておきますけどね」

「それでは記憶の齟齬や色々な問題が出るだろう。
 今現在世界で生まれ、死んで行く者達が居る以上は死神が連れて来るのとは関係なく事故等の場合は時期がずれたりもするだろう?
 平行世界なのだ、死因が変化する事もあるだろう、そう言ったものはどうするつもりだ?」

「どちらにしろ無理をしようとしている事はわかっています。
 無理無茶無謀だとわかっていても人間の身で魔王を滅ぼす等と言う無茶をしてのけた人が近くに居るんですから。
 全知全能だとおだてて信仰してくれる人達が居る以上は私達神・魔の最高指導者が無茶無理無謀な事だから出来ない、とは言えないでしょう。
 何としてでも成し遂げてみせますよ」

「これでも、最高指導者なんて偉そうな地位を与えられとるんやからな」

表情の見えぬ二人の言葉に宿るのは、決意。

揺るがぬ決意。

……何処となく、楽しそうではあるのだが。

「ならば、仕事を一つ追加しても問題はあるまい?」

「当然やな」

「人間、アシュタロス。
 ……いえ、アスタルテを生み出す件、しかと承りました」

「主役は居ないが、神の涙で乾杯して終わろうか?」

「別にええけど、何に対して乾杯するんや?」

「それは、決まっているでしょう」

「それもせやな」

「ああ、まったくだ」

遠くから聞こえてくる『俺はロリコンやないんや!!』等と言う声を聞きながら、楽しげにワイングラスを掲げ声を合わせる。

「世界の明日に」

「横島忠夫に」

「ついでと言うかこれが主題の様な気もしますが、彼の起こす修羅場観戦及び賭けの成功を願い」

「「「乾杯」」」

どうやら、彼の決断云々以前に、面白そうの一言で彼の運命は決定していたらしい。

実際はそれだけでは無いだろうが、面白そうと言うのが一因としてあるのが事実なのは、三者三様の笑顔を見ればわかるだろう。

世界を救い、皆に、横島……友人に幸せを。

ついでに横島で自分達に娯楽を、結局はそう言う事らしい。

哀れな。




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あとがき


横島、本当は倒れたんじゃありませんでした

倒れたのは事実ですが、何時でも目が覚める状態なんですね、本当は

ひのめの行動を見た辺りで最高指導者二人に喧嘩を売って帰ろうとしたんですが、負けた上に『貴方を彼女達が護っているように、彼女達も護られているんです』と言われ、更に何が起きているのかを説明されて、自分を無理やり納得させている状態です

ヒャクメや美智恵さん達が無茶な生活を送っても元気に生きていられる要因はこの人達が寝ている間とか色々な場面でそれとなく、常識外れのヒーリングを施されていたりするからと思って下さい

ヒャクメはどうかわかりませんが、常識的に考えて人間は五年もそんな生活をしていれば死にますから

自分よりも強い上、何時襲ってくるかも解らない敵と戦い続けるなんて生活を五年も続けば精神的な疲労は凄い事になるでしょうからね

追い詰められているので、気が付かないんですよ、皆

それと、何が起きたかは具体的に書きません、『同化』と言う単語から皆様で各自想像してください

下手に書くとそれだけで話が作れそうな勢いなもので、そう言う事に

黙って五年間も見ているなんてらしくない行動だと私も思いますが、目を覚ましたら皆が傷つき泣いているのよりももっと酷い場面を見る事になる事がわかっているので、無理にでも優先順位を自分の中に確立したとでも思ってください

老師の別件と言うのはあとがきのこれなんですが、他にも幾つかある予定ですし、更に言えば文中でこの話を出したら無理矢理な説明文にしかなりそうになかったので、あとがきで補足と言う形に

文中にそれを書ければ良いんですが、どう盛り込むかまったく思いつけなかったので

ちなみに、第一話のラストと違和感を感じるかも知れませんが、アレは無理矢理呼び出された事と、世界に起きている事、そして自分の為に血と涙を流してくれている人達を想っての言葉です

あとがきでこんなくどくどと……書き過ぎですね

次回からはあとがきで補足説明が必要なんて事にならないように努力します




以下はレス返しに当たる部分です

逆行であって逆行でない、隣の家に引っ越そうみたいな感覚で無茶をしてみました

最高指導者二人が、平行世界一つをチップに無茶無理無謀にチャレンジです

……うわ、改めて書いてみたらどれだけ無茶な方法を採用したのかが良くわかる(滅

とりあえず、平行世界への魂の移動と言う無茶が採用されましたが、どうなる事やら

それとアシュタロス、いえ、アスタルテの転生どうこうって話は遊びです、完璧な

だって、壊れたアシュタロスとか見てるとどうしても自分の作品に出してみたくなっちゃって

とりあえず、可愛らしくなる様に努力します、と謎の宣言をしつつ

また、次回




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