第二話



検査結果は原因不明。

症状は不定期に喀血を繰り返し、徐々に体力が低下し、内臓の活動もほぼ停止状態になっており、霊力でそれらの活動を補っている。

現代医療で代替出来る箇所は代替し、霊力に対する負担を少しでも下げて結末を“先延ばし”しているのが現状。

人・神・魔、彼に報いるべきと思う者達が手を尽くしているにも関わらず、一週間続く昏睡状態から未だ一度として醒める事無くただ衰え、確実に死へのカウントダウンが続いて行く。

「………どうして、横島クンが苦しまなきゃなんないのよ」

苛立ち、不満、不安、恐怖、様々な感情の込められた美神の言葉にただ待つ事しか出来ない面々は拳を握り締め、歯を食いしばり、何かに耐え続けている。

ヒャクメやジーク、土偶羅と言う情報に関して一流と呼ばれる神・魔とそれぞれが引き摺って来た神・魔の医術者達が勢揃いし、しかも誰が持ち込んだのか若返りの薬を飲まされて若返った全盛期の頃のカオスまでもが参加して居る以上、自分達には何も出来ないと理解しているから。

時折、体力に余裕の無い者が仮眠を取り、それぞれ仕事に関しては多少は余裕がある西条や唐巣、それに雪之丞達が代理で出向いて処理し、後は何かあったらすぐに駆けつけられる様にと横島の病室と続き部屋になっている待合室で待機している。

職業柄休む事が許されない美智恵と、天候の事情で到着が遅れている横島の両親以外の面々はただ一心に祈り、願う。

ある者は友の無事を

ある者は弟の無事を

ある者は兄の無事を

ある者は息子の無事を

ある者は戦友の無事を

ある者は弟子の無事を

ある者は大切な男の無事を

ただ祈る。







「…………原因が、わかったのね」

扉を開き、真っ青な顔をしたヒャクメが言葉を告げると同時に安堵の空気と、今まで以上の緊張がその場を支配する。

唇を噛み締めたまま何かを言おうと口を開こうとするが何かに躊躇する様に黙り込むと言う事を繰り返すヒャクメを、ただ言葉も無く見つめ続ける。

「御主には辛いじゃろう、儂が言おう」

ヒャクメに少し遅れて部屋に入って来たカオスが告げると、ヒャクメはうつむいたまま小さく頷く。

その反応に、場に居る面々の脳裏に最悪の事態が過ぎる。

「小僧は………………死ぬ」

「「「「「ッ!!」」」」」

悲鳴を飲み込む様な音がほぼ全員の口から漏れ出ると、無表情を装ったカオスが天を仰ぎ見ながら言葉を紡ぐ。

「救う術はある。
 あるが………それを選べば今度こそ小僧の心は壊れるじゃろうな」

「どう言う、意味よ?」

「この状態の原因はルシオラと言う娘なんじゃ」

「姉さんが原因って、どうして!?」

カオスの言葉にベスパが激するが、カオスはいっそ穏やかとすら言える声音で応じる。

「美神令子と坊主が最後の戦いの際に使っておった同期合体技、覚えて居るな?」

「アレが、なんだってんだよ?」

「二つの霊気、二つの魂を同期増幅させとったがアレと同じ現象が小僧本人も、儂等も認識出来とらんほどの小規模で小僧の中で繰り返されておった」

意味がわからずに何人かが首を傾げ、それの意味する所を理解した者達は顔面を蒼白にさせ固まる。

「あの小僧とルシオラとの間には奇妙な協力関係が出来ておってな、どちらかがどちらかに吸収されると言う選択肢だけは存在しとらん」

「まぁ、あの二人なら……そうなるでしょうね」

横島の慟哭を聞き、二人の在り方を傍で見ていた美神とおキヌが頷きあうと、納得出来るからかその場に居る全員が頷きあう。

「じゃが、それが問題なんじゃ」

「問題って、何がよ?」

「それはな、理論上常に霊力の同期による共振状態が続くと言う事。
 人の身が耐え切れる限界を超えた霊力を常に放出し続けると言う事じゃ」

「そんな霊力は感じなかったわよ!?」

「………ヒャクメが霊視してわかった事なんじゃがな、小僧はその余剰霊力を文珠にしたり、文珠を使って隠しておったそうじゃ」

「まさか、私達に心配をかけたくないとか、そう言うこと?」

「小僧は経験者じゃからな、自分が誰かと同期している事を理解して居ったんじゃろう、おそらくは」

「ッ、何で言わないのよ!!」

「簡単な事じゃ、この状態を解消する為の方法はどちらかがどちらかを取り込んでしまう以外の方法は取れないからじゃよ」

「それって、まさか?」

「その通り、小僧の手で、完璧にあの娘を殺せと言うのと同じ事じゃな」

淡々と語るカオスに怒りを向け様とする者も居るが、強く握り締めすぎたが故に爪が掌の皮膚を突き破り血が流れ出しているその手を見て、その怒りを飲み込んでいく。

カオスもまた、憤っているのだと理解出来るから。

「あの馬鹿者が………何の為に知識を与えたかわかっておらん」

「知識って、もしかして解決策が、他の解決策があるんですか!?」

「…………言ったじゃろう、手遅れじゃ、と」

「そん、な」

「記憶を消す事は………いえ、無駄ですね、きっと」

「あの小僧が、惚れた女の事を忘れるとは思えん」

無理矢理小さな笑いが漏れ広がるが、それもすぐに消えて行く。

「じゃあ、横島さんは………本当に、もう?」

「人の身で生きる事も、死した後に人以外の何かになって生きる事も叶わん」

「なッ、何故だ、アイツなら神にでも魔にでもなれるはずだぞ!!」

ワルキューレの言葉に対して、首を横に振りながらヒャクメが答える。

「人間の身体に限界を超えた霊力を押し込め続けて来たせいでもう、霊気構造も何もかもがボロボロなのね」

「上級の神・魔が消滅する前に力を注ぎ込めば生き延びる事は出来るかもしれん。
 出来るかもしれんが、そうしてしまえば後に残るのは横島忠夫と言う人間とルシオラと言う名の魔族の霊気構造を基礎とした別の神・魔が生まれるだけじゃ」

「先生が、先生が死ぬ訳が無いでござる!!」

「ああ、医術と心霊技術の粋を凝らした延命治療を施して居るからな。
………肉体と、肉体に縛り付けられている魂は或いは永遠に生き続けるかも知れんな」

己の行いに対する嫌悪か、それともその様にしてまでこの場に繋ぎ止めて置きたいと願う自分の愚かしさに対する自嘲か、複雑な笑みを浮かべカオスは吐き捨てる。

それに答える事が出来る者は、この場には居ない。

この場に居る者は皆が皆、横島忠夫に生きて欲しいと願っている者達だから。

生きて、幸せになって欲しいと願っている者達だから。

「とにかく、今後の事は小僧の両親が来てから決めるしかない」

「それって、どう言う、事?」

「微かな、希望的観測などするだけ無駄と笑い出したくなるほどの可能性に賭けてこのまま眠らせ続けるのか、このまま楽にするか、じゃ」

その言葉に他の誰も言葉は無く、ただ沈黙だけが場を支配する。







横島夫妻の答えは簡潔だった。

「俺達より先に、死なせてたまるか」

その短い言葉で、横島忠夫は僅かと言う言葉すらも無駄に思えてくるほどに絶望的な可能性と共に、長い眠りにつく事となった。




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あとがき


アレ、この回で横島は過去へ逆行するはずだったんですが……何事でしょうか?

若くて格好良いカオスが好きなばかりにちょっと暴走してしまいました

もう少し長く書いた方が良いかとも思うんですが、ここで切った方が良いんじゃないかと思ったので今回はここで切ります

次回は……残された人達の成長と、想いとかを書いてみようかと思っています

逆行するにしても、残される人達の心情を書くのも面白いかなぁとか思ってしまったので、次回はそれを

予定ではありますが、可能な限り勢い良く大勢逆行させてみようとか思っていたりします

全てを知っている人間が大人数居たら色々と問題が起きるからと言う理由で記憶の封印処置を行うとか色々と考えてはいますけど

………………さて、そもそもどうやって逆行させましょうか、方法をまったく思いつけません




以下はNight Talkerさんに投稿させて頂いた際に頂いた感想に対してのレスです

本来ならば、感想を下さった方に許可を求めるべきかな、とも思うのですが、連絡を取れない方も居そうなので感想はコピーせずに、感想に対するレスのみ、ここに載せさせていただきます

別に不要かもしれませんが、私の筆力不足故に本文で表現しきれなかった補足をあとがきや感想に対するレスに載せている場合がありますので

一応、感想は載せずとも意味は理解出来ると思いますし、何となくでも理解していただけるかもしれない、と言う事でそのまま上げさせていただきます

……一部修正はしていますが

もし、感想の方を確認なさりたい方が居られましたら、お手数ではありますがNight TalkerさんのGS小ネタ掲示板の検索フォームより、検索設定を“全記事”にして、valyの名前で検索してください

不要だと判断なさった場合は、このまま気にせずに次へ進んでくださっても問題はありません



横島も不幸ですが、横島が倒れると言うのは横島だけの不幸ではないと言う事を書ければ良いかと思っています

頭の中で描いていた話ではもう少し別の形で逆行に移行して行くはずだったんですよ、何故吐血したのかは私も書きながら考えていました(滅

突然の吐血で驚いたのは私も一緒です

勢いで書いていると、登場人物が自分でも予定していなかった行動を起こしてしまうので驚きます

幸せな日常を書いて、それに変化が起きて逆行となるはずだったんですが、何故吐血か……思い返してみても何故そうなったのか自分が書いたのに思い出せません

おそらく、もう一度同じ書き出しで始めても吐血とは違う理由になってしまうでしょう、私の場合

とりあえず、読み手の予想外の方向に話を持って行けたのは読んでくれる人に対する良い意味での裏切りが出来たと満足です

…………自分の予測裏切ってどうするのかって話もありますが

<智恵熱=「小児の〜〜」

横島ですから(爽

…………まぁ、私が無知なだけだったんですけど、横島だからと言う事で納得してください

<サイキックシールドは使えば〜〜

とりあえず、理論上は、と言う事なので流しちゃってください

アシュタロスに対して効果がなかったからと言う事で印象に残っているかもしれませんが、横島自身はその前後に色々と問題が起きたので、ジャミングをかけられていたと言う事実を忘れていたと言う事にしてください

私も忘れていましたから




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