人に心配される事もあるけど、別に今の生活に不満は無い。
アシュタロスが戒めから解放されたあの事件の後、高校を卒業するまでに美神さんから様々な知識や技術を叩き込まれた。
スパルタだったけど、何とか正規のGSに認定してもらえるだけの実力を得て美神さんの共同経営者になり生活は安定した。
……なんとなくする気になれなくてセクハラをしなくなってからは、美神さんは優しい姉みたいな感じになった。
おキヌちゃんは六女での授業と美神さんからの修行の成果か死霊術士としても、GSとしても一流と呼べるだけの実力を手に入れた。
……給料が増えて餓えずに済む様にはなったが、それでも週に何度かは食事を作りに来てくれるのはとてもありがたい。
シロも俺と一緒に美神さんの修行を受け、成長を遂げた。
それは肉体面での話だけじゃなく、精神的な成長も含まれる。
まぁ、まだ幼い面は多々あるんだけどな。
……毎朝の散歩は変わらず続けられてるけど俺の体力が向上した結果、自分の足でシロとの散歩に付き合える様になった。
タマモもシロに対抗する形で修行を積んで、今じゃあ下級の神・魔が相手でも楽勝で勝利出来るレベルにまでなったし、様々な意味で現代に馴染んでくれた。
肉体的、精神的に成長はしても、やはりまだ子供だと思える部分がたくさんある。
それが素の表情なのか、そう演じているのかは今一つ俺にはわからないけど。
……俺にっては時折思い出した様にキツネうどんとかいなり寿司をおねだりしてきたり、デジャブーランドに連れて行けと甘えて来る、妹みたいな存在になった。
西条は俺の中の美神さんへの想いが形を変えた事を理解してからは、真摯に俺の剣術の修行や戦闘訓練に付き合ってくれるようになった。
今までみたいな嫌味の言い合いとか意地の張り合いは無くなって、その代わりに冗談を言い合うようになった。
それに、本気の悩みには本気で答えてくれる。
……今までそう言う存在が居なかったからわからなかったけど、きっと兄貴ってのはああ言うのを言うんだろう。
隊長は俺の知らない所で色々と動いてくれていたらしい。
西条に酒を飲ませて色々と聞き出した――実際は、酔ったフリをして無意識に隊長に対して隔意を持っていた俺を諌める為に故意に教えてくれたのかもしれないが――んだが、聞いているだけで重く、気分の悪くなる様な話ばかりだった。
それをひのめちゃんを育て、オカルトGメンの日本支部の長としての責務をこなしながら、俺に知らせずに全て的確に処理し続けてくれた隊長には感謝している。
いや、俺なんかじゃ感謝する事しか出来なかった。
……感謝の言葉を伝えたら、逆に謝られた。
『この程度の事じゃ貴方に対する謝罪にもならない』と。
小竜姫様は妙神山に行く度に剣術の修行をしてくれる。
厳しいけど、しっかりと俺の実力を見た上でどうにかなる範囲ってモノを見極めた上での修行を。
……『私にはこれくらいしか出来ませんから』と、何も考えずに居られる時間はとても貴重だし、俺は強くなりたかったからとてもありがたかった。
パピリオは純粋に甘えてくる。
妹として、とても懐いてくれている。
まぁ、未だにポチって呼ばれているけど。
……アイツにとって、俺はお気に入りのペットであり、兄でもあるんだろうな。
ベスパとはまだ逢っていない。
俺としては逢いたいんだが、そう簡単には、な。
……まだ心の整理がついていないらしいが、手紙のやりとり程度の事はしている。
手紙でのやりとりを始めた当初と比べると、少し変わってきているのがわかって嬉しかった。
ワルキューレはたまに妙神山に来てベスパからの手紙を届けてくれて、ついでに射撃訓練をしてくれている。
魔界の軍隊式の訓練はやり過ぎなんじゃないだろうか、と思う事が無い訳でもない。
アレに比べれば、某国海軍の訓練なんて幼稚園のお遊戯レベルじゃないだろうか?
……『私には戦いしかないからな、これぐらいしか出来ない』
そう言って俺を本気で鍛えてくれたのは辛かったけど、それ以上に嬉しかった。
あれだけ辛かったのは、それに俺が耐えられると認めてくれたって事だったんだろうから。
ヒャクメは上役に上申して妙神山に常駐するようになって、霊視や人の身では知り得ない知識などを教えてくれた。
時折、俺の限界超えた事をやらせて四苦八苦している様を見て爆笑してくれるのは困ったもんだが、まぁ、楽しかった。
文珠使った反則でも使わない限り、仮にも神族の心の中を見るなんて真似が出来る訳も無いのに、まったく。
……俺の心を覗いたヒャクメが泣きながら何度も謝ってきた時は困ったけど、嬉しかった。
ジークはワルキューレと時折妙神山に来ると、組み手の相手をしてくれたり、それとなく俺に気を使ってくれた。
他の皆がやり過ぎだと感じたら止めてくれる、ストッパーでもあった。
……後で知ったのだが、俺にどうして接すれば良いのかわからないと言っていた皆に『無かった事にするのではなく、受け入れてあげてください』と言ってくれたらしい。
エミさんと冥子さんは貧乏な頃は美神さんに秘密で仕事を回してくれたり、タイガーやピートを交えて五人で食事に誘ってくれたりした。
……エミさんに関してはピートを誘う口実なんじゃないか? とか疑問に思った事が無い訳じゃないが、誰かと一緒に居ると言うだけで、随分と楽になったりもした。
魔鈴さんは週に何度か食事を御馳走してくれたり、ルーン魔術などについて世間話でもするみたいに教えてくれた。
……自分に勢いをつける為だったんだろうが、酒を飲んだ時に『横島さんの服にルーンによる加護を与えていたら、もしかしたらダメージが軽減されていたかもしれない』そんな事を言いって、泣きながら謝られたが、俺はその気遣いが嬉しかった。
小鳩ちゃんと愛子は俺の変化をそれとなく見て取ったのか、普段通りに接してくれた。
……全てを知っている皆には無理な事をあの二人はしてくれたのが、とても嬉しかった。
唐巣神父は俺の懺悔を、悔恨の言葉をただ静かに聞いてくれた。
……その後に唐巣神父がくれた言葉は、確かに俺の心に残って、力になってくれている。
カオスとマリアは勉強を教えてくれる。
それこそ古代文字から現代の数学まで幅広く、たまに智恵熱を出しそうになるが、あの二人の教えはとても役に立っている。
……『ワシは慰め方なんぞ知らん、じゃが無知故に生まれる悲しみがある事は知っておる』
そう言って俺に知識を与えてれた。
その結果、数値上の事とは言え基礎をしっかりと学んだ状態の俺が練り上げたサイキックソーサー使えばベスパの攻撃をそらす事も出来たと知った時は結構なダメージを受けたりしたが、それでも知る事によって生まれる喜びを理解出来たのは嬉しかった。
雪之丞、ピート、タイガーは本当に強くなって、『次に何かアレば絶対にお前の助けになる』と、口調は違うが皆、そう言ってくれた。
雪之丞がメシをたかりにくるのは変わらないし、ピートが現代に順応しているように見えて実は微妙にズレているのも変わらない。
タイガーは女に随分と慣れたなぁ、そう言えば。
……雪之丞は弓さんと、タイガーは一文字さんと、ピートはエミさんと上手く行っているみたいだ。
だけど、まともな恋愛経験なんてほぼ皆無な俺がそっち関係で助けてる事が多い様な気がするのは気のせいだろうか?
老師はしばらくの間は俺が妙神山に行くと小竜姫様達と一緒に修行を見てくれてたんだが、ある日いきなりどこかに旅立ってしまった。
……『儂が御主の為にしてやれる事は少ないが、出来る限りの事はさせてもらう』
そう書かれた手紙一通残して、神界かどこかに行ってしまった。
俺なんかの為に動いてくれると言うのは嬉しいが、やはり何処か心苦しい気持ちになる。
正直、皆に様々な知識や技術を叩き込まれ続けて限界ギリギリなんじゃないかって部分もあるが、それでも俺はこの日常に満足している。
この場にルシオラが居ない事に対して物足りなさを感じないとは言えないが、それでも満足している。
…………なのに、何故、それがまた奪われなければいけない?
二十歳の誕生日、その日俺は皆に祝福されながら、血を吐き、病院に担ぎ込まれた。
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