――トリステイン魔法学院・ヴェストリの広場――
場に満ちるは沈黙。
驚愕、戸惑い、様々な感情が場を支配し、それが沈黙をもたらしている。
ちなみに、ギーシュは何故か楽しげな、
シエスタとルイズは妙に厳しい、
キュルケとタバサは不審を更に深めた目で俺を見ている。
正確には俺と、俺の腕の中で心地良さそうな寝息を漏らす少女を、だが。
今使った刻印方術ははっきり言って勢いと、長年試すには怖過ぎるからと昔から存在は知っていたものの手を出して居なかった並行世界とかそんな分子とか原子とか電子とかじゃ済まない、虚無の属性でも扱ってないような別の何かに干渉する術だからな。
その存在自体が禁術同然の刻印方術の中でも更に禁術だとはっきり明記されている術を何の準備もなしに実行したのだ、無茶だと言う事は理解している。
理解しているんだがやっぱりデルフリンガーには俺の手元に居て欲しいし、平行世界に関しては我と言う様々な平行世界の『ヒラガサイト』の集合体が在る故、我の存在を要に使えば平行世界と繋がる事も可能だろうと言う憶測もあったのだ。
万に一つ、億に一つと言う限りなく低い可能性の話ではあったそれがほぼ成功した事は間違いない。
が、そこで調子に乗って平行世界に数多存在する【ヒラガサイト】の中で尤も強力な【ヒラガサイト】の用いていたデルフリンガー達も融合させて呼び出そうとしたのが間違いだったらしい。
だけど、何で女の子なんだ?
しかも、何故かこの子を抱いていると左手の使い魔のルーンが、ガンダールヴの刻印が光ってるんだが。
これって、武器に反応するんだよな?
……この子を振り回して戦えと?
そんな、ありとあらゆる意味で犯罪者扱いされそうな事をする気は無いんだが。
「んぁ、ごしゅじんさまだぁ」
俺が混乱している内に目を覚ましたのか寝惚け眼で、寝惚けたような声でそんな爆弾を落としてくれる。
いや、まぁ、ここは貴族の居る世界。
と言うか周囲には貴族がたくさん居るんだ。
メイドとかにご主人様と呼ばれる事もあるだろうからそこまで物凄い爆弾って訳でもないはずだ。
とりあえず冷静になるんだ、俺。
術式は完璧だな?
対象は確かに【デルフリンガー】で固定してあるし、少なくとも我をご主人様などと呼ぶ存在は……平行世界の中に何人かデルフリンガーにそう呼ばれている我が居るが、他の誰かにそう呼ばれる事は無い筈だ。
褥の中で無茶をし過ぎた結果、そう言う関係にあった者達全員にそう呼ばれていた事もあったがそれは別として、だ。
とにかく、我はこの娘を知らぬ。
記憶に関しては穴が開いていたり朧だったりとはっきり言って役に立ちはせぬが、それでも敵や友、そして大切な女、最低でも一度は関係を持った相手の事は何となくではあるが覚えて居る。
と、言う事は、我の知らぬ平行世界から強制的に呼び寄せてしまったか、この娘が【デルフリンガー】であるかのどちらかなのだろう。
「名は?」
「ご主人様、このデルフリンガーを忘れたか?」
デルフリンガーである事は間違いないらしい。
だが、だがな。
俺の知っているデルフリンガーはこんな口調で話さないし、そんな風に可愛らしく小首を傾げて微笑んだりはしないんだよ。
「今の状況、理解してるのか?」
「む?」
俺の言葉を聞いたデルフリンガーは俺に身を預けたまままだ何処か寝惚けた瞳で周囲を見回し、正面で笑いをこらえているギーシュを確認して一つ頷く。
何かを理解したらしい。
「ご主人様、人前で、しかも決闘の最中に剣を抱き締めるのはどうかと」
自分が剣じゃなく、女の子だって事に気付いてないって事だな、これは。
やっと、確信した。
剣の時もそれらしき所は見て取れたが、コイツは天然だ。
……いや、何となく思い出せる記憶によると、ハルケギニアで出会った女性の内、フーケとジェシカ以外はほとんどが天然の素養を十二分に持ち合わせていたような気もするのだがな?
まぁ、それはともかく、だ。
まずはデルフリンガーに現状を認識してもらわねばいけない。
「ギーシュ、ちょっと鏡貸してくれ」
「あ、ああ、わかった」
笑いをこらえながらギーシュはそう答えると、懐から手鏡を取り出してこちらに放り投げてくれる。
それを片手で受け取って不思議そうな顔できょとんと見上げてくるデルフリンガーを鏡に映し、本人に見せてやる。
そこに映っているのは、一人の少女。
身長はタバサと同程度、スタイルはシエスタと同じか、少し細めと言った所か。
顔形はルイズにもアンリエッタ女王陛下――いや、今はまだ王女か――に似ているが、全体的に似ているとか雰囲気が何処と無く似ていると言う感じで個別のパーツで見て行くと瓜二つと言う訳でも無い。
何と言うか、従妹とか叔母さんとか祖母の若い頃の写真に似てるとでも言えば理解しやすいかもしれない。
ただ、一つだけ決定的に違うのは色だろう。
このデルフリンガーは、白くて紅い。
アルビノ、と言うんだろう。
白髪、真っ白な肌、そして、真紅の瞳。
剣と言うのが影響しているのか幼いながらも凛々しいと評すべきその顔は、鏡で自分の顔を凝視している内に現状その他諸々を認識し始めたらしく真っ赤に染まって行く。
俺に抱き締められて貞操の危機を覚えて青くなるとかじゃなくて良かったとかは思って無いぞ?
そんな風に思われる経験があるだけに、その事を言われたら否定意見を出す事すら許されないんだが、俺は。
「ちょ、な、何で昔のっ!?」
「いや、昔と言われ……あ」
「あ、って、何をした、ご主人様!!」
「や、デルフリンガーの強化に挑戦って事でこの世界のデルフリンガーに時間も世界の境界線も無視して、情報とか経験とか材質とか施された術式とかをこの世界のデルフリンガーにも使われたって形になるようにしてみたんだけど」
「それが、なんで!?」
「だから、時間を無視した結果?」
俺の言葉に考え込むデルフリンガー。
そうだよなぁ。
昔の姿って事はこれがデルフリンガー本来の姿って事なんだろう。
ただ一つの属性である錬金を使うだけで土を金に変える事が可能で、分子だか原子だか電子だか知らないが四大の扱うそれよりも更に微細なその領域を操る事が出来る虚無の使い手たる始祖ブリミルの使い魔が使った剣だ。
普通の人だったのかもしれないし、死人だったのかもしれない。
もしかしたらアンドバリの指輪みたいに先住の魔法を用いて誰かを素材にしたのかもしれないが、とにかく人間が剣になったくらいで驚いてる必要はない。
いや、思いっきり驚いて軽くパニックになってたし、今現在も落ち着いてるって訳でも無いんだが、納得は出来る。
そう、冷静に考えれば人間使ってると考えた方が納得出来るんだよ、色々と。
ガンダールヴの、虚無の使い手の使い魔が振るった剣なのだから、多少特別である必要はあっただろう。
それこそある程度のレベルまでの魔法を無効化したり、ガンダールヴの心の震えとやらを、言い変えれば精神力を束ねて斬撃を放つとか言う能力が。
だけど自分で思考したり、自身を封印したり、必要な知識を忘却したりする機能なんて必要は無い。
と、言うか俺にはルイズが居るようにガンダールヴにはブリミルが居たはずだし、ミョズニトニルンやヴィンダールヴやアレが居たんだから話相手が必要だったとか言われても信じられない。
それに、伝承を伝える必要が合ったとか言うのなら始祖の祈祷書にでも書いておけば良いし、デルフリンガーはそもそも全てを忘れていた。
だと言うにデルフリンガーは自分で思考し、自分で自分の機能を封印したり見た目をみすぼらしくし、更には我が買い取らねば自分を処分させようとすらして居ったのだ。
はっきり言って不要な行為であろう。
始祖の祈祷書の如く次のガンダールヴの手に渡るまで自分がガンダールヴが振るうべき剣だと誰にも知られぬように身を隠す必要があったのかもしれないが、それとて封印してしまえば良い。
始祖の祈祷書や始祖のオルゴールが各王家に伝わるルビーを付けた“虚無の使い手”にだけ反応するような細工が施せたのだから、同様にガンダールヴのルーンを持つ人間にだけ鞘から抜けるようにすれば良いのだ。
人間を剣にしたので無くとも、誰かの思考パターンをコピーした、と言う可能性もある。
と、言うか冷静に考えればこっちの方が正解かもしれぬな。
インテリジェンスソードはブリミルが生きた時代以降の者の手によっても生み出されているような事を聞いた事があるしの。
基準がこんな女の子だったとしても六千年も時を経れば人格は勿論、口調の変化くらいは許容範囲どころかまっとうな人格が残ってる辺り奇跡であろう。
どちらにしろ、この容姿と性格を持ったデルフリンガーの原型、雛形は誰であったのか。
可能性としては始祖ブリミルかその姉か妹、もしかしたら先代のガンダールヴと言うのも在り得るかも知れぬ。
ルイズ達の面影が見て取れると言う事は、始祖ブリミルと呼ばれる存在と関わりが深いと言う事は確実なのであろうがな、おそらくは。
始祖ブリミルの三人の子から成り立つ王家。
そしてその内の一人。
虚無の属性を宿し、ガンダールヴを新たに使い魔として呼び出す事の叶う娘と、王家として連綿と血を現在に伝え続けた王女に似ているのだ。
順番から言ったらルイズ達“に”似ているのではなく、ルイズ達“が”似ているのであろうがの。
可能性で言えば先代ガンダールヴがその娘に惚れていてブリミルかその子の思考をコピーして封入したとか、誰かが死んだ先代ガンダールヴの思考をコピーしたと言うのも在り得るかもしれんがな。
ま、六千年も前の確認しようのない事であるし、本人が語ってくれるとも思わぬ。
何よりも、語られた所で我には何の意味合いもない。
【ヒラガサイト】にとって、デルフリンガーと言うのは掛け替えの無い、唯一の剣なのだから。
「絶対に、私の事を聞いてはダメだからな、ご主人様」
「わかって居るが、その姿で固定されて居るのか?」
それなら、新しい武器を探さなきゃいけない。
さっきも言ったが、女の子を振り回す趣味は無い。
と言うか、どうやって戦えと?
……剣になりさえすれば振り回すんだがの、まぁ。
「その点は心配ない、誰かさん達に改造されたおかげか変形機構は残ってるから」
喜ぶべきか、悩むべきか。
まぁ、俺が大事に使えば良いだけだし喜んでおこう、とりあえず。
「ならば剣に」
「御意」
深く突っ込まれるよりも流して締まった方がデルフリンガーも良かったんだろう、あっさりと答えて光を放ち次の瞬間には俺の手に馴染んだ剣へと姿を変えていた。
もう少しからかっても楽しかったかもしれないが、そこはそれ。
今は決闘の準備段階だ。
ギーシュは随分と色々と仕込んでくれている事だろうし、これ以上あちらに自由な時間を与える訳にもいくまいて。
「ん、終わったのかい?」
「ああ、待たせたな」
「ま、僕も準備しておきたかったしね、問題無いさ」
「それは良かった」
観客の面々は流れについて行けないのか固まっているが、気にする事は無い。
前回はこれで我に対する反応は変わったが今回は良い方向に変化するとは思えぬからな、どう考えたとしても。
魔法もどき、と言うか知らぬ者から見れば魔法でしかない刻印方術を使って見せ、更には人から武器へと変化するデルフリンガーの存在。
どれを取っても異常なのだ、受け入れるのは容易ではあるまい。
……改めて考えると最初から、ギーシュに頼んで剣を創ってもらっても良かったんだがの。
「やはり、以前と同じく我が戦乙女達と戦っていただこうか、戦闘技能は勿論、その美しさもまたレベルアップはしているがね」
ギーシュの言葉と同時に、そこら中に散らばっていた花弁が集まり二十体ほどのゴーレムが立ち上がる。
造詣は、言うだけあって前回のそれとは比べ物にならないほどに美しい。
別にそこはレベルアップしなくても良かったような気もするんだが流石はギーシュ、無駄と言う言葉すら言う気も無くなるほどの美に対する執着よ。
それにこれは青銅ではないの、芸の細かい事に数体ずつ種類が異なるようだ。
「今の二つ名は何だ、ギーシュよ?」
「変わらず青銅だよ、【芸術家】と呼ばれた頃の技量は隠していたからね、今までは」
「なるほど、しかしこれでばれたの」
「別に問題無いさ、あのオールド・オスマンがただで宮殿に僕を上げる訳もなければ、僕がそれに従う訳もないだろう?」
「確かに」
それに、観客の内何人がこの会話を耳にして居る事か。
人を死に至らしめる凶器を持つ禍々しくも美しき美の女神達と相対する愚者と言う絵画の一場面だからの、この状況は。
まぁ、我の事は忘れられて居る可能性も否定しきれぬが、ギーシュの生み出したゴーレム、と言うよりも彫像はそれほどに美しい。
これから殺し合いとも取れる遊びが行われると言うにな。
「では、始めようかの」
「ああ、始めよう」
言葉に出したら間違いなく止められるであろうから、最後に言うべき言葉は口には出さずに動き始める。
二人で遊びを始める為に。
まず槍を持つ五体の女神が駆ける。
戦う為の技量を磨いては居ない人の目には映す事も適わぬスピードで、我の周囲を飛ぶ様に走り槍が空を刺し貫く。
おそらくはその為に軽金属を用いているのだろうが、ただ早いだけではない。
技量によってそれなりの重さを生み出して居るし、そもそもがコレは人の目を楽しませる為だけに生まれた彫刻ではなく、ゴーレムなのだ。
どれだけの膂力を持つか等、考えるまでもあるまい。
早いし力もあるが、それをより円滑にしている技量を与えたのは我。
平行世界の全てにおいて我に師事しゴーレムに刻むべき動きを学んだのだ、その経験を積み重ねただけはある。
我のそれを完璧に再現し、人の身では叶わぬ動きを持って我に迫る。
とは言え、基本は我も知っている。
そして、我の目にはこの素早さとて多少早いと言う程度。
時には合わせ、時には故意にずらし、繰り出される槍を捌き、繰り出されるそれの内一本を押さえ、引き寄せ、身代わりとする。
我の変わりに貫かれたそれにとどめの一撃を放ち、残りは十九体。
この時点で次に軽いであろう剣を持った七体の女神やってくる。
いや、違うな。
もうすでに全てが攻撃態勢に入っているところを見ると、タイミングを計ってるだけか。
ギーシュの創ったゴーレムが相手なのだから、重金属を用いて居るから動きが遅いと判断する方が問題なのだが。
それにしても、やはり動きは我のそれに似て非なるモノ。
袈裟、逆袈裟、刺突、脛斬り、胴、逆胴、唐竹、ありとあらゆる斬撃が放たれ、その合間を縫うようにして槍が走り、後方に控えた数体が矢を放つ。
我はそれを捌き、叩き落とし、蹴り飛ばし、手で払い、かわす。
膂力の時点で地力が違うのだ。
受けるなどと言う愚を冒せば即座に我は切り刻まれ、刺し貫かれる。
前の時の無様な己を反省はしているのであろうが、攻撃に参加しているのは二十体中十四体。
残りの五体はギーシュの直衛だ。
……まぁ、あそこに居るのが本物のギーシュかどうかは疑問が残るところだがな。
「はははっ、流石だね、サイト!!」
「ハッ、ギーシュ、お前こそよう練り上げたものよ」
「時間はあったからね、それなりにはやらなきゃ、戦闘技能に関してだけとは言え君の弟子なんて名乗ってられる訳ないだろ?」
「確かに、許さんな」
「フッ、まったく、厳しい師匠だ」
「弟子がやり過ぎと言いたくなるほどに努力して居るのだ、師が手を抜いてどうする」
互いに笑みを交わしながら片や必殺の攻撃を繰り出し、片やそれを捌き時に反撃を繰り出し敵を減らす。
ギーシュも全盛期ほどの精神力は持ち合わせて居ないだろうから魔法関係のトラップはほとんど用意出来て居ないだろうが、何も小細工を施さない訳が無い。
これだけのゴーレムを同時に動かす技術も、ゴーレムを生み出す精神力も、平均なんてあっさりと越えている。
だが、あのギーシュがこれだけで満足する訳がない。
我の知っているギーシュは、そこまで温くは無い故。
刃が走る。
互いに交差し、時に弾き、時にそらし、時にかわし、ただ無心に戦う。
身体は刃に従い、それに関する思考を挟む余地は無いのだ。
この身を動かすは我に刻まれたガンダールヴと言う名の力であり、我が得、磨き上げた業故に。
だから、身体はそれに任せ、我は肉体から思考を切り離し考える。
この場面で、この流れで、ギーシュは何をするのかを。
ただゴーレムを動かし我を討たんとする?
否。
その程度の事で我を打倒出来ぬ事をギーシュは熟知している。
確かにこの身は全盛のそれと比べれば余りにも脆弱。
しかし、過去――正確には未来であるが――身に付けし我が業によって身体にかかる負担が軽減されている故に、この程度で遊びの最中に倒れる事もない。
刻印を使えばもう少し楽になるのだがそこまでは許してはくれまい、と言うか刻印を使う余裕は無いのだが。
とにかくギーシュが我の体力切れを狙っては居まい。
ならば、何を狙う?
……舞い散った花弁が、まだ残っている。
数は少ないが、まだ残っている。
ならば、そこに何か仕込まれていると考えるのは必然。
だからと言ってそれで終わるか?
それにギーシュのゴーレム達はその花弁を、あからさまに避ける様にして動いている。
アレだけあからさまな動きは、二重三重のトラップがあると判断するが良いだろう。
無駄かもしれぬ、無駄ではないかもしれぬ。
ならば今はまだ気にすべきではない。
そもそも、気にした所で我に許される行動はただ一つ。
身体はガンダールヴのルーンに従い、頭ではこのトラップらしきモノによるダメージを最低限の被害で処理する為に必要な情報を集め、情報を吟味し、推測を事実へと至らしめ、それを実行するのみ。
「まったく、紙一重どころか服にもかすらせないとは、ホントに厳しい師匠だね」
「何を今更、弟子があらゆる意味で迫って来て居るのだ、師を名乗る以上は突き放してまだまだ我は先に居ると教えてやるのもまた師の務めよ」
地に落ちたゴーレムを蹴り飛ばして強引に間を取り、下がる。
思考の最中にこの身とガンダールヴのルーン、そしてデルフリンガーが屠ったゴーレムは六。
最初に屠った一体と併せ、残りは十三。
流石に場が場だけあって矢の雨は我が打ち落とせる程度に散発的であり、今はすぐ後ろに他の生徒が居る故に止まった。
やはり、疲労中々溜まって来て居るな。
場を支配するは沈黙と我とギーシュの笑い声、そして……地を掻く音。
地上にその様な事をしているモノは居らず、目に見える範囲の変化は見当たらぬ。
ならば、音源は何処に居る?
地下しかあるまい。
「どうやら、ヴェルダンデも元気に働いて居るらしいの」
「僕のヴェルダンデが地下で何をしているかわかるかい?」
「そうよな……落とし穴も作って居ろうが、ついでに地下通路を形成して居るのではないか?」
具体的には、ギーシュのゴーレムが不自由なく動き回れるくらいの地下通路を。
ただ、それだけと言う事もなかろうがの。
「ハハハハハッ、さて、じゃあ次は大技だ、耐えられるかい、サイト?」
「そうさの、刻印方術を使わんと少々キツイかもしれんが耐えて見せてこその師であろう?」
「なら服を脱いだらどうだい、大切な繋がりの一つなんだろう?」
「……ふむ、そうさせていただこう」
観客の方を見、視線を走らせるとすぐにルイズの姿は見つかった。
何やらシエスタ、キュルケ、タバサの三人と一緒に物凄い目で我とギーシュを見て居る様な気もするが、気にしても仕方あるまい。
後で説明その他諸々が大変そうだが。
ただの尋問ならばどうとでもなる。
「ルイズよ、すまぬが上着を頼む」
「っ、待ちなさい、何よこれ、これの何処が遊びだって言うのよ!?」
「まず、我もギーシュも傷ついて居らぬ。
それはその服を見てもわかるであろうし、今の我の格好を見ればわかる事であろう?」
「で、でも!!」
「次に、我等が本気で殺し合いをしていたらこの学院は消滅して居るよ、それこそ痕跡一つ残さずに」
俺の言葉が真実であると今までのやりとりで理解したんだろう、それで皆黙り込む。
……怯えた目で見るのは勘弁して欲しいんだが。
「じゃあ、その剣、何?」
「む、これは我が昔から使って居る剣でデルフリンガーと言う、六千年前から存在する由緒正しき剣よ」
「六千って、始祖ブリミルの時代の!?」
「うむ、存外ブリミルと関わり深き剣かもしれぬな。 なぁ、デルフリンガーよ?」
「黙秘させてもらおう、ご主人様」
「……ご主人様と言う割には敬意も何も感じられん話し方よの」
「ご主人様の主に対する口調よりは丁寧だ」
「別にふてくされんでもよかろうに、まったく」
苦笑を漏らし、会話は打ち切りと背を向けて歩きだす。
と、言うか現時点で話せる事となると極端に少なくなるから、仕方があるまい。
「ちょ、まだ話は終わって無いわよ?!」
「残念な事に人を待たせて居るからな、今日は一晩中尋問を受ける覚悟がある故にそれで勘弁してくれんか、ルイズよ?」
「……全部話してもらうからね」
「善処しよう」
違う意味で寝かせないとか言われたら俺も嬉しかったんだけど、ホントにどうしようか。
後先考えずにギーシュと遊んでるんだが刻印方術使って無茶な事もやったし、デルフリンガーについても遊び過ぎた。
と、言うか、それを抜きにしてもギーシュのゴーレムとの戦いはやり過ぎだ。
この遊びをすると決めた時点で手遅れだと言う事はわかっていたが、それを抜きにしてもルイズ達の目が怖い。
それはもう、物凄く。
「デルフリンガー」
「ご主人様、何?」
「これからはリンって呼ぶから」
「好きにしろ」
「ああ」
なんて言うかアレだな、これで身体が剣の状態じゃなくて女の子の状態だったら俺の気も晴れるんだが。
……それにしても、ギーシュのゴーレムの姿が一つも無いな。
これで下準備は完了、と言う事か。
「大変だね、君も」
「お前は大丈夫なのか、ギーシュ?」
「僕? 僕は何の心配もな……」
大切な事にギーシュも気付いたらしい。
俺もさっきまで忘れていたと言うか、今思い出したのだが。
ギーシュの視線を追うと、そこには凄い目をしてギーシュを睨み付けているモンモランシーとケティの二人が居る。
今回は上手い事二人と同時に付き合ってるらしいが、力を隠していたのは許されないんだろう。
ついでに、殺し合い同然の決闘を楽しんでる所なんて見せたら怒って当然
……何と言うか、俺の立場が微妙に違うが懐かしい光景だと思ってしまうのは何故だろう?
「俺の目には、二人ほどお前を凄い目で見てる気がするんだが?」
「あ〜、ヘルプを頼んでも良いかな?」
「無理だろう、連合を組みそうな感じだ」
俺とギーシュの視線が向いている中、その視線の流れに気付いたらしいルイズ達四人が二人と合流している。
と、言うかキュルケとルイズは敵対関係とまでは行かなくても犬猿の仲と呼べる関係だったと思うんだが、何時の間に同盟を組んだんだろう、そこは。
シエスタも、最初の頃は貴族相手に一歩引いた立ち居地に居たような気がするんだが。
「モンモランシーが変な秘薬の類を使わないでくれる事を祈るしかないな」
「……まったくだ」
俺とギーシュの二人、決闘してる気分じゃ無くなったのだけは確実だ。
ルイズ、シエスタ、キュルケ、タバサの四人が相手ならはぐらかして逃げ続ける自信はある。
その自信はあるんだが、モンモランシーの秘薬が怖い。
女好きのギーシュと付き合ってるモンモランシーが自白剤関係の秘薬を用意して無いとは思えないから。
「続けて尋問を受けるか、止めてグラモンの家に逃げるか、それとも中止して尋問を受けるか、どれが良いと思う?」
「君のお勧めは?」
「逃げても捕まえられるのは確実、続けて尋問なんて受けたら命に関わりそうな気がする」
体力消耗した時点で六人による尋問だ。
場合によっては、秘薬の類まで使用される可能性のある、物凄い尋問。
本気で命に関わるだろう、そんな事になったら。
俺の言葉に答えは決まったとギーシュはトラップの類を解除して最後の一撃の為に準備していたそれらも処理を済ませ、何処か達観した表情で俺の隣に立つ。
おそらくだが、俺も同じ表情をしているだろう。
「……これも、自首と言うべきかな、ご主人様?」
「さぁな」
揶揄する様なリンの言葉が、物凄く辛かったとだけ言っておこう。
ついでに、女に怯える俺達に対して観客が呆れたような目を向けていた、とも。
----------------------------------------------------------------------------------
あとがき
あれ、決闘が物凄く変な形で終わった?
はっは、ギーシュとサイトが強過ぎます
ガンダールヴと同様の動きをするゴーレム二十体って何事ですか?
それに、トラップまで用意してって……洒落になりませんよ
と、言う訳で強制終了
不完全燃焼と言われたらまったく否定出来ない所なのですが、これ以上続けるのさすがにやりすぎかと判断したのでこんな形に
モンモランシーの秘薬はそれだけ恐ろしいのだと思ってください、禁止されてる惚れ薬作るだけの技量がある子の秘薬……どんな効果のお薬を使いましょう?
それはそれとして、集団戦闘を描写するのはとても苦手なのですよ
刃を交わらせる当人、その隙を狙う第三者、その背後から味方の邪魔にならないように援護を行う敵、集団戦闘だとここまで書かないと半端になってしまうので、いっそばっさりと省いてしまいました(爽
ガンダールヴってこう言う時便利なのですよ、実際はこんなモノではないっぽい表記が原作ではあったりするんですが
擬人化デルフリンガー、無理な論法を組み立ててみました
戦場に恋人の髪の毛をお守りとして持って行くとかありますから、魔法の世界と言う事で恋人の思考とかを武器にコピーして持っていくとか、故人の思考をコピーしてみるとかそう言う事があってもよかろうとか思ってしまったのです
で、六千年も経てば誰かのコピーであったとしても性格や口調にその痕跡が残っている訳も無いのだから、女の子でも問題なかろう、と
で、現在過去未来全てのデルフリンガーを融合させたので、他の武器に変形出来るのなら人の身体をに変形しても良いだろうと言う無茶な論法を持ち出してみました
質量云々の話は聞きうけません、だって魔法ですから(爽
以下は恒例と言うか何と言うか、レス返しです
以降は未だ投稿させていただいていませんので、投稿した際にはそちらを参照してくださるようにお願いします
……続きが何時書きあがるか、私にもわかりませんがね?(遠い目
ギーシュの事を受け入れてもらえて何よりです
最悪の事態を避ける為に一人奔走するよりも、パートナーが居た方が良いかと思ったので
……デルフリンガーは女の子にしちゃったので立場的にはちょっと違う位置に移動してもらおうかと思っています
第二魔法に到達、してるんでしょうかねぇ
ただルイズの使う『虚無』って艦隊を一撃で壊滅させるだけの威力の攻撃を放ちながらも、誰一人殺さないなんて言う無茶を可能にする攻撃が初歩ですから、『虚無』の存在自体がTYPE-MOONの世界の魔法に到達してそうな気もするんですけどね
タバサ達の認識は、次回で改めて出します
そこでどう変わるかは私にもわからないと言うか決めかねているんですけどね、どうしましょうか
後期待に添える様に、ありえない流れを目指してみます
いや、そんな事したら私が続きを書けなくなりそうですから、行き過ぎたら訂正しますが
……それも、もう随分と手遅れのような気もするんですけどね(遠い目
それで会津の小天狗をちょっと調べてみたんですが、武田惣角先生でした
大東流合気柔術を全国に広め、他流試合にストリートファイト諸々の事を行った人で「近代最強の武術家」とか言う評価を受けているそうです
盲目だったと言う話もあるそうですが、物凄い人ですよねぇ
いや、まったく関係ないのに何でこの人の事を語っているのか私にもよくわからないんですが
とりあえず、今回はこれにて失礼
前へ 戻る 次へ