我の名は平賀才人。

認めぬ者、信じぬ者も居るが、我は間違いなく使い魔である。

主に問題があるのか、我に問題があるのか、それはもう些細な事であるが故に気にする事はしまい。

ただ言える事が一つだけあるとすれば、我の愛すべきマスター、ルイズに常識が通用すると判断すると痛い目に遭う、そう言う事であろうか。







――トリステイン魔法学院側の草原――


「あんた誰?」

開口一番、これだ。

さすが我が愛すべきマスター。

何処の世界でどの様な過程を経ようとも、まずそう言うのだろう。

とりあえずマスター……ルイズの言葉には答えず、周囲を見回す。

コルベールが居る。

ギーシュが居る。

……やはりと言うべきか、タバサとキュルケの二人は居ないらしい。

「ちょっと、無視してないで答えなさい!!」

「む、失礼したマスター。
 我の名は才人、平賀才人と言う」

この場に居る面々をからかう為だけに、アルビオンの貴族がする礼をしながら名乗ってみせる。

ついでにマスターの、ルイズの手を取りその甲に口付ける等と言う気障な真似もしてみるが、面白く無い事に反応が無い。

場が、沈黙に包まれてしまった。

何か間違えてしまったのだろうか?

ついでにルイズの名前も呼んでみようかと思っていたんだが、それをしなかったのは正解だったようだ。

「……貴方、平民、よね?」

「魔法らしきモノは使えるがマスターの用いるそれとは違うからな。
 我は分類としては平民となるだろう」

「な、ならなんでアルビオンの礼法なんて知ってるのよ!?」

「うむ、知人にアルビオンの貴族が居ってな、それを真似てみた」

時には友であり、時には恋敵であり、時には死した憧れの人であったアルビオンの皇太子。

彼の者の模倣ではあるが正式に学んだ訳では無く見たものを模倣するだけでは少々ぎこちないかと思っていたのだが、この反応からして認めて貰えたか。

「お、おいおい、ルイズ。
 『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするんだよ?」

「ちょ、ちょっと間違えただけよ!?」

「間違いって、ルイズは何時もそうだろ!!」

「流石はゼロのルイズ!」

真っ赤になってマスターは怒鳴りつけたが、それはただの呼び水となり結局は周囲は爆笑し始める。

どうやら、我が行ったアルビオンの王家に伝わる礼法に関しては流してしまうつもりのようだ。

世の中には、認めたくないモノを無かったモノとして扱える人間と言うのは少なくないからな。

ルイズの場合はちょっとテンパってるだけだろうが。

「ミスタ・コルベール!!」

叫び何度も名を呼んでワタワタと『もう一度』とか、『やり直させてください』とか連呼している。

うむ、流石我がマスター。

愛らしい。

「なんだね、ミス・ヴァリエール?」

「あの、もう一度! もう一度召喚させてください!!」

だが、ルイズよ、マイマスターよ。

流石にそれほど必死になられると、それなりに丈夫な我でも傷つくのだが?

まぁ、真っ赤になってワタワタと叫んでいる姿は愛らしいから、多少の傷など即座に癒されて居るが。

「それはダメだ。 ミス・ヴァリエール」

「どうしてですか!?」

「決まりだよ。
 二年生に進級する際に君達は『使い魔』を召喚する、今やっている通りにだ」

この話を聞くのは初めてだと判断する我も居れば、何度も聞いたと判断する我も居る。

もしや我は平行世界とやらに数多存在する平賀才人と言う存在の集合体になってしまったのかもしれぬな。

うむ、何となくそんな気がする。

仮に違ったとしてもただルイズを含めた大切な者達を護る力と智慧がある事は確実なのだから、それだけ理解しておけば問題はあるまいて。

「それによって現れた『使い魔』で今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。
 一度呼び出した『使い魔』を変更する事は出来ない。
 何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。
 好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔にするしかない」

「でも、平民を使い魔にするなんて聞いた事がありません!?」

何気に失礼な事を言うの、ルイズもコルベールも。

コルベールは女の扱いの一つも知らん癖に。

まぁ、我も知っていると言い張れるほどまっとうな恋愛経験が豊富と言う訳でもないがな。

そもそもルイズには魔法らしきものを使えると言うておいたと言うに、それほど我との契約を拒むか?

ああ、そう言えば、契約の儀と言うとキスだったから、初めての口付けを平民の男にせねばならんと言うのが納得いかん、と言う事か。

とりあえず周りはまた爆笑しとるが、ギーシュは一人笑いもせんと周囲を不快なモノを見る目で見とるな。

我の礼法に対して疑問を抱き、さらに我とルイズとの会話から我が魔法とは違う魔法に似たモノを使う事を耳にし、笑う気になれんか。

……女子を笑いのネタにするのが嫌なだけかもしれんがな。

「これは伝統なんだ、ミス・ヴァリエール。
 例外は認められない。 彼は……」

そこで一端言いよどみ、指差そうとして掌で我を指し示す。

指差すと言う失礼な事を行って良い存在かどうか判断に困っての行動であろうが、不快な気分を少しでも感じずに済むのは良い事だ。

現在進行形でマスターたるルイズを貶されて我の堪忍袋の緒が切れ掛かっている状況なのだから。

「ただの平民なのかどうかすら今一つ良くわからないが呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければいけない。
 古今東西、人を使い魔にした例は無いが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。
 彼には君の使い魔になってもらわなくてはな」

「そんな……」

そんな力尽きたように膝を折らんでもよかろうに。

それにしても、やはりこの春の使い魔召喚が神聖な儀式として扱われる理由がわからん。

きょうこの日が一年で最も世界が魔力で満ちる日であり、儀式に用いる秘宝と分類されるであろうマジックアイテムの効力もあるのだろうが、やはりその秘宝が始祖ブリミルに関わりがあるかもしれんな。

この世界に住まう人は、すべからく始祖ブリミルを敬愛しているから。

「さて、では儀式を続けなさい」

「え、彼と?」

「そうだ、次の授業が始まってしまうだろう、君はどれだけ時間をかけたと思っているのかね?
 何度も何度も失敗して、やっと呼び出せたんだ。 良いから早く契約したまえ」

残念な事が一つあるとすれば、我が初めての口付けではないと言う事か。

いや、この身はトリステインに呼び出された当時のモノのようだから肉体的には初めてなのであろう。

精神的にはキスどころか性行為すら何度と無くして居るからなぁ。

真、残念な事。

「あんた、感謝しなさいよね。
 貴族にこんな事されるなんて、普通は一生ないんだから」

やはり、貴族どころか王族の女性とそう言う関係になった事もあると言うても信じてはもらえんな。

信じられたら信じられたでそれは困るが。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 五つの力を司るペンタゴン。
 この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

呪文の詠唱が終わり、口付けがされる。

……アレだな。

これは一種の羞恥プレイと言う奴だ。

初めてであろうとなかろうと、これは恥ずかしかろう。

舌を入れる訳にもいかんか。

無理矢理もそれはそれで盛り上がるもんなんだが、犯罪はダメだ、犯罪は。

「終わりました」

「『サモン・サーヴァント』は何度も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんと出来たね」

「相手がただの平民だから『契約』出来たんだよ」

「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんて出来ないって」

「……ふむ、そろそろ我が主を貶すのは止めていただこうか、下郎共が」

初めてここに来た頃は、現状を理解して居なかったから気付かなかったが、これは許し難い。

「力が劣っているからと女を貶して喜ぶとは、この場に居るのは貴族と言うよりも下郎の群れだ」

「なッ、貴様!?」

「何だ、我は別に間違った事を言っていまい、それともお主等は晩餐会でも同じ事をして喜ぶのか?
 人を貶しそれで喜ぶ、何と浅ましい姿か」

ストレートな貶し言葉に、口を開く事も無く黙り込む男達。

ギーシュは言えずに居た事を恥じているのか、悔しげな顔をしては居るが他の者達とは違う目をして居る。

恥じる事が出来るのであれば、それは成長する余地があると言う事、流石は我が友と認める一人よ。

だが女達はここまでストレートに言われた事も無いのであろう、ほとんどが憤慨している。

まぁ、茶飲み話に他人を貶めるのも貴婦人の嗜みと言われる事もあるかもしれんが、基本的にそのようなモノと関わりの無い我にとっては気分の悪い話でしかないのであの者等の憤慨などどうでも良いのだが。

「ぬ、これ、は?」

予想外だ。

使い魔のルーンが刻まれて居るのはわかるが、何だ、コレは?

こちらに来たばかりの我には確かにあの痛みも辛かったが、今の我にとっては些細なモノでしかないと判断したのだが。

この痛みは……違う。

左腕だけでは、無い。

肩に到るまで隙間無く痛みが走り、信じられぬ熱量が我が身を包む。

何だ、コレは?

「ど、どうしたのよ、ただ使い魔のルーンが刻まれてるだけでしょ?」

「これは、少々違う、よ、うだ」

瞬間、今までに倍する激痛が脳を貫く。

腕を切断された時も、これよりはずっと楽だった。

「ッはぁ、はぁ、はぁ、は、ぁ、む、いかんな、袖を破いてしまったか」

肩口まで多い尽くす様にしてルーンが刻まれているんだが、何だコレは?

このような事が起こったのは、初体験だ。

いや、まぁ、そのような不確定な事が起きるのもたまにはよかろう。

まったく変わらぬ生を送るなどと言うのは苦痛でしかないのだしな。

それに、一張羅のパーカーの布が破れなくて良かった。

縫い直す事は出来るが、当て布をする為の布がここには存在しないのだから。

「何故この刻印が刻まれるか、わからないな」

このルーンは、間違いなく、アレだ。 が、まぁ、ガンダールヴの印が確認出来るのだからそれで良いか。

「これは、一体?」

「使い魔の刻印は手の甲のこれだけだ、残りは何故かはわからぬが我の用いる術に用いる刻印が刻まれてしまった」

「術に使う刻印?」

「ああ、我が使うは刻印方術。
 魔法使いの使う魔法とは違い、その法則さえ理解する事が叶えば万人が用いる事の出来る力だ」

「なっ、そんなモノが!?」

「まぁ、その法則を理解するには魔法の数千倍以上の量の知識を身につけなければいけない上、これを学ぶ為の書は俺が処分して存在してないからな。 もし使いたくとも我以外に使う事は出来ぬ」

使い方さえしっかりと理解していれば一人で万軍を相手に戦える戦えるようになるなんて言う危険なモノ、後々の事を考えて処分しておいた。

この世界には残っているのかもしれないがな、あの男の下に。

仮に残っていてもその内容を解読すら出来ずに居るのだから、別に構いはしないんだが。

マジックアイテムではなくただの書物である以上、アレにも解読は出来まいて。

「それはわかったが、このルーンも珍しいな」

「……始祖ブリミルの使い魔のルーンを探して見れば良い、面白いモノが見れるかもしれんぞ?」

「何、を?」

刻印の事は無理矢理忘れる事にしたのか使い魔のルーンを凝視し始めたコルベールに小声でそう告げ、疑問の声は無視してその背を押す。

「生徒達が戸惑っている、教室に戻らなければいけないのだろう?」

「あ、む、そ、そう、だな、じゃあ、皆、教室に戻るぞ!!」

コルベールがそう告げ、レビテーションで飛んで行くと生徒達も三々五々に飛んで行く。

数人が振り返り何か言いたそうにしているが、俺の顔を見てその言葉を飲み込んで憎憎しげに睨み付けるだけでそのまま飛んで行く。

情けない事だ。

何か言ってくれれば問答無用で刻印方術の威力を教えてやれたものを。

「あんた、なんなのよ?」

ふむ、今回はキレてないな。

先に多少なりとも擁護したりしたから、それで敵意とかそう言う類の感情は強くは抱いていないんだろう。

「俺の名は平賀才人、ルイズの使い魔だ」

「そう言えば、あんた召喚された時には私の事マスターって呼んでたけど、どう言う事?」

「何、俺はルイズの知らない事を知っていて、その中に俺がルイズの使い魔だって知識があっただけだ」

「何よそれ、だいたい何で呼び捨てなのよ、私の事!?」

「ルイズはルイズだろう、何か問題でもあるのか?」

何だかんだと文句は言われたが、結局はルイズも俺に名で呼ぶ事を許していたような気がするんだが。

幾つもの記憶や感情が重なっているから、友の事と愛した女の事、そして敵の事しか覚えて居ない。

細かい流れとかはほとんど覚えて無いのは、重なりすぎたからだろう。

「問題があるのならば、ご主人様とでも……いかんな、やはりこう言う言葉は女の子が口にするからこそ良いのであって、男が口にしても卑屈にしか聞こえない」

「何を勝手に納得してるのよ」

「なら、先ほどから不遜な態度を取っている俺が、唐突に慇懃なまでに丁寧な応対するようにした方が良いか?」

「……それは、何かイヤ」

うん、同意を得られて何よりだ。

どうも色々と重なった結果か口調も一定していないからな、下手に敬語なんかに口調を固定したら他の諸々の感情何かも一緒に固定されそうで怖い。

原因もわからないのだ、可能な限り自然なままで居た方が良いだろう。

「さてルイズ、部屋に行こうか?」

「え、な、なんでよ!?」

「……ルイズ、使い魔の俺を何処か適当な所に放り出すつもりなのか?」

「ダメ?」

「別に何処に居ても良いと言うのなら、俺は遊ぶぞ?」

にやりと、見ている者を不安にさせる笑みを浮かべてみせる。

……笑みの使い分けなんて、覚える気はなかったんだがなぁ。

ま、ルイズがその原因の一端を担っているのは確かなんだから、多少不安を抱いてもらっても問題はあるまいて。

「わ、わかったわよ、部屋に行くわよ」

「ああ」

とりあえず、前哨戦は俺の勝利か。

いや、勝つ意味は無いんだがうっすらと覚えている記憶によると、俺が暴走してルイズに殴られて気絶してたから、悔しかったんだな、きっと。




夕方――トリステイン魔法学院寮内・ルイズ居室――


それにしてもまさかノートパソコンの入った鞄まで手元に残っているとは、完璧にあの時の焼き直しだな。

まぁ、身体の中に収まっている俺がまったくの別物になっている以上、同じ流れにはならないだろうが。

とりあえず、部屋に来てから都合一時間ほどが経過したのだが、ルイズは未だに一言も言葉を発しない。

当然と言う顔でルイズの外套を言われる“前に”クローゼットの所定の位置に仕舞い、部屋の中に置いてあった紅茶をルイズ好みに淹れたりした結果、警戒されているらしい。

見ず知らずの同年代の怪しい男が部屋の中を熟知している上、紅茶の濃さの好みまで完璧なのだ、これで警戒すらされなかったら色々な意味で俺がルイズを心配した事だろう。

俺は暇潰しにルイズから断りを入れてから借りた魔法の教科書を眺めているし、ルイズと一緒に居られると思えばこの沈黙も悪くは無い。

「やはり、魔法の基礎を理解出来ぬ身では教科書なぞ読んでみた所で意味は無いな」

「何を言ってるのよ、当たり前じゃない、そんな事」

「しかしな、世の中には俺の使うような特殊なモノが存在しているのだ。
 もしかしたら魔法に関わりが無くとも使えるモノがあるかもしれないだろう?」

「そんなの、無いわよ」

「何を言っている、魔法は貴族の専売特許だとその可能性を削りとり、平民は魔法を使う事は叶わぬとそれを試す機会すら与えていないだけではないか。
 可能性は存在しているのに己の権益を護る為にそれを根こそぎにしているだけであろう?」

「……そんなの、無理に決まってるじゃない」

必死に考えたであろう言葉は、言い訳にしか聞こえない。

想像もしていなかった事を言われているのだから、それも仕方が無いだろうがな。

「無理かもしれない、無理ではないかもしれない、誰も試した事など無いのだ。
 ありえないと確信する根拠など何処に存在する?」

「ッ、貴族の存在がその証明よ!!」

「ふむ、どうやら忘れているようだが政争や諸々の理由で野に下った貴族はそれこそ星の数ほどに居るだろう。
 私はこの世界の生まれではないので正確な時間はわからないが、少なくとも始祖ブリミルが存在したのが五千年前。
 それ以降、何百何千何万とメイジは貴族を辞して平民になったりしているのではないか?」

「……あ」

「血が濃い者も居れば薄い者も居るだろうが、血を遡って行けばメイジに行き当たらない家の方が珍しいのかもしれないぞ、今の世の中?」

早い話が、教育を受けているかいないか。

実際は自分にその可能性があるか無いかすら考えても居ないのがほとんどなのだ、試してみれば案外シエスタ辺りが強力なメイジだったりしたのかもしれない。

まぁ、試すつもりもなければ、試す必要も無いのだが。

「さて、何の意味も無い会話はここまでにして、そろそろ必要な事を伝えようか」

「な、何よ、意味の無い事って!?」

「ん、俺が魔法を使えない事は最初から理解していたし、潜在的メイジが世界中に溢れているなんて話にしたって貴族がそれを許さない以上はこの話には何の意味も無いと言う事だが?」

「う〜」

やりすぎたか、ルイズがちょっと拗ね始めた。

俺はこの表情も好きだから、拗ねられたらそれはそれで別に構わないが。

「それで何なのよ、必要な事って」

おお、耐えたか。

怒り云々よりも俺に対する胡散臭さが先に立ったのやもしれん。

「まずは使い魔としての能力である視覚と聴覚の共有だが、俺がルイズの見ているものを見、聞いているものを聞く事は出来るがその逆をする事は出来ない」

「じゃあ、今も出来るの、それ?」

「いいや、この機能が発動する条件はただ一つ、主の危機。
 それ以外の場面で発動する事は無いだろう」

「……役に立つの、それ?」

「当然役に立つ。
 ルイズが危機に陥れば、どれだけ離れた場所に居ようと君を救いに俺は現れる」

それがこの身に定められたモノであり、俺の想いだ。

まぁ、後半の方は不特定多数の人間に同じ想いが向けられて居たりもするのだが。

「次に使い魔の役割の一つである秘薬や術の触媒探しは可能かもしれないが避けた方が無難だ」

「無難って、どう言う意味よ?」

「一応俺にも薬草や魔法に用いる触媒についての知識はある。
 知識はあるが、俺に探させるくらいならば他のメイジや商店に頼む方が金も時間もかけずに済む」

「……わかった」

「それで使い魔のもう一つの、もっとも大切な役割である主を護る盾としての役割だが、これだけは絶対の自信を持って言える。
 私が居る限り、戦いの場でルイズが傷つく事はありえない」

「大口叩くわね、アンタも」

「これがただのビッグマウスかどうかはその内わかるだろう、絶対に裏切りはしないよ。
 っと、それはともかく、そろそろ食事に行かないか?」

「あ、そう、ね」

「私にも食事は出して貰えるのだろうね?」

「当たり前でしょ、使い魔を飢えさせるなんて貴族として恥よ、そんなの」

……俺の記憶にはルイズからまともに食事を与えられなくてシエスタにご馳走してもらったりした記憶がはっきりと残っているんだが、そんな事を言っても大丈夫なのか?

罰は必要なんだ、とか言っていたいたから、問題無いのかもしれないが。

「それと最後に一つ。
 戦闘でも無い限りは私はただの人間だからな、食事や寝床の世話をしてもらう以上は雑用の類は受け持とう」

「当然でしょ!!」

「承知した」

これでまた、最低限前回と同じ生活が約束された。

私の行い如何によってはあっさりと追い出されそうな気もするが。

問題はただ一つ。

前の時は確かシエスタが飯抜きで苦しんでる俺を見てまっとうな食事にありつけるようになったが、今回はルイズをからかったりするつもりは無い。

と、言う事は、飯抜きにされる事は無くなるだろうが、延々とあの硬いパン二切れと何か泣きたくなるような味の肉の切れ端がちょっと浮いてるスープの日々が続くのか?

それは流石に憂鬱なのだが、どうしたものか。






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