午前七時――四代目火影邸庭―― ……の、前に居間
「……はぁ、まさかあのナルトにあんな重い話があるとはなぁ」
誰に向けるともなくシカマルが呟いても、誰も答えない。
自身もそれなり以上に重い過去があるサスケでも、いやそんな過去があるからこそサスケは一言も発さずに黙り込んでいる。
木ノ葉丸は自分と同じ立場にある筈の『うずまきナルト』の境遇を聞いて、自分がどれだけ恵まれているのかを理解してしまい黙り込んでいる。
チョウジ、シノ、キバ、いの、ヒナタ、ハナビの名家と呼ばれる家に生まれ育った七人は他の家の子供よりも接点が多いその姿を思い描き、それと現実の、里の人達の対応を思い出し言葉も無い。
テンテンとサクラは改めて同じ学年になった時の事を、同じ班に決まった時の反応を思い返し、そして普段の言動や姿を思い返し黙り込む。
結果、口を開くのはシカマル一人。
「ま、別に良いか、本人が吹っ切れてるのに俺等が気にするだけ無駄だ無駄」
「ま、そりゃそうだ」
「ナルトが僕達を見る眼を変える訳じゃないし、僕達がナルトを見る眼を変える訳でもないんだから、ね」
「その通りだ」
サスケと木ノ葉丸を除く男四人はそれだけ言うと席を立つ。
まるで、男なら影でうだうだ言ってる暇があったら動いて本音を示してやるとでも言うかのように、しっかりとした足取りで居間を出て行く。
木ノ葉丸は居間を出て行く四人に一瞬だが羨ましそうな顔を向けたものの、考えがまとまらないのか行動に出る事が出来ずにそのままうつむいてしまう。
女の子達の反応はもっとわかり易く、顔も上げずにずっと下を向いて何かを考えている。
気軽に話してみせた先ほどの話がどれほどのモノか、街に流れる噂を、ナルトの姿を見る大人の冷たい眼を見た事があるのだから。
表で遊ぶ事もせずに家の中で修練を積んでいるハナビですら、それを聞き、目にした事がある。
そんな状態での生活が、まともなモノであるはずが無い。
想像も出来ない、想像した事も無い。
だからこそ罪悪感の様な不思議な感覚を余計に感じる。
……俺は何も気にしてないんだけどなぁ。
「で、何時まで観察してんだよ、ナルト?」
「ん〜、皆が飽きるまで?」
「飽きねぇとは思うけどな」
普通に声をかけてきたシカマルに答えながら、居間のすぐ上にある天井の梁に腰を下ろしたまま待つ。
俺が見るのはヒナタとハナビなんだから、先に行って待つのもここで待つのも同じだから。
盗み聞きは趣味が悪いとは思うけど、な。
「やっぱ、適当に流すつもりだったとは言え、話さない方が良かったと思うか?」
「……どんな関係にしろお前と付き合いがある以上いつかは知る事なんだからな、気にする事じゃねぇよ」
「そか」
あ〜、ヤバイなぁ。
こう言う事言われるの結構嬉しい。
何と言うか、シカマルはシカマルだって事がわかるから、嬉しい。
例え俺の行動のせいで以前と同じ結果にならなくても、皆の本質が変わらない事が嬉しい。
……いや、サスケには変わってもらうけどな、無理矢理にでも。
「でも、ま、とりあえず俺は待ってるから、先行っとけ」
「わかった」
軽い了解の声と共に、男連中はさっさと庭に出て行く。
ホントに、こう言う風に軽い応答をしてくれた方が俺としては気楽なんだけどなぁ。
「さて、皆は何時になったら庭に出てくるか」
シカマルは飽きないとか言ってたし、一時間くらい待って出てこなかったら呼びに入るしかない。
待つのは構わないけど、余計な事を考えさせちゃったのは失敗だったかね。
―― 一時間経過――
「……やば、ちょっと寝かけてた」
長い沈黙と微妙に差し込んでくる心地良い朝日、ついでに軽くとは言え玉藻のチャクラを使ったせいで多少なりとも疲れが出てるんだな。
「さて、中はどうなって……」
「ね、ね、ナルトに抱き付いてたけどどうしてなのかな、ハナビちゃん、ヒナタ、テンテン?」
「あ、それ気になる!!」
サクラといの暴走。
何を聞いてやがる、二人して。
「あ、あの、それは、その、私、は……」
「私は……何ででしょう?」
「私はアヤメさんに誘導されて気が付いたら、ね」
ヒナタはともかく、二人はそうだよなぁ。
テンテンは一応一年は一緒にアカデミーに通ったけどハナビとの接点なんて何一つ無いし、昨日のやりとりだけで俺に惚れるだのなんだのがありえる訳も無い。
別に好意を寄せられる様な事をした記憶も無いんだからな。
でも、だったら何で俺の膝の上で丸くなってたんだ、ハナビは?
ヒナタの行動を真似たって訳でもないだろうけど、犬だからか?
確かにハナビには子犬っぽい所もあったけど、別に昨日は俺以外にも人が、ヒアシさんとかも居たのに。
わからないな。
「ヒナタはもう言うまでもないけど、見てた限りだとハナビちゃんとテンテンもこれ以上ないってくらい幸せそうに見えたけど?」
やるなサクラ、ヒナタの事はもうわかってるからスルーしてそっちを追求するか。
にしても、逃げ損ねたな、木ノ葉丸とサスケ。
……サスケに関しては、俺が刺激したおかげで女の子らしくそう言う事に興味が湧いて来たって言うんだったら面白いんだが。
「べ、別に、そんな事は!?」
「だって、ハナビちゃん、うにゅうとかうにゃぁとか言ってたのよ?」
起きてたのか、いの?
熟睡してたと思ってたんだが、俺の目を欺いたのか。
凄いぞ、それ。
「そ、ちが、あの、え、ええと、あれは、あの、そ、そうです、酔っていたから覚えて居ません!!」
「じゃあ、酔って本音が出たって事?」
「ち、ちが、べつに、その、そう言う事じゃなくてですね。 えっと、ほら、あの……」
何故一緒に抱き付いてたテンテンが追い討ちをかけてるか。
いや、まぁ、確かにちょっと泣きそうな顔でわたわたしてるハナビはかわいいが、それで調子に乗ってるのか、皆して?
やりすぎたら暴れるぞ、ハナビは?
何時か壊れるとしても、昨日譲り受けたばかりの家を壊される訳にはいかない。
「何やってんだ、皆?」
「あ、ナルト」
「な、ナルトさん!?」
破壊活動を行ってもらう訳にはいかないからそ知らぬ顔で居間に入るとヒナタは真っ赤になって硬直し、サクラといのは最悪のタイミングだとでも思ったのか忌々しそうに舌打ちをし、ハナビは俺の名を叫んで何だかワタワタし、テンテンは何となく紅い顔でそっぽを向き、サスケはどことなく残念そうな顔をし、木ノ葉丸は助かったと安堵の息を漏らす。
……もうちょっと待った方が面白かったか?
「結構時間経ってんのに来ないから見に来たんだけど」
「ああ、うん、色々とあったのよ」
色々がどう言う流れでヒナタとハナビとテンテンをからかう方向に走るのか気になる所だが、まぁ、良い。
藪をつついて蛇を出す必要も無い。
具体的には暴走ハナビと言う名の蛇を。
だって、蛇は蛇でも大蛇クラスの蛇なんだから。
「まぁ、良くわかんないけど、修練始めよ」
「うん」
代表するようにサクラが答え、残りの面々も部屋を出る。
ちなみに、ヒナタとハナビの二人はサクラといのが引きずって行った。
それにしても、ヒナタもハナビも木登りすらやってないならそっからだよな、やっぱ。
誰かが見本見せてくれるだろう、きっと。
キバ辺りにオマエもやってみろとか言われそうな気もするが。
――四代目火影邸・庭――
「まだ庭はほとんど見なかったけど、凄いな、木」
「これでも一応は手入れはしてあるんじゃが、どうも木遁にチャレンジしたらしくてのぉ」
「……はは、流石は天才忍者」
目の前に広がる光景は何と言うか、密林とまでは行かないまでも明らかに街中に存在する一軒家の庭じゃないと断言出来る情景が広がっている。
具体的には、九尾の森とか禁忌の森とか呼ばれてる人の手の入ってない巨樹レベルの木がそこら中にはえている訳だ。
「樹海降誕か、俺もチャレンジしてみようかな、今度」
「……別に構わんが街中でやってはいかんぞ、四代目がやった時は近辺の家数件が潰れてしまったんじゃからな」
「了解」
やるな、父さん。
そんな事をやってたとは、予想外だったよ。
「とりあえず、この木のてっぺんまで登れたらある程度以上のチャクラコントロール技術とスタミナは手に入るだろうなぁ」
「……別にてっぺんまで登らんでも問題は無いと思うがの」
「まぁ、そりゃね」
視線の先では数m進んでは転げ落ちるキバと、何気にキバよりも上に登って見せる赤丸。
だるそうにしつつも一番上まで登っているシカマル。
次いでチョウジとシノがだいたい同じ所まで登ってる。
シノってチャクラの大半を虫に食わせてるから、キツイんじゃないか、これって?
……ま、シビさんが止めて無いから問題はないんだろうけど。
「と、言う事で皆も木登りにチャレンジ」
「って、どうやってよ!?」
「あ〜、簡単に言えば足にチャクラを纏ってそのチャクラを吸着って方向性に練り上げ、チャクラを維持して木に登る、以上」
本当はもっと細かく説明すべきなんだろうけど、カカシ先生から教わった時はそんな感じだったしなぁ。
詳細説明しろとか言われても、俺にもよくわからない。
「それで、これをやったらどうなるって言うのよ?」
「ん、第一にチャクラコントロールの技術が身に付いて、第二にスタミナが付く」
「チャクラコントロールって、私達だって普通に術を使えてるじゃない」
これにはサスケはもちろん、ヒナタ達も疑問を抱いてるらしい。
テンテンは何だかんだ言ってガイさんがしっかりと教えていただろうから、理解はしてるんだろう。
上忍のほとんどがこの修行について知ってたって事から考えて、基本的な事だからもう済ませてるはず。
青春大好きと言うか、熱血のあの人が手抜きする訳も無いしな。
「はっきり言って人に説明するの苦手だからわかりにくいだろうから詳しい事が聞きたかったらそこら辺に居る誰かに聞いてくれ、誰か答えてくれるだろうから」
力一杯適当だが、事実である以上それは仕方が無い。
いや、もう、子供が怯えるからとか言う理由で上忍になっても誰かの担当上忍には選ばれなかったからな。
ただでさえ苦手だったのに、上忍同士で話したり最低限忍術について理解している相手しか相手にしてなかったから、何も知らない人間相手に説明するのが妙に下手になったんだよ。
何時だったか、偶然知り合った下忍が俺に修行見てくれって言うから色々と教えてやってたら『……狐神様、難しくてわかんないよ』とかきっぱりはっきりと言われた。
その前後からその子の知り合いの下忍でもトップクラスの成績の持ち主だって子にも教えたりしてたんだが、その子からも『レベル高過ぎます』と言うお言葉を賜った。
あの時は人に教えるのも勉強になるんだなぁ、と改めて思ったな。
「え〜、あんたが説明しなさいよ」
「ん〜、じゃあ、説明するけど、わかり難いからな?
まず、術を使えるって言ってもそれは使えるだけで自分がどれくらいの量チャクラを練ってどれくらいの量放出しているのかとか、全部正確に把握してるか?」
「え、それは、最初はとにかく術を使うのに必死だったし、慣れてからは惰性、かな?」
まぁ、普通はそんな感じだろう。
基本的に下忍とかアカデミーで覚えるレベルの術って言ったら、何百回とか無茶な回数術を使いまくらなきゃチャクラが底を尽く訳が無いような忍術ばかりだから。
ただ、それで済むのは下忍、行っても中忍の中堅レベル辺りまでだ。
「例えば、そうだな……分身」
実践して見せるのが一番手っ取り早いだろ。
この間の二の舞にならないよう細心の注意を払い、一人分に満たない量チャクラを練り、分身を生み出す。
今回は、成功。
前の試験の時に出た謎の軟体動物らしき物体を生み出す事に成功した。
「と、まぁ、こんな風に分身の為に練り上げたチャクラの量をコントロールすれば、こんな謎の物体を生み出す事も出来る」
その場に居る誰もが顔を引きつらせて沈黙する中、ぷつりとかグチャグチャとか肉を裂き、その中を何かが這いずって居るような、そんなスプラッタな音が謎の物体から聞こえてくる。
具体的な数は七つ。
まさか、久しぶりにアレか?
アレが出てくるって言うのか?
「呼ばれなくてもとりあえず見ざ……カフッ!!」
「出て込んで良い!!」
謎の物体丸々吹き飛ばせる威力の螺旋丸で一閃。
……が、無傷の小人は普通に現れる。
チィッ、無駄に頑丈な!?
「だぁっ、何で今このタイミングで出てくる!?」
「ふはははっ、甘いの、主」
「そうそう、私達は出たいと思えば何時でも表に出る事が出来るのよ、主様」
「ふざけんな、玉藻ならともかく俺はお前らみたいなイキモノを取り込んだ覚えは無いぞ!?」
「あら、それならその玉藻が何か知ってるかもしれないから、本人に聞いて見たらどうかしら?」
……そうだな。
「おい、玉藻、説明しろ、説明!!」
『いや、主、我にもわからぬ』
本当か?
本当にわからんのか?
「信用は出来るが納得は出来ん、とりあえず出て来い」
『まてまてまて、主、落ち着け。
妾を呼び出して困るのは主であろうが!?』
「大丈夫!!」
『大丈夫な訳がなかろ……って、こら、ホントに止めぬか!?』
無視。
口寄せで出て来たらラッキー、出て来なきゃこの小人にやらせて見よう。
こいつらなら死人を蘇らせるとか言うシリアスな場面でなければ不可能も可能にして見せそうな気がするし。
「口寄せ!!」
まだ誰とも契約はしてないから、出るとしたら玉藻のはず。
「けええぇぇぇぇんん!!!!!」
「うるせぇ」
何故か出て来るなり俺に向けて前足を振り上げ、爪で切り裂こうとしてきた妖狐に玉藻のチャクラを篭めた拳を叩き込み黙らせる。
雄の狐にかける情けなんてないからな。
「ッチ、やっぱり普通に口寄せしただけじゃ無理か」
「……いや、成功はしておるぞ、主よ」
「おお、玉藻」
何時の間に出て来たんだ?
「じゃ、アレは何だ?」
さっき出て来た雄の妖狐は玉藻とは別に、そこでプルプルと震えながら怯えた目で俺を見てるんだが。
「ふむ、どうやら我と契約している状態であるが故に、我の眷属たる妖狐が呼び出されたのであろうな」
「なるほど、妖狐だから術者の意図に従わなかった、と」
「うむ、大蛇丸のマンタだかマンダだかと同じと言う事になるの」
納得した。
「とりあえず、オマエは帰れ」
邪魔だからさっさと妖狐を送り返し、ついでに持って行ってくれないかと手近な所に居た黒いのと紫のを投げつけて見る。
どうせ無駄……かと思ったら、予想外の事に消えた。
しかも投げつけたのだけじゃなくて、全部が。
「なんだったんだ、あの小人は」
「だから妾も知らぬと言っておる」
ダメだ、物凄く疲れた。
何だこの無駄な疲労感は?
「あ〜、えっと、うん、アレだ。
さっきの謎現象は俺にも解析不能だからとにかくスルーしてもらうとして、さっきの謎の生命体は一人に分身するのに足りない量にチャクラをコントロールした結果で、ほんの少しチャクラを足せばまともな分身が出来るんだ」
話は本筋に戻さないとな。
火影のじいちゃんを始めとした皆が玉藻を凝視したまま固まってるけど、それはそれ、気にしない方向で。
「ほんの少し足りなければ術として成り立たない、逆に多少多くても術は成立するが良くてチャクラの無駄遣い、悪くて術が暴走する」
「主よ、水面歩行の修練の話も混じって居るのではないか、それは?」
「……ま、気にするな。 木登りの行はそれの基礎って事なんだから」
そう、別に間違いではない。
はずだ。
「長期戦だったらほんの少しのチャクラの無駄が後々影響を及ぼしてくるから、それも無駄には出来ない」
「聞いては居らんだろう、この者達は」
大丈夫、最悪でもヒナタなら夢の世界に居ても俺の声を聞いてくれるはず。
いや、まぁ、未来での話だが。
「この木登りにはもう一つ意味があって、それはチャクラの維持にある」
でも、確かに誰も聞いてないなぁ。
「アカデミーの授業では分身する事が目的で、分身を用いて戦う事が目的で教えてる訳じゃない」
あ、何かやっと現実に帰ってきたのか火影のじいちゃんとか御意見番の二人とか、大人達が何気に戦闘態勢に移行しつつあるな。
この説明が終わるの待ってる理由、後で聞いてみよう。
「テンテンはやってるから知ってるだろうけど普通は術を使うのは戦闘中、まだ下忍に回される忍務で殺し合いとかはないだろうけど、殺し合いの最中にチャクラを練り、調節し、それを維持するって必要があるんだ。
けど、そんな状況下でのチャクラの調節や維持は難しい。
だから、それに近いとは言わないけど、“何か”をしながらそれらを鍛えるって言うのがこの木登りの修行の目的なんだ」
「ふむ、かなり大雑把と言うか、無駄に知識があるせいで色々と混ざっているように見受けられるが、主?」
「仕方ないだろ、この修行やったの随分と昔なんだから」
サスケが大蛇丸の所に走った中忍試験の後には色々とあったし、何よりも十八年以上前の話だ。
基本を忘れた訳じゃないけど、今皆に教えているのは基本の更に基本の段階。
基本だけで十段の階段があったとしてその十段をまとめて一段として覚えている俺が、その中から一段目と二段目を抽出して教えようとしているんだから多少混ざるのも仕方がないだろう。
「あ〜、ナルト。
その女性は、誰かの?」
「たぶん皆が予想してる通り、九尾の妖狐の玉藻」
やっとの事で一言聞いてきた火影のじいちゃんに即答する。
玉藻も妖狐としてのチャクラは抑えてるけど、隠そうとして隠せるものでもないしな。
それに、後々の事を考えるとここで玉藻の事を知られるのも悪くないかもしれない。
……具体的には白と再不斬と多由也を連れ込む時の事を考えたら。
って、もしかして、小人が出てきたのはこの為か?
準備が整って後は俺が動くだけって事になったから、小人達は消えたとか?
だとしたら、本気で何なんだ、あの小人どもは。
「危険は、無いのか?」
「それは俺が保障する」
「ならば、信じよう」
「火影様!?」
やっぱり、カカシ先生は反発するのか。
カカシ先生が父さんの事を師として大切に思ってくれているのは知っているし、それ以外の大切な人も玉藻に殺されているのは知っていた。
だから、これも仕方が無いのはわかっている。
それでも、これでカカシ先生が俺と距離を取るようになったり、玉藻と敵対するような事になったりしたら……嫌だ。
「美女を疑ってどうするんです!!」
「え、そこに反応するの!?」
「……あ〜、あのな、ナルト。
確かに九尾との戦いで俺の大切な人が何人も死んだ」
口調は軽いままなのに、目だけが違う。
冗談ではなく、本心を語っているのがわかる。
「だがな、俺は忍界大戦にも参加した。
その時も変わらず、もしかしたらそれよりももっと大勢の人が死んだんだ」
それは、知っている。
里の力がそれで弱体化したからこそ、そこを狙うように玉藻にちょっかい出した連中が裏でこそこそと動き回ったんだから。
復興の最中だったからこそ、玉藻に対する行動が遅れた。
言い換えれば、忍界大戦の時の他国に対する恨みつらみがそのまま玉藻に、俺に向けられて居たんだって事もわかっている。
「俺が、俺達が。 あの時の感情に、恨みつらみに従って動けばまた新たに忍界大戦が起きるかもしれない。
そうなれば人が死ぬ、それはお前達かもしれないし、俺かもしれないし、火影様かもしれない」
カカシ先生の言葉に、誰も動かない。
誰も口を開きはしない。
皆の言葉を代弁していると言うつもりもないだろうし本音とは違う部分もあると理解しているのだろうが、誰もそれを口にはしない。
「忍務が与えられればそれこそ俺達は昨日仲間を殺した敵と仲間になる事もあるし、昨日自分の命を救ってくれた相手を敵として殺すこともある。
忍と言うのは、そう言う職業だ」
それは、知っている。
忍務でかちあって他の里に出来た友人と殺しあった事もあるし、勿論殺した事もある。
それが大勢の護るべき者達を護る為に必要ならば躊躇わないし、それは仕方が無い事だと理解してもいる。
「俺は聖人君子なんかじゃないし殺人鬼やその類でもないから、殺された仲間達の事を忘れられるとは言えないし、命の恩人を殺す事に罪悪感を感じ無いとも言えない。
でも、それが出来なければ忍なんて仕事は出来ない」
「カカシ先生……」
「それが、今じゃ敵としてではなく、ナルトの家族のような存在としてここに居る以上、敵対なんて絶対にしないし、恨みつらみの感情だって消し去る事は出来なくても忘れる事は出来る……」
やばい、ちょっと、嬉しかったり色々と感情がごちゃごちゃになって、また泣きそうだ。
涙腺、弱くなってるのかな、俺?
「それに、なんてったって美女だからな!!」
「っだぁ!?」
感動的な話にわざわざ落ちを持ってこなくても良いのに、って、何で納得した顔で頷いてますか、火影のじいちゃんは?
「そうじゃな」
いや、しみじみとそんな事言われると困るんですが。
「……この場に居る者に問う、ワシの意見に反する者は居るか?」
誰も、肯定の意を唱える者は居ない。
カカシ先生の言葉で皆が最低限のラインでしかないかもしれないけど、納得はしてくれたんだろう。
「では、これ以降、玉藻殿の存在を秘匿せよ!!」
「「「「はっ!!」」」」
玉藻と俺を除いた全員が膝を付き、同意を示す。
俺の同期の皆にとっては九尾の妖狐の存在は御伽噺の様な存在だし、大人達はカカシ先生の言葉で無理にでも納得してくれたんだろう。
だからこそ、俺もこの里を見捨てられない。
この場に居る面々+αくらいに対してだけ当てはまる話だったりするんだけど、それでも。
「じゃ、皆が納得してくれたところで修行再開しようか」
答えはしたもののいまだほうけているヒナタ達にそう告げ、とりあえず手本を見せる為に木を登って行く。
……逃げたとか言わないように。
----------------------------------------------------------------------------------
あとがき
長いです、それはもう、激しく無駄に
下忍一同の反応は書かなきゃいけないと思っていましたし、小人出してないなぁとか思ってしまいましたし、ついでに玉藻の出番もないなぁとか考えてしまった結果、ここで出してみました
それと、カカシ先生がカッコイイ理由は簡単
好きなんです、あの人も
ナルトが嫌われてた理由って、昨日の敵との同盟とかに対する不満の捌け口って理由もあったのかもしれないなぁとか妄想してしまったのでこんな話に
色々とあって、手元にあった一〜二十八巻までのナルト原作を貸し出してしまったので、水面歩行の修練と木登りの修練が混ざってしまい思っていたよりもグダグダになっていますが、許してください
まぁ、これはこれでナルトは説明下手って事を表せるから良いかもしれないとか思っているので、そのままにしておくかもしれませんが
次回は下忍一同の修行風景を眺めながらの大人達+ナルトと玉藻の会話になるかもしれません
……木ノ葉丸は一人黙々と筋トレとかしてる予定だったりしますが
以下については、前回のあとがきと同じ理由挙げておきます
どう考えてもヒナタとハナビに螺旋丸って言うのは無茶云々の話しじゃないんですよね
柔拳使いなのでチャクラコントロールに関しては可能な気もしますが、チャクラの量ってどう考えてもナルトが下忍No1なんですから
そこを基準に考えれば常識からずれるのは当然って事で
結局今回は女の子達とサスケは修行に入りませんでしたが、次回やっとですよ……本筋から離れた所で話を長くしすぎました
何時か自サイトでも作ったら手直しするかもしれません……今の所そんな予定は一切ありませんが
さて、上でも言っていますがナルト原作を諸々の理由で知人に貸し出してしまったので、今手元にありません
そう言う訳ですので、ある程度進めた所で止まってしまうかもしれません(と、言うか現在停止中ですが
とりあえず、もう二〜三話は修行、日常、何故かデートとか、そんな感じでストーリーは流れる予定なので、どうにかなりますが、何人か口調が不安な人がいますので、後で口調に関して手直しするかもしれません
まぁ、とにかく、もうしばしのお付き合い、お願いします
……いえ、完結前に投げ出すとか、そう言う事じゃありませんからね?
それでは、今回はこれにて
前へ 戻る 次へ