第十話


「ホント、今日は雨が凄いっスねぇ」

「困っている人を助けるのは当然としても、今日は屋外の除霊が無くて助かったよ」

「そうですね、これでしたら除霊作業を終えたら風邪を引いていたなんて事になっていましたよ、きっと」

教会に駆け込んできた除霊を終えた横島達は、豪雨と言っても差し支えないレベルの雨が降りしきる窓の外を眺めながら、のんびりと紅茶の入ったカップを傾けながらそんな会話を交わしている。

ちなみに、鬼道が居ない理由は悠仁の言葉を無視して身体を壊しかねない修行を行った事が発覚し、一週間冥子の供として付き合う事と言い渡され実行している最中だからだ。

流石に黄泉路にはまだ踏み入れていないが、修行をするだけの余裕は残っていないらしく、一応骨休めにはなっている。

横島や唐巣神父は内心『精神的疲労は倍増してるんじゃ?』とか疑問に思っているが、女性陣がそう言うので素直に頷いている。

やはり、この世界でも男性陣より女性陣の方が強いらしい。

「……で、この壷、どうするんスか?」

「中々強力な霊力を放っているから調べてみたんだが、コレは『精霊ジンの壷』と言う品らしいんだ」

「精霊の壷と言うと、アラーの神に封じられて栓を開封した人間の願いを幾つか聞く、と言う品でしたよね」

横島の言葉にテーブルの中央に鎮座している壷に三人の視線が集中し、そんな言葉が交わされる。

(コレ、いつかのイフリートとか言うオッサンが封印されてるヤツだよな)

等と横島は一人平行世界での記憶を思い返していたりする。

ついでに

(……今回は、絶対に願いを叶えさせたる!!)

等と思っていたりするが、それが可能かどうかは不明だ。

美神令子の方が上手ではあったが、美神の助手になり始めた頃の横島よりは確実に上手だったのだから。

あの出来事から九年前後で横島がどれだけ成長したか、結果によってそれが良くわかる事だろう。

案外、唐巣神父が封印されたイフリートを哀れんで解放してしまう可能性が皆無と言う訳でもないが。

ちなみに、美神美智恵を始めとした母親三人の手により横島&鬼道改造計画はまだ発動されていない。

冥華が仲裁をして何とか会話が成り立ってはいるが、百合子と美智恵が会話の最中に舌戦を繰り広げ始めたりするから欠片ほども進展していないから。

それを知ったら横島と鬼道は助かったと思うか、成長の機会が失われたと悩むか、どちらだろうか?

閑話休題。

「ふむ、とりあえず邪悪な品では無いのは確実だと思うが、どうするかね?」

「願いが叶えられるかどうかはわかんないっスけど、俺は開けてみたいっス」

「私も、中身に興味があります」

「悠仁、も?」

「ええ、私も」

確実に何かを画策しているのは横島にも、もちろん唐巣神父にもわかっているが、止めても無駄だと思っているのか、止めようとはしない。

と、言うか、そもそも女性陣の行動を抑制する有効な手段が確立されていない今、止める手段などこの場に居る男達には無いのだから。

「こう言う物に封印されている人達は常套句として『アラーの契約』と言うんですけど、八割近くは性質の悪い行動をして罰として封印されているのがほとんどなんですよ」

「まぁ、確かに普通に考えたら契約交わしたからとか言ってこんなモンの中で何百年も閉じ込められたくは無いわな」

「そんな訳で、アラーとの契約を真摯に守って開封者の願いを叶える精霊となると一握り程度で、残りは自由になる為に願いを適当に流したりしてしまうんです」

「ふむ、確かにそう言う状況になったら人間も精霊も取る行動は似た様なモノだろうね」

((唐巣先生は間違いなく二割の方だな(ですね)))

等と弟子二人が考えているとは予想もせず、唐巣神父が真面目に呟いている。

「と、言う訳でちょっとルーンで細工を施しておきます」

そう告げて、ルーン文字が掘り込まれた石を素人目には適当に、知識のある者の目には結界を張る要領で壷の置かれたテーブルを中心に配置していく。

(文字の種類までは読めんかったけど、どうせ悠仁の事だからえげつない事するんだろうなぁ)

横島がこんな事を考えている事を悠仁が知ったら、事態の収拾など欠片ほども考えずに戦線をさらに悪化させていた事だろう。

いや、まぁ、今現在も事態の収拾を考えて行動しているのかと言うと首を傾げざるを得ないんだが。

「で、これはどんな類の結界なんだ?」

「おにぃさまと唐巣先生はローマの休日と言う映画を知っていますか?」

「私は見たけど、アレは良い映画だったね」

「俺も、一応見た事はある」

(恋愛映画とか、そんな感じの映画ってほとんど興味わかんかったからTVでやってたのをチラチラ見てただけだけどな)

その時は悠仁も一緒にTVを見ていたのだが、それを言葉に出さなかった理由は本気で良い映画だったと言っている唐巣神父の前で『恋愛映画なんて見てられるか』とか言ったら育毛剤事件の二の舞になりそうな予感がしたから避けたのだ。

霊能力者の勘は、霊力の無い人の勘とは違い的中率が桁外れに高いから。

ついでに言えば、横島のそう言う勘は哀れな事に美神令子と過ごした時間や、修羅場の経験から磨き上げられた勘だ、確実だろう。

「あの映画で、嘘をついている人が真実の口の中に手を入れると食いちぎられると言うくだりがあったじゃないですか」

「……いや、アレは抜けなくなるって言うだけのはずだよ?」

「まぁ、そんな事は良いんです、とにかく、それと似た様な効果を結界に持たせたら面白いかなぁと、作ってみました」

往年の映画好きにはそんな事で済まない話だが、一刀両断にされてしまった。

流石に許容出来なかったのか唐巣神父が口を開きかけるが、すぐにつぐんでしまう。

良く見なければ気付けないだろうが、悠仁が、少し拗ねているのがわかったから。

いくら六歳児に見えないほどに大人びていようと、普通に生きた人間が持ち得ない知識を大量に所有していようと恋する乙女、女の子なのだと、理解してしまったから。

多少、と言うか力一杯常識を無視した存在であっても、だ。

簡潔に言えば

『私もおにぃさまとあんなデートがしてみたいです』

と、言う事だったりするのが大人の唐巣神父にはわかったから、黙っておく事にしたのだ。

実際、横島の生活を考えれば二人で何処かに出かける等と言う事をした事が無いのは容易に想像出来るからこの予測は間違いではないだろう。

平日は友達との遊びを優先し、それ以外の時は唐巣神父の下で修行を重ねるか鬼道の相手、休日に強制的に休みを取らされる事もあるが、そんな時も修行を続けようとする横島を大樹や百合子、それに乙姫やナミコや令子そして悠仁が引きずりまわしてやっと修行よりも軽い休息を取る。

そんな生活を送っているのだ。

二人きりでデート等夢のまた夢なのだから、それがストーリーの大半を占めている映画の事を拗ねた口調で語ってもおかしくは無い。

内心、『ああ、乙姫様や悠仁君を制御するには忠夫君を出汁にすれば良いんだ』等と唐巣神父が考えていたりするのは絶対に秘密にしなければいけない事。

「具体的には、どんな風になるんだ?」

何故か、理由もわからず背中を伝う冷たい汗の感触に顔を引きつらせつつ問いかける横島。

どうやら、唐巣神父の思考が原因の冷や汗をこの結界の効果が原因だろうと勘違いしているらしい。

「千切れます」

「……は?」

「だから、嘘を言ったり、偶然ではなく故意に人の言葉を曲解して嘘を言ったりしたら、千切れるんです」

何が? と、問うような事はしない。

そう聞いたら物凄くイヤな答えが返ってきそうだから。

ただ、こちらが冷や汗の原因だと思ったのは横島の勘違いではなかったらしい。

唐巣神父の思考の方もまったく影響が無かったと言う訳ではないから、正確には両方が原因だった、と言う事のようだが。

「解け、そんな物騒な結界さっさと解け!!」

「え〜、でも、精霊の相手をするならこれくらいの準備は必要ですよ、おにぃさま」

「……わかった、わかったから、頼む、涙目で見上げるのは止めてくれ」

横島、どうやら両親の調教によって悠仁の――正確には女の子の、だが――涙目が弱点の一つに数えられるようになってしまったらしい。

この場合は、実際それぐらいやっておいた方が上手く願いを聞かせられると言うのも後押ししているようだが。

それを見て、ほぼ正確に横島の内心を読んだのか小さく舌を出しながら横島に気付かれないようにガッツポーズを取る悠仁。

そして、さらにその悠仁を見て『女の子は小さくても女なんだなぁ』等と考え、横島を憐れむ唐巣神父。

教会が精霊の血で塗れる事に関してはもう何か気にしない方向で行くらしい。

鬼道が居ないだけで、最近この教会でよく見られる光景だ。

偶然、悠仁のその仕草や姿を見てしまいファンになったとか言って教会の近辺に大きなお友達――犯罪者予備軍、もしくは犯罪者――の一部がカメラ片手に待ち構えていたり、教会のトイレにカメラを仕掛けたりと言う事件があったのだが、それは横島と、応援として呼ばれた大樹の手によって強制的に排除されていたりする。

その後、横島に会う為に折を見て教会に顔を出すようになった冥華、美智恵、百合子の三人の手によって何らかの処置が施されたりしていたらしいが、それは闇の中。

別の話がどうこう言う以前に知ってはいけない領域の話。

さわりの部分を聞いた横島と大樹が泣いて許しを請うたと聞けば内容は想像に難くないかもしれない……さわりの部分しか聞いていないので結局最終的にどうなったのかは三人しか知らないのだが。

まぁ、全てにそんな処置を施された訳じゃないと言うのだけが救いだろうか?

「じゃあ、唐巣先生、おにぃさま、私は結界の方を準備しますから、その栓を開けてしまってください」

「わかったよ」

「りょーかい」

苦笑を浮かべながら壷の中に居るのが真摯な精霊である事を祈りつつ唐巣神父は頷き、栓を抜くと同時に結界の事を教え『下手な事はするな』と説明しないといけなぁとちょっと神妙な顔をした横島が頷く。

そして、横島が壷を、唐巣神父が栓に手をかけて一息に栓を抜く。

『ボハハーッ、グブァ!?』

「五月蝿い」

とりあえず、大声で高笑いするイフリートをどつく横島。

言葉少なく何らかの願いと取れる言葉を選ばなかったのは前回の反省があるからだろう。

何だかんだ言って、精霊の願いと言うのは魅力的なのだ、やはり。

流石に、今は周囲の状況が状況なだけに全世界の美女なんて求めたりはしないが、それでも色々と欲望はあるらしい。

具体的には、自分に従順な悠仁とか、あり得ない未来を夢描いていたりするんだが。

「嘘、曲解、誤魔化し等を行った場合、ルーン文字の結界によって貴方はアラーの封印の上から更に封印を施される事になり、目覚めるにはアース神族系の魔族並にルーン文字に精通した者とイスラムの神族の協力を得ないと解ける事はありません」

『なッ!?』

「私達はそれほど難しい願いをお願いするつもりはありませんから、素直に私達の願いを叶える事をお勧めしますよ」

悠仁の言葉に慌て、周囲を見回して緻密な結界が張り巡らされており、アラーの神の力さえもその動力の一つとして組み込んであるらしく言っている言葉が冗談ではないと理解させられた。

何とかならないかと、憐れんだ目を向けてくる男二人に視線で助けを求めてみるが、最初から二人は憐れんだその視線で『諦めろ』と語っている。

助力を求めるのは不可能だと思ったのか、仕方なく願いを言って貰う為に悠仁に視線を向ける。

簡単な願いであると言う言葉を信じて、今はそれにすがるしかないと、理解してしまったから。

「先生から、どうぞ」

「え、私から、かい?」

「ええ、そうした方がおにぃさまも色々と考えられるでしょうから」

にこやかな笑顔で横島に牽制をしつつ、事実唐巣神父ならば無茶を言う事はないだろうと言う信頼を持って頷く。

なんだかんだ言って、唐巣神父の信頼は厚いのだ。

育毛剤関係でちょっと凄い事になりはするが。

「そうかい、なら、とりあえず君は後何人の願いを叶えれば自由になれるのか教えてもらえるかな?」

『む、それは……丁度、後三人だな』

「……ご都合主義ここに極まれり、って、まさか、あいつ等の干渉?」

唐巣神父の質問に少し考えてから嬉しそうに応えるイフリートを横目に、小声でブツブツと横島がキーやんとサッちゃんの干渉を予想しているが、実際は違う。

平行世界では美神の行動のおかげで流れていたが、本当はあの前後で封印が解けるはずだったのだ。

だと言うのにイフリートが『さっさと数をこなす』とか、適当に考えてあんな行動に出たばかりに封印からの開放が叶わなかっただけなのだ。

案外、監視役か何かが居てその行動を見ていたから、それの力で美神の前に現れたと言う可能性もある。

だが、今この場に居る誰もがそれに気付いていないのだから、そんなモノは存在しないのだろう。

それにしても唐巣神父、何気にアラーとの契約で本気で人の願いを叶えようとしている精霊ではなく、悪さをして決まった人数の人間の願いを叶えなければいけないのに適当にやっている精霊だと断定している気がするのは気のせいだろうか?

唐巣神父も、少しずつ歪み始めつつあるらしい。

「そうか、だったら私の願いだが。
 ふむ、そうだね。
 一つ、この教会の整備を手伝って欲しい。
 二つ、掃除も手伝って欲しい。
 三つ、もう悪事と分類される事は行わない事、良いかな?」

『……………そんな事で、良いのか?』

「君の力では全人類に幸福を、とか言っても無理だろう?」

『まぁ、それはそうだが』

「それなら人の集まるここを綺麗にして気持ちよく礼拝をしてほしいし、君が悪事を働かなくなれば私には十分だよ」

『そ、そうか』

歪み始めていても聖職者、本当は人類の平和とか幸福を願う気だったらしい。

まぁ、それを言う前に精霊から感じる力を見てそれが不可能だと察して別の、簡単な願いにしている辺りはさすがと言えるが。

「じゃあ、次はおにぃさま」

「むぅ、わかったけど、やっぱ唐巣先生の後だとな〜」

「だから、唐巣先生に先に願いを言ってもらったんです」

苦笑を浮かべる横島を、予想通りと少し嬉しそうに見る悠仁。

精神が幼くなっていたり、元々持ち合わせていた煩悩が少し強くなっていても、二十五歳の横島忠夫と言うのもその本質の一面だから。

そちらも少し刺激してやれば顔を出す事を理解しているのだ。

「じゃ、俺の一つ目の願いは先生の願いの一つ目と二つ目を半永久的に、と言うか、たまにここに顔出して手伝えって事だな」

『……うむ、それならば問題はない』

「二つ目は、先生とか俺の除霊の手伝いをたまにしてくれ、そんな面倒な事じゃないよな」

『相手によっては手出し出来なかったりする事もあるだろうが、了承した』

イフリート、かなり面倒くさそうだが現状が現状なだけに素直に了承する。

実際、手伝いと言ってもこの二人が苦労する様な相手にイフリートが役に立つのかと言うと疑問なのだが、囮ぐらいにはなるだろうと言うのが横島の感想だったりする。

……微妙に性質が悪い気がするが、美神令子の下で働いてきた横島らしいとも言える。

そう言う所はしっかりと受け継いでいるようだ。

「最後は、呼んだら可能な限り来い」

『それは召還契約を結ぶ、と言う事だな?』

「まぁ、そうなるな」

『……問題ない、可能な限りと言う制約があるのならば』

「じゃ、俺はその三つで」

「最後は、私ですね」

そして、天使の微笑を浮かべ、悠仁が口を開く。

「まず、むさ苦しいからその偽装は解いてください」

『なッ、何の事だ?』

「……壷に貴方の事が暗号文の形で書いてありますから、私は色々と理解して言っているんですよ?」

『む、し、しかし』

「なら、強制的に封印しますよ?」

『っぐ、わ、わかった』

無念そうな呟きと共に白煙がイフリートを包み込み、その姿を隠す。

会話を聞いていて、とことん嫌な予感がしていた横島は逃げ出そうとしていたが、どうやら悠仁はイフリートに対する結界とは別に脱出を遮る結界を張っていたようだ。

「どう言う事なんだい、悠仁君?」

「この壷の正式名称が書いてあったんです、ジンニヤーの壷、と」

「……ああ、なるほど」

【ジンニヤー】
女性のジン。
女である場合は大抵美人。

まぁ、そう言う事である。

「やっぱり教会ですし、シスターが居た方が若い男性の信者は喜ばれるでしょう?」

「は、はははははははは、はぁ」

悠仁の目的は、簡単に言えばそう言う事らしい。

自分やナミコ、令子、それに冥子に向けられる目線を別の方向に逸らすのが目的らしい。

それは横島や大樹達の負担を少しは軽くしようと言う考えがあったからで、横島が逃げる理由は欠片ほどもなかったりするのだが、嫌な予感→逃走とそこはもうある意味条件反射の領域だ。

仕方が無いだろう。

今までのイフリートの反応を見ていれば、横島が予想している事にはならないと簡単にわかるだろうがそれも仕方がない。

悠仁の“願い”はまだ二つ残っているのだから、油断は出来ない。

『願いの一つ目はこれで良いんですね?』

「ええ、結構です」

「ムスリムか」

「イスラーム関係ならしゃあないけど、声は綺麗になったんやから顔が見れんのは残念やなぁ」

(そう言えば、グーラーって力一杯露出してたけど、イスラーム的にアレって問題ないんか?)

等と横島が思いつつ言うと、ジンニヤーの何かのスイッチが入ったらしい。

『なッ、貴方はコーラン第二十四章三十一節『信者は…………(以下コーランについて十分ほど語りながら説教が続く)と、言う事です、わかりましたね!!』

要約すると、『女は貞淑たれ、母たる女に無意味にそう言った感情を抱くな』とかそんな事だった。

実際はそう言う訳でもないのだが、一度に語られたので理解力が追いつかなかったらしい。

唐巣神父は何となくで理解していた話を半強制的に理解させられて力尽きてテーブルの上にぐったりと倒れこんでいる。

ただ、その顔が何処となく満足気なのは、宗教人として他宗教の教えに感じ入る何かがあったからかもしれない。

「さっきも言ったけど、二つ目の願いはここでシスターをする事、問題はありませんね?」

『……別に良いですよ』

まだまだ余裕がありそうなのは語ったジンニヤーと、アラブ近辺の知識を多少なりとも持っている悠仁の二人だけで、倒れている男二人を無視してそんな会話を交わしている。

唐巣神父が元気だったらこう言ったかもしれない。

イスラームの人間がキリスト教の教会でシスターをやっても良いのか、と。

「最後の一つですけど、基本的に自由ですが貴女、向こうとこちらの往復等瞬時には行えませんよね?」

『まぁ、私の力では、ムリだ』

「なら、定期的に帰してあげますからこちらで用意した家で生活してもらいます」

「って、オイ、用意した家ってそんな金無いだろ」

その言葉に何かイヤな予感を感じたのか横島が口を挟む。

事実、そんな金は無いのだから。

用意する手段が無い訳ではないのだが。

「大丈夫ですよおにぃさま、六道家にお願いすればそれくらいどうとでもなりますよ」

「借り、また作るのか?」

「おにぃさまなら大丈夫」

「しかも、俺名義でかよ!!」

「……妹のちょっとしたワガママも許してくれないんですか、おにぃさま?」

「っぐぅ、くそっ、こんなんばっかやないかーーーー!!!

横島忠夫、自分の立ち位置は理解し諦めてはていても、やはり理不尽な事に対しては叫びながら逃げ出すくらいはしたいらしい。

精霊が解除は難しいと放置して唯々諾々と言葉に従わなければいけない様な結界を無意識にぶち壊したりしているが。

流石に泣きはしない。

……だから、目から流れているのは心の汗だ。

実は横島にはその提案に乗る必要はまったく持って無いのだが、そこはそれ。

妹が大切なのだ、おにーちゃんは。

正確に言えば、どれだけ幼児退行していたとしても中身は二十五歳。

年下のわがままぐらい受け入れてなんぼ、とか言う色々な意味で間違えた矜持を持ってしまっているのだ。

……それで言ったら、悠仁の中には比べるのも馬鹿らしいぐらいに年上の魔王様なのだが。

「と、言う訳で今日から貴女はジーニとでも名乗ってください」

『……彼は?』

「おにぃさまは大丈夫、強い人ですから」

『そ、そうですか』

イフリート改めジンニヤー改めジーニ、色々と気にしない方が精神衛生上には良い事だと理解したらしい。

順応力の高い精霊だ。

名付けに関しては契約の一種と取られてもおかしくはないが、願いと言うよりは契約を結んでいる様な関係なのだからそれも問題はないと判断したんだろう。

色々と諦めているだけかもしれないが。

「とりあえず、お茶でも飲むかい?」

『はい』

横島が居なくなっても誰も心配していないのは信用しているからだろうか、それとも慣れたからだろうか?

どちらにしろ、横島が哀れに見えて仕方がない。







「……おお、美人なねーちゃん」

「私にはジーニと言う名があります、ねーちゃんなどと呼ばないでください」

「あ、ああ、ゴメン」

時間は三日後、場所は教会前。

悠仁は学校で話があるとかで一緒ではないし唐巣神父は教会の中なのでこの場に居るのは横島とジーニのみ。

横島の服装は変わらない。

いや、流石に二十五歳の頃の感覚があるから前と同じ様に短パンTシャツって格好が恥ずかしくて十七歳の頃と同じジージャンとジーンズに変えていたりするが。

ついでと言うか、トレードマークのバンダナはやっぱり夏子から貰い受けて巻かれている。

さらにスルトとガブリエルから意図不明な猫耳と尻尾を渡されたが無言で返し『ボケないんだ』等と寂しそうに言われ、代わりに黒いリストバンドを受け取り、それが両手首にある。

まぁ、とにかく、それは今は関係ない。

問題は、ジーニだろう。

なんと言うか、服装も顔立ちも口調もどちらかと言うと清楚と言っても差し支えないのだが、雰囲気と目がそれを力一杯裏切っている。

何処か、妖艶なのだ。

わかりやすく言えば、シスターの格好をして夜のお店で働いているお姉さん。

しかも、十五〜六の女の子なのに軽く年ごまかして成人として働いているようにも見えるし。

簡潔に、かつストレートに言えば。

「……犯罪や」

「失礼な」

横島の失礼極まりない言葉に対する応えは短い、どうやら本人も自覚はしているらしい。

だからこそ、三日前は顔を見せたがらなかったのだろうが。

美人とストレートに言われ、迂遠にではあるが色っぽいと言われて顔を赤くする辺りは純情なんだろう。

未来で色々と半端に経験のある横島にはそそられるものがあるのか、横島の顔も真っ赤だ。

鼻血を噴出さなくなっただけ、成長したと言う事なのかもしれない。

平行世界の美神令子の所で働き始めた頃の横島なら仕草その他諸々で確実に鼻血を噴出していただろうが、乙姫とアシュタロスの件が終った後の生活で慣れたのか?

「とりあえず、もっとサイズの大きいシスターの服ってなかったの?」

「残念ながら」

「そか」

(ん〜、俺としては目の保養になるから良いか」

「……貴方は、私をなんだと思っているんです?」

「はッ、まさか声に出とったんか!?」

「はぁ、貴方とは、一度じっくりと話し合ってみる必要がありそうですね」

横島、どうやら煩悩関係の事は考えを口に出すのは直っていないらしい。

イフリート改めジーニ、自分は上半身裸で『ボハハハハハ』とか笑っていて、妻全員を平等に愛せるのならハーレムも問題ないと言ってのける宗派を信仰しているのにセクハラ関係には容赦ないらしい。

まぁ、その宗派の教えの中に母たる女性を尊ぶ等と言う一説もあるから間違いではないのだが。

とりあえず、横島忠夫。

将来周囲の女性陣が大人になった際、暴走を止めてくれるストッパーを得る。

暴力的な行動ではなく説教と言うある意味キツイ方法で止められる事になるが、美神令子のように暴力で止められないだけマシかもしれない。

その代わり、往時の超回復能力を持つ人狼すら驚愕させる回復能力(ボケ時のみ)は手に入らないかもしれないが。

……冥子のぷっつんにしょっちゅうまきこまれているから、前よりも回復力は増大している可能性も無い訳じゃなかったりするが。

ちなみに、悠仁は女の子達に周囲の怪しい人達の目が向かなくなるだろうと予測して教会のシスターとして取り込んだジーニだが、それとは別方向の怪しい人まで招き寄せ始めただけで事態は悪化の一途を辿り、横島、大樹、鬼道、唐巣神父の疲労が増大する結果につながる。

唯一の救いと言えば、風呂場やトイレにカメラが仕込まれている事に気付いたジーニがイフリート形態に変化して風呂に入るなどして盗撮者に致命的なダメージを与えた後に処理していたりしたので最終的には『唐巣教会の守護者達』の鉄槌から逃れた犯罪者達に壊滅的なダメージを与えていたが。

懲りずに再び立ち上がる者も居たが、本気でキレた『唐巣教会の守護者達』の手により徹底的に葬り去られたらしい。

その後、懲りない連中の姿が六道家所有の鉱山で見られたとか、そこで薔薇色の世界に目覚め俗世に戻って来たとか、大樹や横島、鬼道に唐巣神父が狙われるようになり修行で力尽きた横島が襲われかけて男性恐怖症に陥ったりもした。

まぁ、一時期とは言え男性恐怖症に陥りかけたせいで、結果として女性に対する煩悩が増大したり、それから救ってくれた鬼道や唐巣神父、大樹の真摯な優しさに本気で涙したのは別の話。




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あとがき


本編のエピソードを始めよう、とか思っていきなり女性陣が追加

いや、イフリートの事を調べていたら=『性悪のジン』と、でジンは=『ジニー、妖霊〜』と書いてあり、ではジニーと調べたら=『女のジン、本来はジンニヤー』とか書いてあったので、つい

最終的にはハーレムや修羅場に参加する事になるとは思いますが、グーラーの時みたいにいきなりどうこうって言う事はありません、きっと

とりあえず、乙姫、ナミコ、ジーニ、スルト、ガブリエルその他諸々オリキャラやら原作では恋愛感情を抱くシーンなんて欠片ほども無かった人達やらが恋愛感情を抱く過程を描くエピソードはしっかりと描こうと思っているので、観察してやってください

日常の延長で恋に落ちるとか言うのも普通だとは思いますが、それを恋愛感情だと気付くエピソードってやっぱりありますからねぇ

……無い場合もありますけど




以下は、NTにていただいた感想に対するレス返しです

精神年齢の低下はある意味ストレス解消もかねてるのかもしれません

だいたい十歳の秋頃で、アシュタロスの件が起きたのが十五年後の冬ですから、十五年と少しくらいですね、時間は

登場人物も、おキヌちゃんの洋服を織っていた人間の織姫とか、七夕の織姫とかの危険人物を幾らか排除出来るとは言え、女性の量がシャレになりません

……そう言えば、SSだと(有)椎名百貨店からの出向組みの氷雅さんって出番が多い気がします

この話は、どうしましょうか?

と、言うか、収拾つかない領域に突入するのは目に見えているんですから、無茶でもやりますけどね

本気でダメだと判断したら何か方法を考えましょう……殺すとかそう言うのは避ける方向で行くにしても、ハーレムの人員を減らすだけならどうとでもなりますから

グレートマザー達も、冥華さんを残して櫛の歯が抜け落ちる様に減ってしまうんですけどね……最終的には全員帰ってきますが

GS試験の年齢制限はわかりませんが、とりあえず十五〜六くらいからかなぁとか思っています

GS読者の一般見解みたいな感じで役立たず呼ばわりされたりしてるタイガー(精神感応能力者とか言う面から見たら一流なのかもしれませんが)が十七で受験してるんですから、才能があればその前後に受ける人は少なくないんじゃないかなぁと言う事で

美神みたいに二十歳には一人立ちしていれば研修って扱いで美神達を受け入れられると思いますよ、年齢差は五歳ですから、横島が二十歳の段階で十五歳

原作の横島と美神より年は離れてますからそこら辺は大丈夫だとは思いますが、美智恵さんの事もありますから唐巣神父の方に行くと思いますけどね

さて、時期的に既に西条が美神に弟子入りしていてもおかしくない年になっているんですが……横島や鬼道と絡ませるべきか、悩み所ですね

そんな感じで、また次回

でわ




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