第三話



翌日、午前十時から始まった三人の話し合いは太陽が中天を過ぎ去り、しばし時を経た後にやっと終りを告げた。

随分と時間がかかったが、別にこまと福太郎が何かごねた訳では無い。

ただ互いの世界の差異や注意点の説明などに時間を費やし、ついでに三人で昼食を取ったりしたからなのだが、三人の表情にそれなり以上の疲労が浮かんで居るのは仕方が無い事だろう。

例え似通った部分が数多存在するとは言え、まがりなりにも異なる世界から来た存在なのだから。

説明する側も、理解する側も多少の疲労を覚えるのは仕方が無い事。

「ふむ、これでこまちゃんは我が校の生徒で、田村君は我が校の美術教師じゃ。
 改めてよろしくお願いしようかの」

「こちらこそ」

「ヨロシクなのニャ!!」

そう告げる近衛老の手元には二人のサインが書き込まれ、捺印の押された書類が数枚。

今この時、この場にて二人が正式に麻帆良学園の関係者となった証がある。

「で、こまちゃんや」

「なんニャ?」

「唐突なんじゃが、これからは田村君の異母妹と名乗ってもらえんかの?」

「福ちゃんがおにーちゃんになるのニャ?」

「…………はい?」

近衛老唐突な提案に対するリアクションは二通り。

こまはちょっと驚いた程度なのか目をぱちくりとさせながらも何処か嬉しそうな笑顔を浮かべ、福太郎は固まり間抜けな声を漏らす。

「えっと、何でそんな事に?」

「いや、何と言うか、申し訳無いんじゃが。
 ぶっちゃけると、部屋が見つからんかったんじゃよ」

「いやいや、これだけ大きな街やったらオレと管理人ちゃんが暮らす部屋ぐらい見つかる……って、監視体制が維持出来る部屋、言う事ですか?」

「うむ、多少なりとも不安要素がある以上は監視付きで無ければ少々心配での」

学園長は福太郎の普通ならば隠すような事を否定もせずにあっさりと認めてしまう。

その実、そう答えると言う事は二人を信用していると言う事の裏返しでもあるのだが。

「それならしゃあないですな」

「仕方の無い事じゃ」

腹の探り合いなど不要だと言わんばかりの大雑把に過ぎるやりとりの間、一人こまが小さな声で何事か呟きながら照れたりごろごろと喉を鳴らしていたりするのだが、二人は気にしない事にしたらしい。

二人は乙女の思考に口を挟むのは御法度だと知っているから。

時折、『福ちゃんダメニャ、兄妹なんだから!?』とか言う色々な意味で危険な単語が聞き取れるからなんて理由では間違っても無い。

「で、仕事の事なんじゃが、田村君には美術教師としての仕事の他に三つばかり頼みたいんじゃ」

「……先生やるからにはそれなりに仕事もあるやろうけど、他に三つですか」

「うむ、一つは麻帆良学園本校女子中等学校美術部の副顧問」

「それくらいやったら、授業やるのとそないに変わりはなさそうですし」

「いや、すまんな。
 顧問の先生が魔法使いで、そっちの関係で世界中を飛び回っとるから普段は高等部の美術教師やらが代理を勤めて居るんじゃが、その先生達にしても他の部の顧問を掛け持ちしておってな」

「学園都市なんて名を関する学校ですし、部活も多いんでしょうな」

それに関してはそんな簡単なやりとりで決定してしまう。

雇い主の理不尽とは言えぬ要求なのだから、受け入れるのは当然の事なのだが。

「二つ目はあるクラスの副担任」

「副担任って、これだけ大きな都市なんやし、それぐらいオレやなくてもどうにかならないんですか?」

「それがのぉ、そのクラスは魔法関連を含めて色々と事情がある生徒が集まっとってな、何も知らぬ者に任せる訳にもいかぬし、担任も魔法使いの試験として教師をやっとるから他の魔法使いの協力を与える訳にもいかんのじゃ」

「あ〜、だから裏の事情を多少なりとも知っていて、でも力の無いオレが、言う選択になるんですね?」

「うむ、魔法関係の事に関しては近い内に先に言った美術部の顧問と担任に引き合わせるからその時にでも改めて説明しよう」

多少面倒に巻き込まれる可能性が存在しているとは言え、教師である以上は副担任と言うのも普通に与えられる仕事である。

顧問だの副顧問だのと言う多少なりとも個人の意図で受ける受けないを選べるそれとは違い、雇い主からの指示である以上は断ると言う選択肢も存在しない。

「それで最後の三つ目なんじゃが、麻帆良中等部女子寮の常駐管理人の仕事を任せたいんじゃ」

「……はい?」

「いや、君等二人の監視役の者がそこの住人でな?
 女子寮に男性教諭を住まわせるには理由が必要じゃし、ついでに言えば常駐の管理人が居た方が便利じゃからな」

「あ〜、選択権は無さそうですね」

「うむ、これに関しては無いの」

「……はぁ、謹んでお受けします」

元より勝者の決まっているやりとり故に、当然と言えば当然の結果として福太郎は項垂れて敗北宣言をする。

言うだけならタダだし、ちょっと言ってみようと思った程度の理由で口にしたのだから、別に敗北した訳でもないのだが。

予定調和のようなやりとりが終わると、近衛老は懐から白い封筒を取り出して二人の前に置く。

「えっと、これは?」

「何、田村君達は着の身着のままなんじゃろう?
 流石に教師をするのにその格好のままと言う訳にもいかんし、それ以外にも日用品は必要じゃろう。
 更に言えば美術教師をするのに自分の絵筆も何も無いと言うのは流石に、のう?」

「なるほど、支度金、言う事ですね?」

「そう言う事じゃ」

「それじゃあ、ありがたく」

封筒を受け取りコートの内ポケットに入れ立ち上がったところで、固まる。

見送ろうとした近衛老も同様に……いや、近衛老は苦笑を浮かべているが。

二人の視線の先、一匹の猫が何だか可愛らしく頬を染めながら身をくねらせ、放送禁止用語を連発していたりした。




猫が現実に帰ってきたのは三十分後だったらしい。







麻帆良学園女子中等部は混乱していた。

具体的に何がどうなって混乱しているかと言えば、黒一色の服で身を固めた身長百八十センチ前後ある長身の男が猫耳猫グローブ猫尻尾大きな鈴の付いた首輪と言うマニアック過ぎる装備で身を固めた着物姿の女の子――しかも小学生ぐらい――を引き連れているのだ。

常識的に考えて、パニックにならない方がおかしい。

「注目の的やな、オレ等」

「おにーちゃんは犯罪者で私は犯罪者の奴隷にされた可哀想な女の子らしいのニャ」

男――福太郎――はその言葉に遠い目をして懐から煙草を取り出し、一緒に取り出したジッポで火をつけ肺に紫煙を送り込む。

落ち着くため、と言うよりも現実逃避目的で吸ってるように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。

「……桜咲さんて何年何組言うてたっけ?」

「私も覚えてないのニャ」

「そか……どないしよ」

そんな事を言いながらも欠片ほども困ったように見えない理由は、現状既にどうしようも無いぐらいに危険な噂が広まりつつある事をシャッター音と共に認識しているからだろう。

具体的に情報源になりそうなのは二人の周りをグルグルと回りながら写真を何枚も撮り、時折レコーダーに何か拭き込んだりしている髪の毛をアップにした報道とか書かれた腕章付けてる高校生ぐらいの女の子か。

制服を見る限りでは中学生なのかもしれないが、中身が少々成長し過ぎにも見える女の子で、とにかくその好奇心に満ち溢れた目を見た瞬間、福太郎は諦観の念と共に煙草の煙を深々と吐き出していた。

「で、学校新聞かなんかに載せるつもりなんやろうけど、見出しは?」

「ん〜、【直撃、真昼に現れた調教師の語る鬼畜な世界!?】とか?」

見出しからしてどう考えても学校新聞に載せられる内容にはなりそうにないのだが、シャッターを押し続ける少女は気にしないで行くつもりらしい。

もし仮に福太郎がホンモノの犯罪者であれば冗談ではすまないような事をさらっと答えている辺り、直感的に福太郎がそう言う人間では無いと見て取ったのか、それともカメラのファインダーを間に挟む事によって何処か現実離れした感覚を抱いているからこその暴走か。

「ふぅ、こんなもんかな?」

「あ〜、満足したん?」

「もう少しお兄さんが鬼畜っぽい顔してくれれば完璧だったんですけどね」

「無理やって、そんなんは」

苦笑交じりながらも笑顔でそんな会話を交わす二人に奇異の視線が集まるが、視線の中心に居る面々が普通で無いのだから問題は無い。

飽きてきたのか眠そうに欠伸をしているこまに、諦めの境地とでも言うべきか何か悟ったような表情で煙草を吹かす福太郎。

そして最後の少女は腕に付けられた報道と言う腕章やその行動からして、ジャーナリストやレポーターと呼ばれる職を目指しているのだろう。

話題の中心に立つ事に、正確には人から注目される場に立つ事に慣れているらしい。

正確には中心に近い位置に立つ事に慣れているのであって、今回のように話題の中心に立つのは微妙に違うのだろうが。

自覚が無い以上は、そんな微妙な差など関係無い。

「で、ホントにおにーさん達、そう言う関係?」

「あ〜、これは、こまの趣味」

「私の趣味ニャ」

「じゃあ、二人の関係は?」

二人とも真顔でかなりの無茶を口にしているのだが、そこは世界樹と呼ばれる大樹をシンボルとしている麻帆良学園の生徒。

直感ではあろうが、その言葉を疑うつもりは無いらしい。

ちなみに、二人ともウソはついていない。

猫神、猫又などと呼ばれるこまの本当の姿はその名の通り猫。

先日の学園長との会話でも言っていたが、人の姿を取るのは容易い事では無いのに人間の少女の姿をしている理由はただ一つ。

そうありたいから。

人に憧れているから。

故に、二人の言葉に偽りは無い。

「ん、異母兄妹」

「あ〜、冗談、ですか?」

「いやいや、ホンマやって」

本音混じりの先とは違いウソだと判断したのか即座に切り替えして来た少女に対し、外見上は苦笑交じりに、内面は冷や汗ダラダラで即答する。

報道の腕章は伊達ではないようだ。

「へぇ、じゃあ……名前は?
 あ、ちなみに私は朝倉和美ね」

「オレは田村福太郎」

「竜造寺こまニャ」

あからさまに苗字が異なるのを聞いた瞬間、朝倉の口から言葉が漏れかけるが自制して言葉を飲み込む。

異母兄妹で名が違うと言うのはそう珍しい事では無いと、学生新聞であろうとも報道に関わる身としては知っているから。

仮に真実であった場合、どうしようもなく失礼な事だと理解しているから。

加えて言えば、ここで下手に追求するよりもあらゆる角度から情報を収集した後、改めて質問をぶつけた方が効果的だと理解しているから。

少し冷静に考えれば、まず最初に異母兄妹と名乗る事は無いとわかるようなものなのだがそこまでは頭が回らなかったらしい。

優秀なんだか抜けているんだか。

「そ、それよりも、三年生の桜咲刹那、言う子知らんかな?」

「へ、桜咲刹那、ですか?」

「ん、髪の毛をこう、左側で纏めたサイドテール言うんかな?
 そう言う感じで纏めた百五十センチくらいの女の子なんやけど」

その説明に、朝倉の瞳が輝く。

朝倉は、福太郎の言う刹那を知っているから。

親友だのと名乗れるほどに付き合いは深くなくとも、クラスメイトして三年も付き合っていれば多少なりとも人となりは見てとれるもの。

まして報道部の突撃班などと言う部署に所属し、スクープと言える記事からただのゴシップまで手広く扱ってきた経験があるのだ。

桜咲刹那が人と距離を撮りたがっており、更には色恋沙汰に疎い、もしくは興味を持って居ないと言う事ぐらいは見て取れる。

その刹那を、男が尋ねて来た。

自分も属しているので少々面映いが、3-Aは美少女揃いのクラス。

故にそのスナップ一枚一枚がアイドルのブロマイドの如く……場合によってはそれ以上の値で出回って居るから刹那の名と背格好は容易く知る事が出来る。

が、そのスナップを購入しているのならば学年だけでなくクラスは勿論、何部に所属しているかぐらいは知っていて当然。

確かに桜咲刹那と言う姓名は珍しいモノではあるが、約750名にも上るクラスの中には同姓同名の者も探せば一人ぐらい居る可能性がある上、時間的に考えれば部活に顔を出していると判断して道場に向かえば良いのにその事にも気付いていないのだ。

それが示すのは即ち、福太郎はスナップの購入者では無く桜咲刹那と個人的な知り合いであると言う事。

関西弁を話しているところから同郷、もしくは麻帆良に来る前の知人かもしれない、と言う事。

男の影が微塵も見えない桜咲刹那を同郷“らしき”人間が尋ねてきた。

多少頼りなさそうに見えるがそう格好悪いとか、気持ち悪いとか言う事も無く。

ただ猫耳美少女なんて言う特殊過ぎるほどに特殊なオプションを連れ、そのオプションを異母妹だと宣言したりしてる妖しさ満点の男が、だ。

匂いがする。

スクープと呼べるほどのそれかどうかはわからない。

わからないが、ネタがここに存在していると。

報道部突撃班で培ってきた勘が告げている。

「知ってますよ」

だから頭に浮かんで居るスクープ云々の事は隠してにこやかに、そう告げる。

取材を続け、情報を得る為に朝倉に残された手段は大まかに三つある。

一つ目はここでカマをかけ続けて情報を小出しにでも引っ張り出し続ける事。

二つ目はあっさりと刹那の情報を引き渡して尾行する事。

三つ目は有無を言わさずに同行する事。

それぞれに問題点がある。

一つ目は情報が出揃って居ない今それをしても望んだ情報を得られる可能性は低く、逆に警戒されて情報が引き出し難くなるかもしれない。

二つ目は刹那達の眼を誤魔化しての尾行だが、難易度が異様に高い。

更に言えば、妙に鋭い刹那に気付かれない距離からの尾行となると距離を取らねばけない以上、会話を全て正確に聞き取れない可能性もある。

不正確な情報しか得られない上に、これからの取材活動に支障をきたす可能性が高いとなると下手な行動に出る訳にもいかない。

現状選択師として一番良いのは三番目だ。

話題の輪の中に入るのはジャーナリストとしての中立を保ち難いが、それでも情報量は段違い。

ならば、悩むまでもない。

「案内してあげますから、一緒に行きましょう」

「や、別に場所だけ教えてもらえたらええんやけど」

「ここ、無駄に校舎広いですよ?」

朝倉が指差した先に存在するのは校舎。

一学年24クラス。

学年によっては多少は存在すれども最低でも70の教室が存在し、更にはそれぞれの特別教室や職員室を合わせれば尋常じゃない数がそこには存在している。

「……無理やな」

「絶対に無理ニャ」

「そう言う事です」

そこから特定の生徒が居る教室を指定されただけで探し当てるなど当然出来る訳も無く、二人は素直に頭を下げてお願いする事となった。

朝倉和美、勝利の瞬間である。







そこは、静謐な空気に包まれていた。

向き会うは二人の剣士。

……ではなく、防具で正確にはわからないがおそらくは高校生らしき男と、女の子。

本来であれば試合どころか練習になどならないであろうほどの明らかなリーチの差があると言うのに、そこにあるのは厳然たる実力差。

リーチも短く、防具の上からでも華奢とわかるその小さな体躯。

だと言うのに、見る者達にその実力差を見せ付けている。

圧倒的に不利な状況にあると言うのに女の子が圧倒的な強者であると、その場の支配者であると見るものに告げている。

「ッぁぁぁあああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

雄叫びと言うべきか、悲鳴と言うべきか。

支配者の存在に抗するような声を上げ、男が走る。

男もまたしっかりと修練を積んでいるのだろう。

獣の如き雄叫びを上げながらも足運びに迷いは無く、持てる力の全てを持って一撃を為そうとし。

少女は声も、衣擦れの音すら立てる事なく、柳の如くその横を擦り抜ける。

そして、遅れるようにして響く、竹刀が胴を切り抜けた事を示す硬音。

「一本ッ!!」

審判を勤めた教師が手を真上に掲げ、告げると同時に歓声が湧き上がる。

「いやはや、凄いんやなぁ、桜咲さんて」

「ホントに、凄いのニャ」

関心したように呟きはするが、賛美こそあれどそこに他の生徒や教師達の如く畏怖の念は無い。

まるで、この程度では驚く事は無いとでも言わんばかりに。

「余り驚かれないんですね」

「ん、いや、あの年の子がこれだけ強いんやから、驚いてはおるけど?」

「これだけ強い子なんて滅多に居ないのニャ」

二人の言葉に偽りは無い。

ただ、二人はこちらの世界では妖怪や悪魔や魔法が隠匿され、その中でも悪事を働く存在は魔法使いや退魔師が処理していると聞いていたのだ。

言い換えれば、それに関わらない限り命懸けの戦い等とは無縁で居られる平和な世界と言う事。

その中で、中学生の女の子が剣道のそれではなく、敵を討ち滅ぼす為の動きを見せたのだから。

福太郎は戦う技能を身に付けている訳では無いし、戦う術を持つこまにしても基本的には爪や牙を用いて戦うタイプだからはっきりとわかっている訳では無い。

が、それでも、命懸けの殺し合いが街中で突発的に起きたりするような世界に暮らしていた二人にとって、その太刀の在り方が相対していた少年や、先までこの場で稽古を続けていた面々とは異なると言う事ぐらいは理解出来る。

理解出来るから、驚いた。

それでも朝倉の目から見たら二人の驚きは薄いように見受けられるのはもっと簡単だ。

二人の暮らしていた世界では、それが普通だったから。

福太郎のように戦闘能力など持ち合わせずに絵を描いたりして生活する者も居るが、戦い敵を討ち滅ぼす術を持ち、実際にそれを振るう者が普通に居る世界だったから。

簡単に言えば、銃が普通に出回っている国に暮らしていた人間が、銃が一部を除き出回っていない国に来て銃の扱いの上手い人間を見せられた、と言う事。

その技量と、出回って居ないはずの銃を持っていると言う事実に多少の驚きを覚えこそすれ、それだけの事でしかない。

「まぁ、そないな事より、桜咲さんはこれで今日は終いみたいやな」

「あ、はい、桜咲さんってしっかりと部活には参加するんだけど途中で切り上げちゃうんですよね、何故か」

「ふ〜ん、ま、そう言う事もあるやろ。
 ……って、桜咲さんがこっちに気付いたみたいやな」

答えながらも訝しげに首を傾げる朝倉に、昨夜の不法侵入者撃退みたいな事をやってるからだろうなぁ、等と思い浮かべながらも適当な答えを返し、こちらに気付いたらしい刹那に向かって手招きをする。

福太郎達の隣に立つ朝倉の姿に一瞬首を傾げながらも素直に歩み寄って行く辺り、3-Aに毒されきっていないと言うべきかもしれない。

朝倉がどう言う人間か考えれば、この場に居るのも何かネタになる事があると判断されたからだと想像がつくはずなのに。

「田村さんにこまさん、それに朝倉さんも……どうなさったんですか?」

「いや、オレらこっちに来たばっかで服の一着も無いから買い揃えなって事になったんやけど、地理に疎いから桜咲さんに道案内お願い出来んかなぁ、思って」

「私は二人が桜咲さんを探してるって言うから、ここまでの道案内ね」

「買い物の案内、ですか」

福太郎のお願いに、思案気な表情を浮かべ考え出す。

当然と言えば当然だろう。

用事があるから部活を早めに切り上げているのだ、そこにいきなり現れて買い物に付き合えと言われて即座に付き合える訳も無い。

「ダメなのニャ?」

「え、いえ、その、別にそう言う訳では無いんですが、あの……」

が、刹那には福太郎達の選択肢を奪い、麻帆良に住まう事を強制させる事になった要因が自分だと言う罪悪感がある。

二人にとってはちょっと不便があるかもしれない程度の事なのだが、選択の有無を奪い去り強制をしている、と言う時点で思考が停止してそこまでは想像がつかないらしい。

ちなみにどれくらいの罪悪感に苛まれているかと言うと、ただ普通に見上げて視線を合わせ問うているだけのこまの視線と声に『自分がここまで連れてきた癖に、この状況を生み出した癖に、勝手にしろって言う気なのニャ?』などと言うあり得ない非難や糾弾を己が身の内で勝手に再現されるぐらいに、だ。

「……わ、かりました、御案内します」

「え、いや、そんな、ええんか?」

「大丈夫です、構いません!!」

「桜咲さんがそれで良い、言うんやったらええねんけど……」

「本当に、大丈夫ですから、急いで着替えて来ますので、少々お待ちください」

福太郎は何か用事があるのだろうから構わないと告げる前に慌しく告げ、走り去って行く。

その様は、普段の冷静と言うのとは違う、周囲から何処か距離を取った様子からは想像もつかないほどに普通の少女の如き姿で、練習直後故に紅潮した頬はまるで憧れの人からデートに誘われたかのようで、見る者達にいらぬ想像を掻き立てさせる。




「…………もしかして、マジでスクープゲット?」

少なくとも、麻帆良新聞報道部突撃班所属。

通称『麻帆良パパラッチ』のスイッチが入る程度にはそう“見えた”のだ。




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あとがき


ホントは買い物に行って次話で3-Aへ〜、とか考えてたんですが、少々長引きました

と、言う事で次回はお買い物です

お楽しみいただければ幸いです

では、これにて失礼




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