拝啓、おじいさん、おばあさん。

御元気ですか?

早いもので【足洗邸】に住むようになってもう一年ホドになります。

足洗邸での生活は疲れるけどそれ以上に楽しくて、思いの外長くお世話になっています。

まぁ、それはともかく。

足洗邸は現在襲撃を受けてる真っ最中のはずが、何故か今ボクはとても良い空気の中、森の中を管理人さんと一緒に歩いています。

何がどうなったのか一切不明ですが、管理人さんにも何処かはわからない森の中を、管理人さん曰く街か何かがあるらしい方向へ向かって歩いています。

猫の勘と言う事で押し切られましたが、時折力一杯不安そうな目でこちらを見上げてくるのが不安を誘って仕方がありません。

本当に、足洗邸は不思議が一杯です。

……ここが足洗邸と関係があるのかどうかはわかりませんが。






「なぁ、管理人ちゃん、こない静かな夜も珍しいなぁ」

「ん〜、確かにそうかもしれないニャ」

世闇に包まれた森の中、二人の青年と少女がのんびりと言葉を交わしながら進んで行く。

青年は黒いタートルネックのセーターに迷彩柄のズボンをはき、その上から黒いコートを羽織り、ブーツで草を踏みしめながら進んで行く。

その姿に違和は無い。

多少森の奥深いこの場には軽装に過ぎるように見えるかもしれないが、その程度の事。

普通では無いのは、少女の方だろう。

順に上げて行けば、多過ぎる問題点も明確になる。

十代前半かそこらの幼い容姿は、別に問題は無い。

服装は少し変形ではあるもののまだ常識的な範囲無いに収まるであろう若草色の着物を着て、その上にはエプロン。

足元がブーツなのは、森の中を歩いている事を考えればおかしくは無いだろう。

次から上げるモノは問題点のオンパレードと言うべきだろう。

まず、頭の上からピョコンと飛び出して落ち着きなく周囲に向けられる俗に言う猫耳。

着物の裾からピョコンと飛び出している七本の尻尾。

その手を包むサイズが大き過ぎるにくきゅうグローブ。

そして、首に巻かれた大きな鈴の付いた首輪。

この状況を見たら、十人が十人警察にこう通報する事だろう。

【子供に凄まじくマニアックなコスプレさせて森の中に連れ込んでる変質者が居ます!!】

と。

だが、それは一般人の対応でしかない。

もし二人の姿を見たのが退魔を生業とする者であるのならば、危険人物と判断するだろう。

「止まりなさい」

このように。

少女特有のまだ幼さの残る静止の声に、即座に青年と少女の動きが止まる。

明らかに飾りではないその耳ははっきりと声の主の位置を割り出したのかその人物が居るであろう方向に向けられ、何処か冗談めいたそのにくきゅうぐろーぶからは鋭い爪が飛び出し、猫のように瞳孔が縦に開く。

即座に、少女のそれが飾りでは無い事を。

少女が人では無い事を露にする。

「え、管理人ちゃん?」

「福ちゃん、気を付けるのニャ」

深い森の奥、唐突に女の子から声をかけられると言う状況が既に異常なのだから、多少なりとも身構えるのが普通。

だと言うのに、言葉に従い動きを止めはしたものの、青年は隣の少女とは正反対に変わらずのんびりと立っている。

そんな青年の無防備さとは裏腹に、場には緊張が満ちて行く。

「ここから先は麻帆良学園都市の敷地です、それ以上向かうのならば外敵として。
 ……排除します」

殺気混じりの警告に、異形の少女の警戒が緩む。

青年達にしてみれば道に迷っていたところで、知らず迷い込んだ土地の警備員が見つけてくれた、と言う認識なのだから。

敵意を示す必要は無いのだ。

「ん〜、別にオレらは家に帰りたいだけやからその麻帆良やったか、そこに行く必要は無いんやけど」

声の主の言葉に答えたのは青年。

何処かやる気のなさそうな言葉に、声の主は殺気を押さえはしても警戒は解かずに行動を待つ。

「それでなんやけどな、人里ってどっち行ったら良いんか教えてくれんかな?」

「は?」

「いや、オレら気が付いたらここに居ててな、帰るに帰られなくて困ってたところでな」

「……わかりました。
 最寄の国道まで案内します」

気軽な調子で遭難したと告げる男に声の主は呆れたと言う調子を滲ませながら、樹上から一人の少女が飛び降りて来る。

ふわりと、まるで体重が無いかの如くに降り立ったのは少女。

学校の制服らしきチェックのスカートに白いブラウス。

その上にベストを着ており、きっちりとネクタイも締めているところを見ると真面目な学生なのであろう。

髪の毛をサイドで纏めた凛々しい顔立ちの少女。

その手に頂戴な朱塗りの鞘に納められた太刀を持つ事と、月の高さからして深夜なのだろうが、そんな時間帯にこんな森深くに入ると言う事を除けば凛々しい顔立ちをした少女でしかない。

だからこその、違和。

今は呆れが混ざっているのか多少揺らいでは居るが、未だ放たれている敵意や殺気がこの少女の異常を明確にする。

青年も異形の少女も、その異常を欠片ほども気にはしていないのだが。

「それでは案内しますから、そちらの猫又を送還していただけますか?」

「……送還って、管理人ちゃんは大召喚でこっちに来た口だから、オレが召喚したんと違うケド?」

「そもそも福ちゃんは普通の絵を描く人だから召喚とか召還なんて出来ないニャ」

二人揃っての否定に少女は戸惑いを浮かべ、振り返る。

「それでは、どうやってこれほど高位の妖怪を。
 ……いえ、それ以前に大召喚とは?」

「へ? 大召喚が何て、二十年前に世界中で悪魔や妖怪が魔界やら異界ごと召還された大召喚。
 キミぐらいの年やったら生まれる前の話やろうけど、知らないなんて事は無いやろ?」

「いえ、そんな大事件が起きたなんて話は聞いた事がありませんが」

本気の戸惑いの目線を向けられ、青年と異形の少女は少女同様に戸惑いを隠しもせずに互いに顔を見合わせる。

二人にとって、それは紛れも無い事実だから。

その二人の反応に、二人の言葉が偽りでも、妄想でも無いと判断して少女もまた戸惑う。

冗談でもなんでもなく、そんな事は起こっていないのだから。

「えっと、卍巴市不思議町とか、十支王とかは?」

「いえ、聞いた事もありません」

「いやいや、ホンマに?」

「ええ、本当に」

場に、妙な沈黙が満ち、三人が三人互いに顔を見合わせる。

「管理人ちゃん、何が起きた思う?」

「私にはわかんないニャ」

少女は二人の会話に混ざる事も出来ず、一人その会話の行く末を見守る。

「ん〜、ま、良えか」

「え、良いんですか!?」

「ん、いや、まぁ、何がどうなったのかもようわからんし、足洗邸やったらそう言う事もあるやろうなぁって思ったらまた何か起きて何時の間にか戻ってたりするんやないかな、と」

「そんな適当な事で良いんですか?」

「管理人ちゃんは普通よりも知識はあるかもしれんけど現状理解不能。
 オレはちょっと聞きかじった程度の知識しかない一般人、どうしようもないやん」

当然の事を語るように言うその姿に違和を覚えながらも、少女は何かを思案し始める。

「ん、どしたん?」

「……いえ、その、こちらの、猫又の、えっと」

「ああ、管理人ちゃん、オレら自己紹介もしとらん」

「そうだったニャ、私は足洗邸の管理人をしいている竜造寺こまニャ」

「オレは田村福太郎。
 今は万魔殿学園言うところで美術教師をやってる」

「あ、私は麻帆良学園女子中等部三年A組の桜咲刹那と言います」

状況を考えれば名乗る必要も無いのに、二人の視線に押されてか刹那も素直に名乗り頭を下げる。

先まで不穏な空気が漂っていたとは思えぬほどのほのぼのとした空気が漂いつつあるのは誰が原因なのか。

「あ、あのですね、田村さん達がどう言う状況なのかはわかりませんが、魔法やそれに関わる知識は秘匿されなければいけないんです。
 それで、その、このまま好き勝手に歩き回って貰う訳には行かないんですよ」

「あぁ、管理人ちゃんか」

「え、こまニャ?」

申し訳なさそうな刹那の言葉に納得したと言う表情の福太郎に本気でわかっていないらしいこまがキョトンとした顔で二人に問う。

「いや、管理人ちゃん、その耳と尻尾と手、どうにか出来るんか?」

「……無理ニャ」

先ほどまで鉄すらも切り裂けそうな爪が飛び出していたとは思えぬふにふにとした手をじっと見詰め、項垂れるこまを見ながらどうしたものかと二人顔を見合わせ、刹那が何か思いついたのか口を開く。

「そうだ、お二人に会っていただきたい方が居るんですが」

「会うって誰にニャ?」

「麻帆良学園の学園長で、関東魔法協会の理事もなさっている方にです」

そう説明しながら携帯を取り出し、二人の反応を横目に見ながら短縮ダイヤルで電話をかける。

「学園長、お会いして欲しい人達が……ええ、はい、何か事情があるようで…………ええ、詳しい事は直接お聞きになっていただけば、はい、そうです………………わかりました、場所は私が急行した位置からおよそ五百m南に、はい、はい、ではこれで」

「えっと、そんでオレらは?」

何か聞きたそうな顔をしつつも刹那が電話を終えるのを待っていた福太郎は即座にそう問う。

「ああ、すいません、善は急げと思ったもので、つい先走ってしまって」

「や、別にそれはええねん、実際オレらこれからどうするかの指針も無いじょうたいなんやし、なぁ、管理人ちゃん」

「確かに私達に選択肢は無さそうなのニャ」

福太郎の言葉にこまも同意を返すが、そこに篭められている意は多少異なるらしい。

それを示すように福太郎は変わらずのんびりと、こまも先と変わらず何時でも動けるように警戒をしている。

「それでですね、失礼かとは思いますが麻帆良へ向かうにあたって私の他に二名監視の者が付きます」

「ま、それはな」

「仕方ない事なのニャ」

本来ならば不快になるような事を言われながら二人は当然と頷き、あっさりと流してしまう。

「それより、学園都市ってでかいんやろうなぁ」

「え、あぁ、はい、そうですね人口はおおよそ……」

一人申し訳無さそうにしていた刹那も、福太郎の唐突な質問に答えている内にそれも影を潜めて行く。

監視役の人間が到着した三十分後、そこには何とも和やかに世間話をしている三人の姿があったと言う。




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あとがき


はい、力一杯思い付きで書き上げてみました

本来のキャラであれば面白い結果になると思うんです

ただ問題は私がそれを描ききれるかどうかなんですが、精進しますのでどうか見捨てずにいていただけたら幸いです

関西弁が難しいんです、それ以外にも妖しいところは多々あると思いますのでお気付きになられたらツッコミ等お願いします

えっと、他に言うべき事は……思い付かないので、今回はこれで

それでは、また




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